タキさんの押しつけ映画評
『ライフオブパイ』
これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。
なんと表現すればよいのか……。
究極に美しい画面に映し出されるのは、う~むむぅ ファンタジーであり、人が生きるための哲学であり、人と神(と書くより、まさに“GOD”)との純粋な出会いの物語である。
私の拙い文章で この映画を語る事に逡巡を覚えるが……とにかく、読んでいただきたい。
原題、そのまま“LIFE OF PI” すっかり大人になったパイも登場するが、少年パイがインドで成長して 一家がカナダに移住決意するまでと、船が沈没して救命艇で227日漂流、メキシコに漂着するまでがメインのお話。パイは10代の後半という所、半生にもならない時間だが、まさしく“LIFE”なのである。
「虎と少年が 一艘のボートで漂流する」物語なのだが、そこに至るまでの幼年期から青年前期を丁寧に描いてある。少年パイの聡明さ 好奇心の形、父親の薫陶、母の優しさ……これらが後に続く漂流譚に決定的な意味を持つ。
少々脇道にそれるが、“聖書”が日本に入ってきた時、“GOD”に「神」と訳したのがそもそもの間違い。日本人にとって「神」とは あくまでも「神々」であって“絶対者”“創造主”を意味しない。逆に言えば、だからこそ 全くの異教であるキリスト教も「神々の一」として受け入れられたとも言える。
パイも 宗教観のベースはヒンドゥー教であり三千数百の神々がおわす。少年パイは宗教に対してニュートラルであり、キリスト教にもイスラムにも素直に興味を持ち、吸収する。
船が沈んで漂流するうち、再度 嵐に出会う。その嵐の中にパイは“GOD”を見る。ヴィシュヌでもヤハウェでもアラーでもない、ただ“GOD”としか表現できぬ存在を感じる。
いやいや、けっして宗教映画ではないが、へたに説教臭い映画よりも よっぽど信仰へと至る道が示されている。原作は2冊あり、上巻まる一冊、少年パイの生活が描かれているらしい(購入したけど未読)、監督アン・リー(ブロークバック・マウンテン)は この部分の映像化の方にこそ、後半の漂流譚以上の神経を使っている。監督候補の中にナイト・シャマランがあがった事もあったようで、これこそ天の配剤 シャマランなんかに撮らせたら駄作にすらならなかっただろう。
アン監督は 「今作のためにこそ3Dがあった」的な事を語っているが、これは業界発言。2Dを見た(3Dは吹き替えのみだったしね)が、充分に美しく 深度のある画面……殊に水(海)の表現が素晴らしい、パイの目の前で沈みゆく船の残酷な美しさ、パイが“GOD”を感じる海は真逆な砂漠を思わせる。母なる海でありながら圧倒的な荒涼を見せる、それは絶対的な不毛であり、死の荒野である。 “唯一神”のイメージは砂漠にしか生まれない、原作者ヤン・マーテルにはこの確信があり 監督はそれを映像化する事に腐心している。
後半の映像の肝は3Dなんかではなく“CG合成”の信じがたいまでの進化である。パイと共に漂流するベンガル虎(なんと“リチャード・パーカー”という名前、この名前には物語で語られる以外に意味があるのだが……それはパンフレットで読んで下さい)はまことに生きていて 救命艇の中にリアルに存在している、ここまでくると 映像マジックと言うより“奇跡”である。監督の手腕と共にCG技術者に万雷の拍手を贈りたい。
台湾に有る、おそらく世界最大の撮影用プールと、ブルーバック合成があれば作られる映像ではあるが、天才的センスとこだわり無くして創造しうる画面ではない。断るまでもないが、頭ではカラクリが解ってはいても、スクリーンに現れた海は本物としか思えない、圧倒的存在感である。
物語終了間近、パイの口から全く違うもう一つの物語が語られる。まるでミステリーだが、ここでどちらが真実なのかなどと考える必要はない。このもう一つのストーリーは、あくまでも パイと虎との絆を補強するものと捉えたい。
元より、本作をご覧になった方の感性の問題である。感性の在りようによって 総てのシーンは様々にそ
の意味を変化させるだろう。優れた映像は、優れた本と同じく 触れた人々に その人にしか見えない世界を開いて見せる。どうか 存分に奇跡の映像をお楽しみ下さい。そして本作があなたの中に何を刻むか……それは あなただけの宝物になるのです。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天などへ。現在ネット書店は在庫切れ、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではプレミア価格の中古しか出回っていません。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
60分劇5編入り 定価1365円(本体1300円+税)送料無料。
お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
『ライフオブパイ』
これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。
なんと表現すればよいのか……。
