志忠屋繁盛記・6
『それからのトコ&トモ』
この物語に出てくる志忠屋は実在しますが、設定や、登場人物は全てフィクションです。
それから……それからと言うのは、前章で志忠屋の南隣の新米巡査をイジった後のことである。
「自分ら、あんまり純粋なお巡りさんイジるんやないでえ」
タキさんに、方頬で笑いながらオコラレても、言葉も返せないアラフォーであった。ちなみに、アラフォーというと四十歳前を想像しがちであるが、このトコ&トモは、あくまで四捨五入してのアラフォーであるとおことわりしておく……にしては、やることが子どもっぽい。
「大滝はんがパトロールから帰ってきたら出られるで。なんせ、あの秋元巡査は勉強熱心で、大滝はんが帰ってきたら、質問攻めの勉強やからな」
その言葉通り、大滝巡査部長が帰るのを待って、交番の前を何食わぬ顔で通り過ぎ、トコ&トモは、ちょっとだけセレブなカラオケ屋に行った。
小田和正(オフコース)、鈴木雅之、レベッカ、中森明菜、とまぁ、世代的に相応しい曲を一通り歌ってしまい、勢いづいてAKBに挑戦したところでタソガレテしまった。
「どうも『UZA』はあかんな……」
挑戦的な歌い出しが気に入って歌いだしたのだが、「運が良ければ愛し合えるかも~♪」「相手のことは考えなくていい~♪」の、あたりでタソガレだした。
「こんな子ら……ほんまの『UZA』なんか、分からへんねやろねえ……」
「ああ、トコちゃんは、そこでひっかかったか……」
「トモちゃんは?」
そう言って、トコは気の抜けたハイボールを飲み干した。
「それより、トコちゃんが先。なにかあったんでしょ……」
「……なんで分かるのん?」
「いちおう物書きのハシクレだから、今日のトコちゃん明るすぎ」
何を思ったのか、トコは部屋の明かりを半分に落とした。
「……今日、科長をしばいてしもた」
「え、どっちで!?」
トモちゃんは、両手でグーとパーを作って見せた……トコが反応しないので、トモはグーを少し開いて望遠鏡のようにして、トコの顔を覗き込んだ。目が潤んでいるのが分かった。
「トコ……」
「ほんまにウザかってん」
「で、どっち?」
トモは再び、グーとパーを見せた。それにトコはチョキをもって答えた。
「あ、こっちが負けだ」
トモは、パーの左手を下ろした。
「て、ことはグー……」
「で、ヴィクトリー……」
「勝っちゃったんだ……で、手応えなかったんでしょ?」
「なんで、そう先回りして分かるのんよ。グチ言う甲斐があれへんでしょ!」
「グサ……別れた亭主にも同じこと言われた」
「たとえ、自分に間違いがあったとしても、オンナにしばかれて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔は、ないわよ。怒るなり反論するなりしたらええねん。いや、せなあかんねん!」
トモは、カラオケのモニターの音をミュートにして、真面目に答えた。
「だれでも、トコちゃんみたいに仕事に命賭けてやってるわけじゃないからね。あんた、いい加減てのができないヒトだから」
「トモちゃんも、ヒトのこと言われへんでしょうが。娘道連れにして、亭主と別れて大阪くんだりまで落ちてきてからに」
「あ、それ聞き捨てになんないなあ。あたしはね、いい加減だから、亭主と別れたの。一所懸命だったら、亭主しばきたおしてでも、印刷工場立て直したわよ。いい加減だから見切りをつけたの。それに、はるかには強制はしていない。あの子は、自分の意思で、あたしにくっついてきたんだから」
「はるかちゃんは偉い子。それは認めるわ。一見しなやかそうで、なかなか心が強い。なんで、あんたみたいなオンナから、あんなええ子が生まれたんやろ」
「悔しいけどね、はるかは、あたしと元亭主のいいとこだけとって生まれてきたような子だから」
「四十過ぎのオバハンが十八の娘に、もう白旗かいな」
「うん」
「なんか、張り合いないなあ」
「だって、ハナから負けてるやつに張り合ったってくたびれるだけだもん。まあ、そのへんのとこは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』読んでちょうだい」
