セレクトエッセー・1
『四つ葉のクローバー』
四つ葉のクローバーを摘んだことありますか……?
ものごころがついたころ、社宅のとなりにKちゃんという可愛い子がいました。
苗字は、昨年までAKB48のセンターをやっていた子と同じです。
よく、ママゴトのつきあいをさせられました。犬の散歩のつきあいもさせられました。
ぼくよりも一個としうえということもありましたが、とにかくKちゃんにはかないません。
笑顔がとびきりいいのです。ちょっと不二家のペコちゃんに似ていました。
ちょっぴり右のくちびるが上がってえくぼの笑顔になります。とてもチャーミングでした。
ときどき、空き地や公園でお花摘みなんかもやらされました。
「四つ葉のクローバー探そ」
「うん」
頼まれる……というか、笑顔で命じられるとことわれませんでした。
Kちゃんは、すぐに四つ葉のクローバーを見つけます。
ぼくは、一つも見つけられませんでした。
Kちゃんは、中学に入ったころに引っ越ししました。
中学では、学年もちがい、あまり会うこともありませんでした。
ただ、うわさでは、勉強もよくできて、可愛さにみがきがかかり、男の子にも評判でした。
そんなKちゃんが、まぶしくて口もきけませんでした。
ぼくには、Kちゃんは四つ葉のクローバーでした。
高校に入って、教室で友だちとしゃべっていると、視線を感じました。
「むっちゃん、ちゃうのん……?」
教室の入り口で、目を細めてKちゃんがいました。
まさか、同じ高校だとは思わなかったので、ひさびさに話しました。
「なんで、そんな目ぇ細めんのん?」
「うん、ちょっと目ぇわるなって、メガネ替えてるとこ」
話題は、いつのまにか四つ葉のクローバーの話になりました。
四つ葉のクローバーというのは、偶然にはできないそうです。
葉っぱの出る成長点というところを、適度に踏みつけられてできるそうです。
中には、せっかく四つ葉になったところを、踏みしだかれるものもあるそうです。
だから、人が適度に歩いて踏みつけていそうなところがポイント。
Kちゃんは、十何年かぶりで、右のホッペにえくぼをつくって、教えてくれました。
ぼくは、Kちゃんの卒業式で、送辞を読みました。
送辞を読んで、席にもどる途中、ほんのちょっとKちゃんと目が合いました。
あいかわらずの、細目。でも、緊張して笑顔ではありませんでした。
それが、Kちゃんを見た最後になりました……。
「Kちゃん、亡くなったんやて」
母がひっそりと言いました。
脳腫瘍だったようです。
視力の低下が止まらないので、専門の先生に診てもらいました。
もう、手遅れだった……お通夜から帰ってきた母が、そう言いました。
四つ葉のクローバーは、適度に踏みつけられることでできます。
Kちゃんは、とても大事なことを教えてくれました。
生きていたら、この三月で還暦。
四つ葉のクローバーの還暦になるんやなあ……。
そんなことを思い出した……お正月のしめくくりでした。
『四つ葉のクローバー』
四つ葉のクローバーを摘んだことありますか……?
ものごころがついたころ、社宅のとなりにKちゃんという可愛い子がいました。
苗字は、昨年までAKB48のセンターをやっていた子と同じです。
よく、ママゴトのつきあいをさせられました。犬の散歩のつきあいもさせられました。
ぼくよりも一個としうえということもありましたが、とにかくKちゃんにはかないません。
笑顔がとびきりいいのです。ちょっと不二家のペコちゃんに似ていました。
ちょっぴり右のくちびるが上がってえくぼの笑顔になります。とてもチャーミングでした。
ときどき、空き地や公園でお花摘みなんかもやらされました。
「四つ葉のクローバー探そ」
「うん」
頼まれる……というか、笑顔で命じられるとことわれませんでした。
Kちゃんは、すぐに四つ葉のクローバーを見つけます。
ぼくは、一つも見つけられませんでした。
Kちゃんは、中学に入ったころに引っ越ししました。
中学では、学年もちがい、あまり会うこともありませんでした。
ただ、うわさでは、勉強もよくできて、可愛さにみがきがかかり、男の子にも評判でした。
そんなKちゃんが、まぶしくて口もきけませんでした。
ぼくには、Kちゃんは四つ葉のクローバーでした。
高校に入って、教室で友だちとしゃべっていると、視線を感じました。
「むっちゃん、ちゃうのん……?」
教室の入り口で、目を細めてKちゃんがいました。
まさか、同じ高校だとは思わなかったので、ひさびさに話しました。
「なんで、そんな目ぇ細めんのん?」
「うん、ちょっと目ぇわるなって、メガネ替えてるとこ」
話題は、いつのまにか四つ葉のクローバーの話になりました。
四つ葉のクローバーというのは、偶然にはできないそうです。
葉っぱの出る成長点というところを、適度に踏みつけられてできるそうです。
中には、せっかく四つ葉になったところを、踏みしだかれるものもあるそうです。
だから、人が適度に歩いて踏みつけていそうなところがポイント。
Kちゃんは、十何年かぶりで、右のホッペにえくぼをつくって、教えてくれました。
ぼくは、Kちゃんの卒業式で、送辞を読みました。
送辞を読んで、席にもどる途中、ほんのちょっとKちゃんと目が合いました。
あいかわらずの、細目。でも、緊張して笑顔ではありませんでした。
それが、Kちゃんを見た最後になりました……。
「Kちゃん、亡くなったんやて」
母がひっそりと言いました。
脳腫瘍だったようです。
視力の低下が止まらないので、専門の先生に診てもらいました。
もう、手遅れだった……お通夜から帰ってきた母が、そう言いました。
四つ葉のクローバーは、適度に踏みつけられることでできます。
Kちゃんは、とても大事なことを教えてくれました。
生きていたら、この三月で還暦。
四つ葉のクローバーの還暦になるんやなあ……。
そんなことを思い出した……お正月のしめくくりでした。