究極に美しい画面に映し出されるのは、う~むむぅ ファンタジーであり、人が生きるための哲学であり、人と神(と書くより、まさに“GOD”)との純粋な出会いの物語である。
私の拙い文章で この映画を語る事に逡巡を覚えるが……とにかく、読んでいただきたい。
原題、そのまま“LIFE OF PI” すっかり大人になったパイも登場するが、少年パイがインドで成長して 一家がカナダに移住決意するまでと、船が沈没して救命艇で227日漂流、メキシコに漂着するまでがメインのお話。パイは10代の後半という所、半生にもならない時間だが、まさしく“LIFE”なのである。
「虎と少年が 一艘のボートで漂流する」物語なのだが、そこに至るまでの幼年期から青年前期を丁寧に描いてある。少年パイの聡明さ 好奇心の形、父親の薫陶、母の優しさ……これらが後に続く漂流譚に決定的な意味を持つ。
少々脇道にそれるが、“聖書”が日本に入ってきた時、“GOD”に「神」と訳したのがそもそもの間違い。日本人にとって「神」とは あくまでも「神々」であって“絶対者”“創造主”を意味しない。逆に言えば、だからこそ 全くの異教であるキリスト教も「神々の一」として受け入れられたとも言える。
パイも 宗教観のベースはヒンドゥー教であり三千数百の神々がおわす。少年パイは宗教に対してニュートラルであり、キリスト教にもイスラムにも素直に興味を持ち、吸収する。
船が沈んで漂流するうち、再度 嵐に出会う。その嵐の中にパイは“GOD”を見る。ヴィシュヌでもヤハウェでもアラーでもない、ただ“GOD”としか表現できぬ存在を感じる。
いやいや、けっして宗教映画ではないが、へたに説教臭い映画よりも よっぽど信仰へと至る道が示されている。原作は2冊あり、上巻まる一冊、少年パイの生活が描かれているらしい(購入したけど未読)、監督アン・リー(ブロークバック・マウンテン)は この部分の映像化の方にこそ、後半の漂流譚以上の神経を使っている。監督候補の中にナイト・シャマランがあがった事もあったようで、これこそ天の配剤 シャマランなんかに撮らせたら駄作にすらならなかっただろう。
アン監督は 「今作のためにこそ3Dがあった」的な事を語っているが、これは業界発言。2Dを見た(3Dは吹き替えのみだったしね)が、充分に美しく 深度のある画面……殊に水(海)の表現が素晴らしい、パイの目の前で沈みゆく船の残酷な美しさ、パイが“GOD”を感じる海は真逆な砂漠を思わせる。母なる海でありながら圧倒的な荒涼を見せる、それは絶対的な不毛であり、死の荒野である。 “唯一神”のイメージは砂漠にしか生まれない、原作者ヤン・マーテルにはこの確信があり 監督はそれを映像化する事に腐心している。
後半の映像の肝は3Dなんかではなく“CG合成”の信じがたいまでの進化である。パイと共に漂流するベンガル虎(なんと“リチャード・パーカー”という名前、この名前には物語で語られる以外に意味があるのだが……それはパンフレットで読んで下さい)はまことに生きていて 救命艇の中にリアルに存在している、ここまでくると 映像マジックと言うより“奇跡”である。監督の手腕と共にCG技術者に万雷の拍手を贈りたい。
台湾に有る、おそらく世界最大の撮影用プールと、ブルーバック合成があれば作られる映像ではあるが、天才的センスとこだわり無くして創造しうる画面ではない。断るまでもないが、頭ではカラクリが解ってはいても、スクリーンに現れた海は本物としか思えない、圧倒的存在感である。
物語終了間近、パイの口から全く違うもう一つの物語が語られる。まるでミステリーだが、ここでどちらが真実なのかなどと考える必要はない。このもう一つのストーリーは、あくまでも パイと虎との絆を補強するものと捉えたい。
元より、本作をご覧になった方の感性の問題である。感性の在りようによって 総てのシーンは様々にそ
の意味を変化させるだろう。優れた映像は、優れた本と同じく 触れた人々に その人にしか見えない世界を開いて見せる。どうか 存分に奇跡の映像をお楽しみ下さい。そして本作があなたの中に何を刻むか……それは あなただけの宝物になるのです。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天などへ。現在ネット書店は在庫切れ、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではプレミア価格の中古しか出回っていません。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。
青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。
大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』
高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。
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お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351