小説府立真田山学院高校演劇部・4
〔パンツいっぱいの思い出〕
「退学寸前にやりたいことやろ思うてな……」
場所を校長室に改めて、先輩作家の高橋さんの話が続いた。
「演劇部が、コンクールの演目と人材に困ってるいう話聞いてなあ……安うて、意表をついて、おもろい芝居書いたろ思たんや」
「先輩、演劇部の岸田さんに気ぃありましたからね」
校長先生も容赦がない。
「ハハ、その甲斐あって、今はオレの嫁はんやけどな」
高橋いう先輩は、どうも、あたしらの想像とケタが違うみたいや。
「なんで、あんなパンツいっぱいの芝居やろ思いはったんですか?」
「金かからんさかいにや」
意表をつく言葉やった。あれだけのパンツ集める(どう見ても新品)のは、かなりのお金がかかりそうや。
「母ちゃんがパンツ加工の内職やっとってな。ほら、女もののパンツて前後が分かるように、小さいリボンが付いてたりするやろ。あれ付ける内職や」
「そんな内職あるんですか?」
「うん、あれは天止め言うてな。案外むつかしい。あそこに、どんなリボン付けるかで、出来がまるで違う。ほら、こっちのパンツのリボンが、これに付いてたらどんな感じや?」
高橋先輩は、なんのてらいもなく二枚のパンツを示した。淀先生は俯いてしもた。ちょっとカマトト。
「収まるとこに収まってるいう感じやろ。画竜点睛いうやっちゃ」
先生らが吹きだした。あやめとはるなは『画竜点睛』という言葉の意味が分からへんのでぽかんとしてる。
「そやけどな……これこれ。このスキャンティーに付いてるのを、このベ-シックなやつに付けると、微妙に大人に近い匂いになる。このへんの見極め方が母ちゃんの目は一級品やった!」
あたしは、なるほどと思うた。高校三年ぐらいになったら、こういうの穿いてもええなあと感じる。
「で、これがなんで、芝居になったんですか?」
「母ちゃんの内職卸してくれてた会社が潰れてなあ。で、現物支給されたんがこれや。森光子のドラマみたいに行商に行くわけにもいかへんしな。で、しばらく母ちゃんは無職になった。そんな環境で高校四年生やってるわけにいかへんさかいな。で、今のカミさんに頼まれて、高校演劇では絶対やらへん芝居やってみたんや」
「どんな芝居なんですか?」
部室にある台本は全部読んでるけど、パンツの出てくる本はあらへん。
「まんまや。パンツの内職やってる親が仕事なくなって、子供が苦労する。子どもは、それ苦にして学校を辞めよる。親はやっと次の仕事見つけて、生活の算段つけてくる。思いやりの行き違い。それで、ラストは300枚のパンツで万国旗。途中には子供……言うても娘、で、親は男の父子家庭。途中でパンツの行商の決心した娘がスカートたくし上げてパンツ見せるシーンがある。受けたし泣かしたなあ……観客は支持してくれたんやけど、審査員が反対しよってなあ……講評の段階で大論争やったけど、カミさんが『もうええ』言いよってなあ。『審査基準がないから、こないなるんです。そやけど、これが今のルールやったら、もうええです。お客さんには通じましたから』それから、審査基準ができたんやけどな。また、無くなったみたいやなあ」
忘れかけてた悔しさが蘇ってくる。
「そうや、あの芝居、もう一遍やれへんか!?」
「え……!?」
一同がたまげた。
「小屋代やらはオレが出す。もちろん有料公演で、チケ代でちょっとは儲かるぐらいにはする。公演としては一本じゃ弱いから、オレのパンツ芝居と抱き合わせ。これいけるで、さっそく手ぇうっとこ!」
高橋大先輩は、校長室からホールに電話、なんと難波ホールを三日も抑えた。そんで『すみれ』の方は大橋先生に電話して直ぐに潤色ありの上演許可をとってくれはった。
あたしは、スカートめくってパンツ見せる役がきたらどないしょうか心配した。
