大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・286『ベテラン営業マンの八尾さん』

2025-03-13 10:31:55 | 小説4
・286
『ベテラン営業マンの八尾さん』 ツナカン 




「いやあ、暑ぅてかなんわ(´⚰︎` ) 」

 八尾さんはベンチにケツを下ろすなりネクタイを引き抜いてシャツも第二ボタンまで外し、折り目の効いたズボンも膝までたくし上げ、靴下も脱いで脚を延ばしたっス。

「あ、靴傷まないっすか?」

 足をそのまま脱いだ靴を踏み潰すみたいに載せるっス。

「いやあ、どうせ三月ほどで履きつぶしてしまうさかいなあ……あ、使ぅて悪い、そこの自販機でサイダー買うてきてくれへん、二人分」

「あ、いいっすよ」

「ほれ」

 ハンベを投げてよこす八尾さん。

「ハンベ預かっていいんすか?」

「かめへんかめへん、同じ会社の営業や」

「そうっすか(〃´∪`〃)」

 ハンベってのは昔のスマホ、いや、それ以上の情報端末っス。親子兄弟でもめったに貸し借りしねえっす。中には腕に嵌めずに体に埋め込む者も居るっス。それを入社一か月の自分に渡すっていうのは、ヒューマンリレーションのテクニックとはいえ、なかなかできるもんじゃねえっス。

 八尾さんは三里屯だけじゃなくて、北京と周辺の官公庁や外殻団体に出入りして取引してるっス。本社のある恩智の出身のベテランで、噂では中南海のエライサンたちとも取引があるとか。スゴイっス。そんで、その八尾さんでも会社の売り上げの5%だっていうんだから、シマイルカンパニー恐るべしっス。

 ピ……ガチャ、ゴトン、ドチャ。

「おお……!」

 買ってビックリ玉手箱! いや自販機!

 なんと、リアルアルミカンのサイダーが出てきたっす!

「いやあ、朝陽公園の自販機はレプリケーターじゃないんすね!」

「アハハ、うちの商品や、期間限定やけどな」

「え、青島(チンタオ)飲料ってなってたっスよ」

「うちの取引先に無理言うて作ってもろてるんや」

 グビグビグビ…………プハーー(≧▢≦)(>◇<)!

「製造と流通コストを考えると感無量の爽快さやろ~」

「あ、アハハハ」

「カンカンもパルス樹脂とちごて純粋ボーキサイトのアルミカン。プルトップを引くひと手間もなんかええやろ。プルトップ引くときは、人間、いっしゅん息を詰めるんや。この時の緊張が脳みそに働きかけて『おいしいものを飲む』スイッチが入るんや。カンカン握った時の冷たさと結露の感覚も味わい深いしなあ~」

「そうっすねぇ……しかし、これで五元っすか。利益なんて出ないっしょ?」

「せやから期間限定、もう二年ほどやってみて人気が落ちんようなら家庭用も含めて販路を広げていこと思う」

「なるほどぉ、深慮遠謀なんすねぇ」

「まあ、半分道楽。こんな清涼飲料にも伝統っちゅうかトラッドがある思たら、ちょっと楽しいやろ」

「な、なるほど~(๑°ㅁ°๑)」

「ああ、それと、自分が言うてた漢明の連絡船」

「なんか分かったっすか?」

「牽牛いう船でなぁ、船長はあの時の火星航路を花道に引退しよったらしい。引退後のことはよう分からへんねんけど、また、なんか分かったら知らせるわ」

「あ、あざっす!」

「いや、ほんの小耳に挟んだこと教えただけや、いやあ~サイダーの爽快さで眠たぁなってきたなあ」

「あ、寝てたらいいっス、時間言ってもらったら起こっすから」

「あ、そうかぁ……ほんなら、30分だけ頼むわぁ」

 そう言うと八尾さんは腕組みして大事なものを抱えるような姿勢で寝てしまったっス。

 鳥の声、池を進む手漕ぎボートの音、街の喧騒さえも公園の緑にろ過されて、気持ちのいいバックミュージックっス……。

 あ

 いつの間にか自分も寝ちまって、気付いたら、営業のベテランはとっくに姿がなかったっス。
 


☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
コメント
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