大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・〝そして 誰かいなくなった〟

2017-09-01 18:04:40 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・1
〝そして 誰かいなくなった〟
 


「へへ、どの面下げてやって来ちゃった!」

「キャー、恭子!」
「来てくれたのね!」
「嬉しいわ!」
 などなど、予想に反して歓待の声があがったので、あたしはホッとした。

 正直、今朝まで同窓会に行くつもりは無かった。
 あたしは、高校時代、みんなに顔向けできないようなことをしている。

 校外学習の朝、あたしは集合場所には行かずに、そのまま家出した。
 FBで知り合った男の子と、メルアドの交換をやって、話がトントン拍子に進んで家出の実行にいたるのに二か月ほどだった。

 校外学習の朝に家出するのは彼のアイデアだった。

「なに来ていこうかな~♪」
 てな感じで服を探したり、バッグに詰め込んでも親は不審には思わない。
「帰りにお茶するの」
 そう言うと、お父さんは樋口一葉を一枚くれた。同じことを兄貴に言うと一葉が二葉になった。
「行ってきまーす!」
 そして担任の新井先生には「体調が悪いので休みます」とメールを打つ。

 これで、あたしの行動は、10時間ぐらいは自由だ。

 彼は品川まで迎えに来てくれていた。それまでに、たった二回しか会ったことはなかったけど、ホームで彼の顔を見たときは涙が流れて、思わず彼の胸に飛び込んだ。携帯は、その場で捨てて、彼が用意してくれた別の携帯に替えた。
 二人揃って山梨のペンションで働くことは決めていた。でも、一日だけ彼と二人でいたくって、甲府のホテルに泊まった。ホテルのフロントで二人共通の偽の苗字。下の名前はお互いに付け合った。あたしは美保。彼は進一。なんだか、とっても前からの恋人のような気になった。部屋に入ったときは、新婚旅行のような気分だった。

 そして、その夜は新婚旅行のようにして一晩をすごした……。

 彼の正体は一カ月で分かった。
 同じペンションで働いている女の子と親しくなり、お給料が振り込まれた夜に二人はペンションから姿を消した。
 あたしはペンションのオーナーに諭されて、一カ月ぶりに家に帰った。捜索願は出されていたが、学校の籍は残っていた。
 学校に戻ると、細部はともかく男と駆け落ちした噂は広がっていた。表面はともかく学校の名前に泥を塗ったから、駆け落ちの憧れも含めた好奇や非難の目で見られるのは辛かったが、年が変わり三学期になると、みんな、当たり前に対応してくれるようになった。

 そして、卒業して五年ぶりに同窓会の通知が来た。

 家出の件があったので、正直ためらわれたが、夕べの彼……むろん五年前のあいつとは違うけど、ちょっとこじれて「おまえみたいなヤツ存在自体ウザイんだよ!」と言われ、急に高校の同窓生たちが懐かしくなり、飛び込みでやってきた。

 来て正解だった。昔のことは、みんな懐かしい思い出として記憶にとどめていてくれた。
「みんな、心の底じゃ恭子のこと羨ましかったのよ」
「あんな冒険、ティーンじゃなきゃできないもんね」
「もう、冷やかさないでよ」
 そんな会話で済んでいた。

 そのうち、幹事の内野さんがクビをひねっているのに気づいた。

「ウッチー、どうかした?」
 委員長をやっていた杉野さんが聞いた。
「うちのクラスって、34人だったじゃない。欠席連絡が4人、出席の子が29人。で、連絡無しの恭子が来て、30人いなきゃ勘定があわないでしょ?」
「そうね……」
「会費は恭子ももらって30人分あるんだけどね」
「だったら、いいじゃない」
「でも、ここ29人しかいないのよ」
「だれか、トイレかタバコじゃないの?」
「だれも出入りしてないわ」
「じゃ、名前呼んで確認しようか?」
「うん、気持ち悪いから、そうしてくれる」

 で、浅野さんから始まって出席表を読み上げられた。あたしを含んで全員が返事した。

「ちゃんと全員いるじゃない」
「でも、数えて。この部屋29人しかいないから」
「え……」
「名簿、きちんと見た?」
「見たわよ、きっかり30人。集めた会費も三十人分あるし」
「……もっかい、名前呼ぼう。あたし人数数えるから」