〔パンツいっぱいの思い出〕
「退学寸前にやりたいことやろ思うてな……」
場所を校長室に改めて、先輩作家の高橋さんの話が続いた。
「演劇部が、コンクールの演目と人材に困ってるいう話聞いてなあ……安うて、意表をついて、おもろい芝居書いたろ思たんや」
「先輩、演劇部の岸田さんに気ぃありましたからね」
校長先生も容赦がない。
「ハハ、その甲斐あって、今はオレの嫁はんやけどな」
高橋いう先輩は、どうも、あたしらの想像とケタが違うみたいや。
「なんで、あんなパンツいっぱいの芝居やろ思いはったんですか?」
「金かからんさかいにや」
意表をつく言葉やった。あれだけのパンツ集める(どう見ても新品)のは、かなりのお金がかかりそうや。
「母ちゃんがパンツ加工の内職やっとってな。ほら、女もののパンツて前後が分かるように、小さいリボンが付いてたりするやろ。あれ付ける内職や」
「そんな内職あるんですか?」
「うん、あれは天止め言うてな。案外むつかしい。あそこに、どんなリボン付けるかで、出来がまるで違う。ほら、こっちのパンツのリボンが、これに付いてたらどんな感じや?」
高橋先輩は、なんのてらいもなく二枚のパンツを示した。淀先生は俯いてしもた。ちょっとカマトト。
「収まるとこに収まってるいう感じやろ。画竜点睛いうやっちゃ」
先生らが吹きだした。あやめとはるなは『画竜点睛』という言葉の意味が分からへんのでぽかんとしてる。
「そやけどな……これこれ。このスキャンティーに付いてるのを、このベ-シックなやつに付けると、微妙に大人に近い匂いになる。このへんの見極め方が母ちゃんの目は一級品やった!」
あたしは、なるほどと思うた。高校三年ぐらいになったら、こういうの穿いてもええなあと感じる。
「で、これがなんで、芝居になったんですか?」
「母ちゃんの内職卸してくれてた会社が潰れてなあ。で、現物支給されたんがこれや。森光子のドラマみたいに行商に行くわけにもいかへんしな。で、しばらく母ちゃんは無職になった。そんな環境で高校四年生やってるわけにいかへんさかいな。で、今のカミさんに頼まれて、高校演劇では絶対やらへん芝居やってみたんや」
「どんな芝居なんですか?」
部室にある台本は全部読んでるけど、パンツの出てくる本はあらへん。
「まんまや。パンツの内職やってる親が仕事なくなって、子供が苦労する。子どもは、それ苦にして学校を辞めよる。親はやっと次の仕事見つけて、生活の算段つけてくる。思いやりの行き違い。それで、ラストは300枚のパンツで万国旗。途中には子供……言うても娘、で、親は男の父子家庭。途中でパンツの行商の決心した娘がスカートたくし上げてパンツ見せるシーンがある。受けたし泣かしたなあ……観客は支持してくれたんやけど、審査員が反対しよってなあ……講評の段階で大論争やったけど、カミさんが『もうええ』言いよってなあ。『審査基準がないから、こないなるんです。そやけど、これが今のルールやったら、もうええです。お客さんには通じましたから』それから、審査基準ができたんやけどな。また、無くなったみたいやなあ」
忘れかけてた悔しさが蘇ってくる。
「そうや、あの芝居、もう一遍やれへんか!?」
「え……!?」
一同がたまげた。
「小屋代やらはオレが出す。もちろん有料公演で、チケ代でちょっとは儲かるぐらいにはする。公演としては一本じゃ弱いから、オレのパンツ芝居と抱き合わせ。これいけるで、さっそく手ぇうっとこ!」
高橋大先輩は、校長室からホールに電話、なんと難波ホールを三日も抑えた。そんで『すみれ』の方は大橋先生に電話して直ぐに潤色ありの上演許可をとってくれはった。
あたしは、スカートめくってパンツ見せる役がきたらどないしょうか心配した。