「もう、三回も読んだ」
「トコはさ、人生の中途から、理学療法士なんかなっちゃったから、なんか理想主義ってとこあんじゃない?」
「そんなんとちゃう」
「ま、たとえ話だけどさ」
「ん?」
「働き蟻ってのが、いるじゃん。よく一列になって、餌だかなんだか運んでるの。あれ、よく観るとね、一割の蟻は、働いてるふりして、サボってんだって」
「ほんま?」
「うん、そいでさ。サボってる奴ばっかり集めてチーム組ませると九割の蟻がきちんと働き出すらしいよ。そいでもってさ、働いてばっかの蟻を集めてチーム組ませると、やっぱ一割のサボりが出るんだって」
「ほんまあ……?」
「ほんとだって、本書くときに、マジ調べたんだから。なんなら、休みの時にアリンコ掴まえて実験してみる?」
「ハハハ、それほどヒマやないけど、なんか元気になってきたわ」
それから、二人はヘビーローテーションで締めくくった。
それから二人は、深夜営業のボーリングに行き、一番ピンを科長に見立てたり、タキさんに見立てたりしてボールを転がした。
「やったー!」
トモが鍛え上げたローダウンリリースでストライクを取ったとき、タキさんは店のシャッターを閉めて、何故かバランスを崩してこけてしまった。
トコが、それを真似して、惜しくも一番ピンをかすめたとき、件の科長は、帰宅途中、家まであと二十メートルというところで、危うくバンに轢かれそうになった。
「こ、こらあ!」
と、叫んだ科長の目には「玉屋」と屋号がかかれていた……。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天などへ。現在ネット書店は在庫切れ、在庫僅少で、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
この物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のない方でもおもしろく読めるようになっています。
『それからのトコ&トモ』
この物語に出てくる志忠屋は実在しますが、設定や、登場人物は全てフィクションです。
それから……それからと言うのは、前章で志忠屋の南隣の新米巡査をイジった後のことである。
「自分ら、あんまり純粋なお巡りさんイジるんやないでえ」
タキさんに、方頬で笑いながらオコラレても、言葉も返せないアラフォーであった。ちなみに、アラフォーというと四十歳前を想像しがちであるが、このトコ&トモは、あくまで四捨五入してのアラフォーであるとおことわりしておく……にしては、やることが子どもっぽい。
「大滝はんがパトロールから帰ってきたら出られるで。なんせ、あの秋元巡査は勉強熱心で、大滝はんが帰ってきたら、質問攻めの勉強やからな」
その言葉通り、大滝巡査部長が帰るのを待って、交番の前を何食わぬ顔で通り過ぎ、トコ&トモは、ちょっとだけセレブなカラオケ屋に行った。
小田和正(オフコース)、鈴木雅之、レベッカ、中森明菜、とまぁ、世代的に相応しい曲を一通り歌ってしまい、勢いづいてAKBに挑戦したところでタソガレテしまった。
「どうも『UZA』はあかんな……」
挑戦的な歌い出しが気に入って歌いだしたのだが、「運が良ければ愛し合えるかも~♪」「相手のことは考えなくていい~♪」の、あたりでタソガレだした。
「こんな子ら……ほんまの『UZA』なんか、分からへんねやろねえ……」
「ああ、トコちゃんは、そこでひっかかったか……」
「トモちゃんは?」
そう言って、トコは気の抜けたハイボールを飲み干した。
「それより、トコちゃんが先。なにかあったんでしょ……」
「……なんで分かるのん?」
「いちおう物書きのハシクレだから、今日のトコちゃん明るすぎ」
何を思ったのか、トコは部屋の明かりを半分に落とした。
「……今日、科長をしばいてしもた」
「え、どっちで!?」
トモちゃんは、両手でグーとパーを作って見せた……トコが反応しないので、トモはグーを少し開いて望遠鏡のようにして、トコの顔を覗き込んだ。目が潤んでいるのが分かった。