 杉野さんの提案で、もう一度名前が呼ばれた。

「うん、30人返事したわよ」
「でも、頭数は29人しかいないわよ」
「そんな……」

 今度は全員が部屋の隅に寄り、名前を呼ばれた者から、部屋の反対側に移った。
「で、あたしが入って……29人」
 内野さんが入って29人。名簿は30人。同姓の者もいないし、二度呼ばれた者もいない。

「だれか一人居なくなってる……」
 一瞬シンとなったが、すぐに明るく笑い出した。
「酔ってるのよ。あとで数え直せばいいじゃん」
 で、宴会は再び盛り上がった。

「ちょっと用足しに行ってくるわ」
 あたしは、そう行ってトイレにいった。

 で、帰ってみると、宴会場には誰もいなかった。

「あの、ここで同窓会してるN学院なんですけど……」
 係の人に聞くと、意外な答えがかえってきた。
「N学院さまのご宴会は承っておりませんが」
「ええ!?」
 ホテルの玄関まで行って「本日のご宴会」と書かれたボードを見て回った。N学院の名前は、どこにもなかった。

 それどころか、自分のワンルームマンションに戻ると、マンションごと、あたしの部屋が無くなっていた。
 スマホを出して、連絡先を出すと、出した尻から、アドレスも名前も消えていく。そして連絡先のホルダーは空になってしまった。

「そんなばかな……」

 すると、自分の手足が透け始め、下半身と手足が無くなり、やがて体全体が消えてしまった。

 こうやって、今夜も、そして誰かいなくなった……。



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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・2〔段ボール一杯の幸せ……💖〕

2017-09-01 06:20:00 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・2
〔段ボール一杯の幸せ……💖



 長曾我部先輩は山之内先輩の告白をこう処理した。

 夜になってパソコンでFacebookのチェックをしていると、お友だち登録している長曾我部先輩のメッセに出くわした。山之内先輩と親しい友達になっていた。
 うまい解決だと思う。気楽で肩肘張らないで、かつ社会的にオープン。ま、その気になればダイレクトメッセ送れるし、ドライな距離感の取り方やと思った。

 小さな段ボール箱いっぱいの幸せが、山之内先輩に届いたと思った。

 今日は授業が終わってから、延び延びになっていた部室の整理をやった。
 部室といっても体育館兼講堂の二階の倉庫。創立以来のガラクタでいっぱい。本当は気候のいい秋にやっておけばよかったんだけど、コンクールの準備などで後手後手になり(という言い訳)よりにもよって、こんな寒い日にやる羽目になった。
 あやめとはるな、それにあたしという、本来の演劇部三人でやった。

「訳の分からんものは捨てる!」という覚悟で始めた。

 で、やり始めると、古くてコチコチになったペンキや糊は捨てることが、あっさり決まったが、それ以外のものは「いつか使える!」と思い始めると、ただ場所の移動だけになってしまう。ただ、かなりの肉体労働になるので、寒さが気にならなくなったのが何よりだった。
「先輩、これなんですか?」
 あやめが、なにか鉄のオブジェみたいなのを出してきた。
 手に持つとかなりの重さ。アイロンを逆さにしたような形で、がっちりした土台が付いている。
「昔、賞かなんかとった時の記念品とかじゃないですか?」
 それにしては、賞のタイトルを書いたプレートめいたものが、どこにもない。

「それは金とこだよ」

 いきなり入口の方で声がしたので、たまげた。歳の頃なら還暦過ぎくらいのオッサンが怪しげに入り口に立っていた。
「入部したての一年生は、みんなこれをやらされた。こうやってね……曲がった釘を真っ直ぐにするんや。あのころ演劇部は金なかったからな……」
 そういうと、オッサンは、そこらへんにある釘を手際よく、真っ直ぐに叩き直した。
「曲がった釘は、もうないんかいな?」
「あ、曲がったのは捨てますから……」
「ものを大事にせんようになったなあ」
 オッサンは、怪しむあたしらをしり目に、勝手にあっちこっちを触るというか、かき回し始めた。

「あった。まさかとは思うたけど、残ってたんやなあ!」

 オッサンは、日に焼けた段ボール箱を幸せそうに、取り出した。
「なんですのん、それは?」
「段ボール一杯の幸せや……!」

 オッサンが、中を開けると……女もののパンツが折り目正しく詰め込まれてた。

 な、なんや、このオッサンは!?


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