巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
結婚式は大浜カセドラル。
カセドラルと大浜市では呼ぶけど、ナースチャはカテドラルと発音する。
「フランス語では、そう発音するんだよ」
「え、ロシア人がなんでフランス語?」
「ロシアの宮廷はフランス語なんだよ」
「え、そうなの?」
理由を聞こうと思ったら、ちょうどカセドラルの前に直美さんのホンダZがやってきた。Zは機材を積むと二人しか載れない。ナースチャを一人にしておくこともNGなので、ナースチャと二人電車で来たんだ。
「初めて来たけど立派だねえ……」
機材を運び入れながら感動する直美さん。
今日の直美さんはフォーマルなドレスだ。わたしとナースチャは制服。
格式高い結婚式なんで、ドレスコードがきついんだって。
制服はいいよぉ、高校生のフォーマルは制服。
結婚式からお葬式までこれで間に合う。万が一天皇陛下の園遊会とかに呼ばれても制服で間に合う。高校生の万能兵器だ。三年前の学園紛争では制服の廃止もスローガンだったと十円男は言ってた。廃止にしなくて正解。廃止になっていたら、制服に惚れ込んだわたしは時空を超えてまで昭和の宮之森高には来なかっただろうしね。今日のこのバイトだって来れないとこだったよ。
おお~~~!
わたしと直美さんは遠慮なく感嘆の声を、ナースチャは軽く「わぁ」と驚く。
外側も立派だったけど、中の荘厳さというか美しさというか立派さというかはひと際だよ。
「さすがは大浜カセドラルだねえ……」
感動しながらも、直美さんは弟子教育をしてくれる。
「新郎のひいお爺さんが実業家でね、明治何年だかにフランスから司祭さんを呼んだんだけどね、司教の肩書だったんで、それにふさわしい教会を建てたのがこれなんだって。あんまり立派なんで、完成したのはその司教さんがフランスに帰った後なんだけどね」
「「へえ……」」
「じゃあ、なんでカテドラルと発音しないんですか?」
ナースチャのチェックが入る。
「そのあとはアメリカの神父さんだったからね、いまは日本人の司教さん」
「「なるほどぉ……」」
式の参列者は300人。この300人全員の記念写真を撮る。笹山さんのお弟子も来ていて、同時に三組を撮影する。
そりゃあ、天下の笹山写真だって撮りきれるものじゃない。フォトコンテストでも良い成績を残し、本業が結婚式場とかの記念写真の真由美さんに白羽の矢が立ったというわけ。
「君たちも撮ってあげよう」
先にノルマを撮り終えた直美さんがオイデオイデする。
ちょっとためらった。
だって、ナースチャはボルシェビキに付け狙われている。写真なんか撮って流出したら敵に――ここにいるぞ!――って知らせれやるようなものだから。
「いいからいいから」
声がしたと思ったら直美さんの横でペコさんが手を振っている。
「かえって抑止効果があるんだよ」
どうして?
ちょっと疑問だったけど、流れと勢いに弱いのでそのままナースチャを真ん中に三人で撮ってもらった。
新郎新婦は結婚の誓いの後、祝福されながら退出してインペリアルホテルに行っている。公民館の結婚式でも、式場と披露宴会場は別だもんね。
わたしたちの仕事は機材の移動とセッティングの手伝い。
それと、カメラを一つづつ持って披露宴会場のあちこちで写真を撮ること。
後日、参列者全員に卒アルみたいにして写真集を送るらしい。その中身がプロの写真ばかりだとつまらないので、わたしたちが撮ったスナップ写真みたいなのも散りばめるみたい。
卒アルって、昭和のこの時代でも5千円くらいはする。それを300人分。おまけに笹山さんなんて人気の写真家まで呼んで、写真だけで並の結婚式が何回もできてしまう。さすがは地元の名士、現職大臣!
あとで試し焼きを見せてもらってビックリした。
ナースチャが写った写真の多くにタキさんが写り込んでいる。
全然気づかなかった。
ちゃんとタキシードを着て、髪もいつものチョンマゲじゃなくて、普通のオールバック。
ひょっとしたら、ナースチャの最強のガードはタキさんなのかもしれない。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- ナースチャ アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
- ユリア ナースチャを狙う魔法少女
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人