大橋むつおのブログ

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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『舟を編む』

2013-04-13 17:30:04 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『舟を編む』


この映画評は、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですがもったいないので、本人の承諾を得て転載したものです。


 とっても優しく 素敵な映画でした。 と共に安易に言葉を選んで喋ったり書いたりするのが ちょっと怖く成りました。

 原作は長めの中篇位の作品で、「まほろ~」なんかでもそうですが 三浦しをんの小説は「もうちょっと書き込めばいいのになぁ」と思わせながら 読後に一種独特な満足感を与えてくれます。  映画は、この小説の「もうちょっと」を埋めています。原作と映画が互いに補完しあうのは誠に幸せな現象です、めったにお目にはかかれません。
 ですから、どちらが先でもいいので 是非とも映画と小説 どっちにも接する事をお薦めします。私の感覚からすると、本作は原作を忠実に画像化していますが テイストが違っています。小説では“辞書編集室には外界とは異質な時間が流れており、人をして ゆっくりと「たゆたう存在」に変化させる病原菌に満たされている”主人公/馬締(松田龍平)は、元々保菌者だった感はあるが 配属即感染……以後 強烈な宿主となり 触れる者総てに影響を及ぼして行く。と言うように読める。
 映画は もっと1対1の人間同士が互いに影響しあう作り方に成っており、原作とは少し違ったテイストを持っている。 結果、編集室独特の時間はあまり感じられなくなったが 映画のエンタメ性はぐんと上がった。監督の石井裕也は まだ30歳、これまでの作品は ハッキリ言って嫌いだったが……これも出会いの結果なのだろうか 同じ人の作った映画とは思えない。
 映画では 馬締が主人公である事は変わらないが、登場人物があるがままに 適材適所 居るべき場所に嵌っていて キチンと自分の役割を果たしている。これはキャスティングの妙でもあって、各キャラクターが「この人以外考えられない」と思える。キャラクターが「老人と若者」に二分されるので、各人の色をハッキリさせる手法を採ったのだろう、その意味で脚本が素晴らしい。
 小説では「年代」が提示されていないが 本作はスタートを1995年とし15年後をラストとしている。すなわち、原作の普遍性をある程度犠牲にして現代に接続してある。これも映画のエンタメ性に貢献している。
 これは監督の手腕なのか、俳優の力量なのか微妙な所だが 老優と若手の演技バランスが これまた非常に心地よい。松田の演技は彼独特のギリギリ感(判っていただけますよね)で演じられるが これをベテラン勢が包み込むようにして受け止めている。まず渡辺美佐子の 下宿のバァチャンが抜群……誤解のないように、松田をくさしているのではない。龍平は本作でハッキリ 父・優作を凌駕したと見た。存在感ではまだまだオヤジの壁を越えられないにせよ 優作が悩んで悩んで……結果、大勘違いした役柄を ヒョイと簡単につかんでしまった。(簡単ってのは龍平に失礼?)
 助演の若手も それぞれに妙味を発揮している。池脇千鶴はいつも通りの巧さ、出番の少ないのが勿体無い。宮崎あおいは毎度の形、オダギリジョーは恐らく男性サラリーマンの共感を一手にさらう役柄で 演じきったと言うよりは ごく自然に見える所がさすが。ベテラン陣では、小林薫が渋い もはやアングラ出身の匂いなどどこにもない(アングラをくさしているのではない……しつこい?)加藤剛と八千草薫のカップリングは絵に描いたように嵌っているし、加藤と伊佐山ひろ子が同じスクリーンに並んでいるのは 昔なら信じられない。
 これらの要素が絶妙に混ざり合って本作を構成している、見ていて心地悪かろう筈がない。小説もベストセラーだし、映画もなかなかのエンターテイメントである。辞書編纂ってのは 地味なようでエキサイティングな作業なのかもしれない。 当然 愛の物語ではあるが、見る者が 己の仕事を見つめ直すキッカケになる作品でもある。例によって ウダウダ言うとりますが、ムッチヤ面白い映画です!華丸推薦。


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