大橋むつおのブログ

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ホリーウォー・7[スグルのメモリーを集める・5]

2021-07-17 06:28:25 | カントリーロード
リーォー・7
[スグルのメモリーを集める・5]  


 
 
「あれは、極東戦争前の非合法な戦いだったからな……」

 里中元准尉は、猫車を押しながら話し始めた。
 
 猫車には朝堀大根がひしめいて、なんだかお伽話めいている。
 
 シンラは、まだ表立った組織にはなっていなかったが、相当な勢力が半島や大陸に浸透していた。そいつらが総選挙で舞い上がっていた日本に攻勢をかけてきた。俺たち特化部隊は……分かるよな、大昔の戦車隊のことじゃない。自衛隊の中に作られた特殊任務専門の部隊だ。規模や自衛隊の中での位置関係を知られないために「部隊」なんて半端な呼称で呼んでいたんだ。
 お前さんには釈迦に説法だろうが、あのころは並のセンサーで、人間とアンドロイドの区別が容易につく牧歌的な時代だった。戦闘用のアンドロイドなんかが入国すればGPSでマックやケンタを発見するぐらいの容易さで発見できた。
 俺たちは、人間、あるいはサイボーグが大挙入国して、総選挙のお祭り騒ぎに乗じて有力な与党議員を暗殺する情報を掴んでいた。

 俺たちは正式なルートで、警察や総理府に報告した。
 
 一応の注意は各候補に伝達されたが、反応は三つ。デマだと相手にしない野党議員。警戒の最終責任は特化部隊の仕事だろうと開き直る与党議員、ま、両方とも現状認識と太平楽な頭という点では共通していたがね。
 残りの、ごく一部の議員は本気に取り合ってくれて、命がけで、選挙運動に臨んだ。今の浦部内閣のブレーンになっていったやつらだ。

 最初は野党議員がやられた……フェイクだな。野党は、こぞって政府と俺たち特化を非難した。自分たちの無神経を棚に上げてな。
 俺たちは、監視カメラの解析をして実行犯を特定した。でも、特定したころには国外逃亡。そろって空港の監視カメラに写っていた。

 里中は、大根を他の野菜といっしょに軽トラックの荷台に積んだ。
 
 ブルン
 
 ヒナタが乗ると軽トラは身震い一つして動き出した。

 問題は、そのあとだ。やつらが浦部首相とその仲間を狙うことは確実だった。
 三件までは未然に防げた。スマホ型のパルスガン……見かけじゃ分からんが、発射の数秒前のエネルーギー充填で分かる。やつらは俺たちの感知能力を甘く見ていた。
 四件目が起こるのには少し時間がかかった。奴らもスマホガンでは見抜かれることを学習したんだ。
 
 四件目は一週間後の選挙の終盤戦で起こった。
 
 俺たちは、その一週間、国内で起こったあらゆる事件や問題を解析していた。特に失踪者に注意した。奴らに取り込まれマインドコントロールされて、人間爆弾にされることを恐れたからだ。
 
 そして、その子はリストから外れていた……子供だ。熱心に浦部首相の演説を聞いている女性のすぐそばに居た。何度かサーチしていたが、熱心な母親に我慢して付いている幼い娘だろうと思った。
 
 スグルだけが気づいた。
 
 その女の子がしょっている人形と、着ているコートに爆弾が仕込まれていることをな。
 
 やつは、応援者を装って女の子に近づいた。俺は、その時点でやっと気づいた。すぐに全ての電波、赤外線、高周波を遮断するジャミングのスイッチを入れた。遠隔装置で爆破されないためだ。
 人ごみをかき分けながら、女の子の人形を取ってコートを脱がせ、そのまま近くの川に飛び込みながら人形とコートを投げた。寸前に女の子は解放したがな。ジャミングの効かない距離だった。放り投げた瞬間に爆発した。

「……スグルが義体化したのは、そのときね」

 ああ、脳を生かしておくのが精一杯だった。すぐに技研に送って庄内教授に脳の中身を電脳に移植してもらった。
 
 女の子は、親の虐待を受けていた子で、当然捜索願なんか出されていなかった。事件後親に引き渡すわけにもいかず、絵里がしばらく預かって、回復したスグルが引き取った。今は戸籍も変えて安西みなみって名になって、防衛医大の附属病院で看護婦をやっとる。
 
「ああ、あのみなみちゃんが……」

 軽トラは青空市場に着いた。荷台がそのまま売り場になって、ヒナタは半日里中の売り子になった。

 ヒナタは、青空市場での野菜の売り方とスグルの瞬発力と優しさを理解した……。 

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