「トコ……」
「ほんまにウザかってん」
「で、どっち?」
トモは再び、グーとパーを見せた。それにトコはチョキをもって答えた。
「あ、こっちが負けだ」
トモは、パーの左手を下ろした。
「て、ことはグー……」
「で、ヴィクトリー……」
「勝っちゃったんだ……で、手応えなかったんでしょ?」
「なんで、そう先回りして分かるのんよ。グチ言う甲斐があれへんでしょ!」
「グサ……別れた亭主にも同じこと言われた」
「たとえ、自分に間違いがあったとしても、オンナにしばかれて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔は、ないわよ。怒るなり反論するなりしたらええねん。いや、せなあかんねん!」
トモは、カラオケのモニターの音をミュートにして、真面目に答えた。
「だれでも、トコちゃんみたいに仕事に命賭けてやってるわけじゃないからね。あんた、いい加減てのができないヒトだから」
「トモちゃんも、ヒトのこと言われへんでしょうが。娘道連れにして、亭主と別れて大阪くんだりまで落ちてきてからに」
「あ、それ聞き捨てになんないなあ。あたしはね、いい加減だから、亭主と別れたの。一所懸命だったら、亭主しばきたおしてでも、印刷工場立て直したわよ。いい加減だから見切りをつけたの。それに、はるかには強制はしていない。あの子は、自分の意思で、あたしにくっついてきたんだから」
「はるかちゃんは偉い子。それは認めるわ。一見しなやかそうで、なかなか心が強い。なんで、あんたみたいなオンナから、あんなええ子が生まれたんやろ」
「悔しいけどね、はるかは、あたしと元亭主のいいとこだけとって生まれてきたような子だから」
「四十過ぎのオバハンが十八の娘に、もう白旗かいな」
「うん」
「なんか、張り合いないなあ」
「だって、ハナから負けてるやつに張り合ったってくたびれるだけだもん。まあ、そのへんのとこは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』読んでちょうだい」
「もう、三回も読んだ」
「トコはさ、人生の中途から、理学療法士なんかなっちゃったから、なんか理想主義ってとこあんじゃない?」
「そんなんとちゃう」
「ま、たとえ話だけどさ」
「ん?」
「働き蟻ってのが、いるじゃん。よく一列になって、餌だかなんだか運んでるの。あれ、よく観るとね、一割の蟻は、働いてるふりして、サボってんだって」
「ほんま?」
「うん、そいでさ。サボってる奴ばっかり集めてチーム組ませると九割の蟻がきちんと働き出すらしいよ。そいでもってさ、働いてばっかの蟻を集めてチーム組ませると、やっぱ一割のサボりが出るんだって」
「ほんまあ……?」
「ほんとだって、本書くときに、マジ調べたんだから。なんなら、休みの時にアリンコ掴まえて実験してみる?」
「ハハハ、それほどヒマやないけど、なんか元気になってきたわ」
それから、二人はヘビーローテーションで締めくくった。
それから二人は、深夜営業のボーリングに行き、一番ピンを科長に見立てたり、タキさんに見立てたりしてボールを転がした。
「やったー!」
トモが鍛え上げたローダウンリリースでストライクを取ったとき、タキさんは店のシャッターを閉めて、何故かバランスを崩してこけてしまった。
トコが、それを真似して、惜しくも一番ピンをかすめたとき、件の科長は、帰宅途中、家まであと二十メートルというところで、危うくバンに轢かれそうになった。
「こ、こらあ!」
と、叫んだ科長の目には「玉屋」と屋号がかかれていた……。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天などへ。現在ネット書店は在庫切れ、在庫僅少で、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
この物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のない方でもおもしろく読めるようになっています。