大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『エヴァリン・許されざる者』

2013-09-14 08:11:58 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『エヴァリン・許されざる者』


これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


ウルヴァリン
 まぁ~無邪気に作ってありますわ。これの原作は聞く所によると、ウルヴァリンが日本にやってきたのはエグゼビア達と知り合う前で、日本でであったマリコと結婚し、マリコは死んでしまう……というストーリー。映画はX-MEN ファイナルの後の設定で、ジーンを自ら殺してしまったトラウマに苦しんでいる。
 このシリーズ、基本 戦う相手は同じミュータントなんですが、今回は粗方が普通の人間。だからウルヴァリンの身体に異常を持たせたり、相手が剣の達人に忍者だったりと苦労しとります。新幹線の屋根の上で戦うヤクザが「あんた、まさかなスーパーマン?」的強さだったのは笑いましたけどね。ヤクザってば、葬式でマリコをさらおうとするヤクザ達が、変装していた僧服を脱いでモンモン剥き出しで走り回るのには、笑うの忘れて呆れけえりましたけどね。
 ただ、日本に対するイメージは、まだまだ混乱しているんだろうなぁってのが画面の端々から見えて来ます。日本は映画撮影に対して規制が多く、妥協しながら撮影するからどうしてもこうなっちゃうんでしょう。世界に理解されたいなら、関係省庁は真剣に考えた方がよろしいでっせ。
 本作は、ほんまにゴチャゴチャ言わんと、日本が舞台のアメコミを読んでるつもりで無心に見ましょう。 そうです! この日本は私たちの日本では有馬線!パラレル日本のお話です。信じなさい!信じる者は救われるのでありますぞ。
 所で、日本人ヒロインがなんで二人ともモデルさんなんですかねぇ。いや、頑張ってはるんですけどね(殊にアクション)、アメリカのスレッドでは、えらく褒められているらしいんですが……ドラマのリアルを担保できていない。そんなもん、当たり前なので彼女たちを責める気にはならんのですが、キャスティング担当は何を考えていたんでしょうか?
 もっとビックリしたのが、ウルヴァリンとマリコのラブシーンは追加されたんだとか……始めの企画では何を作るつもりだったんでしょうねぇ??????


許されざる者
C・イーストウッドの名作ウェスタンを同時代(1880年)の北海道に舞台を移してリメイクした。イーストウッドは、この作品でアカデミー 作品/監督/助演男優/編集賞を始め、各賞を総ナメにしている。
 ストーリーは原作映画をなぞって展開するのだが、全く違う映画のように見えた。銃も使うが、基本刀での闘い……その分、人の生き死にの距離感が近い。
 李相日監督は「悪人」と本作しか見ていない(他に「フラガール」)のだが、「痛い」作品を作る人ですねぇ。「悪人」は、殺人犯が主人公で、本来 こいつが一番悪い人なわけですが、「そうなの?もっと悪い奴はいないのかい?」という構造でした。本作も、女郎の顔を切り裂いた奴/それを殺しに来る奴ら/法執行官でありながら、法より自分の感覚を優先する奴……登場するキャラクター総てが“許されざる者”……それは人間存在の内面をさらし出せば、皆 それぞれに“許されざる内面”を持っているとの告発であって、これは原作映画とも共通している。 イーストウッドは原作を撮影しながら「こんな暗い映画を誰が見るんだ」と自問しながら撮ったと語っている。しかし、原作を見ていて そこまでの暗さは感じなかった。それは当時のアメリカが「自警国家」であり、「法秩序の支配下にある」とは とても言えない状況であった所から、全員「許されざる者」であるとはいえ、その罪には微妙な軽重があり。娼婦の苦しみ、賞金稼ぎの主人公の正義がわずかながらも勝って見える。粗方が死んでしまった後、生き残った人々が「それでも前向きに生きて行くのさ」というメッセージが読み取れる所からも、そんなに暗いイメージはなかった。“暗さ”というよりは賞金稼ぎ(イーストウッド)と保安官(ハックマン)の、内に秘めた「虚無対虚無」という構図の方が恐ろしく見えた。
 この意味で、本作の方が「全員 許されざる者」という構図はクローズアップされている。これは日本が江戸時代以降、ずっと法治国家であったからで(現在の法秩序感覚からして如何に歪であろうとも)、その“法秩序”が届き切っていない北海道が舞台であるという所に、原作より恐怖がある。
 原作をご存知の向きには、原作世界に「地獄の黙示録」のカーツ帝国を重ね、そこに 昭和残侠伝の人切り秀次的“謙さん”が殴り込みをかける……うん、そんな感じで見ていただけると分かり易くなります。 アメリカが南北戦争終焉、リンカーン暗殺と近代の誕生の苦しみにあった時期、日本も徳川から薩長への交代 時期の混乱状態、いずれも混沌の中にあった。とは言え、原作登場人物の抱えていた虚無よりも、本作に現れる一人一人の虚無感の方が、よりリアルに近く感知できると思う。
 決して安易なリメイク作品ではない、日本人のための“許されざる者”である。  渡辺謙/佐藤浩市/江本明/柳楽優弥の絡みは絶品、原作でE・ハリスの演じた役どころを演じる國村隼も迫力がある。
 炎上する娼館(ほんとにセットを燃やしたんだと思う)の前を馬に乗った男が去って行くシーンに有無をいわせぬ圧力がある。カタルシスでも迫力でもない。前述の賞金稼ぎと保安官の虚無の対決は本作では後退しているが、それ以上に主人公/釜田十兵衛の虚無と悲しみがクローズアップされる。それだけに原作ラストにあった僅かな救いが本作にはない。これは辛い幕切れではあるが、映画の描き方の文法からすると、映っていない部分で……本作には、原作に該当しない部分がある。現場に向かう三人があるアイヌの村で 屯田兵の暴力を目撃するシーンがそれ。李監督がアイヌの歴史を調べた結果 挿入したシーンなのだが、在日半島人を重ね合わせたのだと思う。子供を別にすれば唯一“責められざる人々”……しかし、力を持たぬが罪との告発もある。
 どこを切り取っても一筋縄ではいかない作品です。本作をご覧になるに際して、敢えて原作映画を見る必要はないと申し添えておきます。どうか、真っ正面から受け止めて下さい。


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