大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・282『青銅の騎士の秘密』

2025-02-28 16:51:00 | 小説4
・282

『青銅の騎士の秘密』 メグミ 




 ウィ~~~~~~ン


 マブチモーターを電池一本で動かしたようなな音をさせて筋斗雲が離陸していく……高度50ぐらいになるとお尻を振って電池三本分くらいに出力を上げ、そのまま孫大人ひとりを載せて東の空に飛んでいく。

 地上ではテムジンとマヌエリトがアルコールの抜けきれない顔で、女子用ゲルの前では、わたしと東鈴が腕を組んで見送っている。テル博士は昨日の興奮が醒め切らずに、まだゲルの寝床の中だ。

「慌ただしいオッサンだなあ……」

「筋斗雲は折り返しで戻すって言うんだから、帰りはゆったりできるわよ」

 じつは、夕べ遅くに、こっそりと東鈴がゲルの外に出て行った。

 オヤ……誰かと話している。 

 つい聞き耳を立てていると、話し相手は孫大人。

 ほんの五六分だったし、最後は東鈴も大人も笑っていたし、それっきりにして眠ってしまった。

 そして今朝、大人は、テムジンへの挨拶もそこそこに筋斗雲で飛び立ったという次第。

「悟兵も歳なんだけど、ああいうところは子どもみたい……思いついたらすぐに体が動いちゃう」

「そうね、もともと付いてくるつもりは無かったんだもんね」

 大人はお土産のチェックをしていてカーゴの中で眠ってしまって、不可抗力でやってきたんだ。だから、とんぼ返りでも不思議じゃないんだけどね。視界の端の東鈴は微妙に寂しそう。つい、女子高生みたいな意地悪を言ってしまう。

「ひょっとして寂しいかい?」

「んなわけないでしょ! 再起動してからずっと悟兵といっしょだったから、セイセイしてるわよ!」

「あはは、そうなんだ」

「さあ、朝ごはん食べたらスクラップ騎士の調査、行くわよ」

「おお、じゃあ、テル博士起こしに行くか」



 むずかる低血圧博士を起こして、いよいよ二日目が始まった。



「う~ん……どれも微妙に中身が違うのよしゃ」

 これで五体目の青銅の騎士。

 わたしも西之島の主任技師、それには気づいている。

「まだ試作段階で、複数のバージョンがあるんじゃないの?」

「しょれも考えられるけど、どうも精度がねえ……しょれに、このエンジン……」

 エンジンと言っても車やボートのそれじゃない。二トン近くの図体を動かすのに一つや二つのエンジン、あるいはモーターでは不可能だ。関節部に収縮と捻り運動に特化したメタルマッスル(金属筋肉)が装着されていて、それにボディー二か所に設置されているジェネレーターからエネルギーを送って運動させる。制御系のサーキットが首の後ろに付いていて、これが青銅の騎士の弱点で、それを見抜いて、こないだの戦闘(252『朱元尚張り倒される』)ではなんとか倒すことができた。

「う~~ん……なのよしゃ」

 ハンベから当時の映像を出して騎士の残骸と見比べるテル博士。

「このメタルマッスルで、この瞬発力とか速度とか……出てる……んだけじょも……」

「なにか不思議?」

「うん、乗ってる馬との合わせ技で、スピードも打撃力も説明はできるんだけじょもね……」

 たしかに、図体に比べて貧弱なメタルマッスル、しかし、馬の速度と全身の制御系の活用で出せないパワーでもない。

「そのために歩兵にせずに馬に乗せて騎士にしたんじゃ?」

「う~ん……でも違和感が残るのよしゃ……」

 二人であっちの騎士こっちの騎士を調べているあいだ、東鈴は花を摘んで騎士たちのボディーに置いてやっている。

「この騎士たちは類別では作業機械になるんでしょうねえ」

「うん、戦闘に特化した作業機械……」

 そう答えながらパチパチたちを思い出す。

 イッパチ ニッパチ サンパチ

 元々は採掘用の作業機械だったけど、何度も手を加えてロボット同然にしてやり、島の銀行業務を任せるところまでにしてやった。彼らは、もう作業機械とは呼べない、立派なロボット、それ以上かもしれない。

「そうだね、こいつらもロボットと呼んで差し支えないのかもね」

「わたしは、メカニカルなことは分からないけども、この子たち、フォルムとカラーリングはなかなかな気がする」

「メカがショボいから、ミテクレだけでも整えてやったんでしょ。青銅の騎士っていうのはピヨートル大帝の銅像の二つ名でもあるんだからね」

「そうよね、ロボットにだって尊厳があってもいいと思う」

 東鈴のキャラに尊厳という言葉は硬すぎると思ったけど、ここでは相応しい気がした。

「……フフ、メグさんなら一言あると思ったんですけどぉ」

「いや、東鈴こそ雰囲気だったからさ(''◇'')」

 アハハハハハ(ᵔᗜᵔ) (ᵔ▭ᵔ) 

「ねえ、見て、この子のボディ-」

「うん?」

 東鈴が示した騎士は発火したため青いボディーが火に焼かれて一部が青紫色に変色していた。

「レトロバイクのマフラーみたいね……」

 そう言うと、残ったボディーからジェネレーターのケーブルを引っ張ってきて、千切れて開いたままの手に接触させてスパークさせた。

 ヂヂヂヂヂヂ

「せめて手首だけでもね」

 ヂヂヂヂヂヂ ヂヂヂヂヂヂ

 スパークの熱で少しづつ色が変わっていく。

 ゴコン!

「「ワ!?」」

 開いていた手が音を立てて僅かに閉じた。

 それなのよしゃ!

 テル博士がすっ飛んできた! 

 敵を見つけたボスザルを連想してしまった(^_^;)

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

コメント
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