巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
あれから挨拶もそこそこに衣装合わせ。
令和で言うところの巫女服。
もの知らずのわたしでも、昭和の時代では巫女装束と呼んだだろうぐらいは分かる。巫女服というのはコスプレ用語だからね。
式場のアルバイトで御神楽さんの巫女姿で見慣れてるけど、自分が着るのは別だ。
「このコハゼを帯に挟んでね……」
頼政さんの奥さんが教えてくださる。
「あ、なるほどぉ、これで着崩れないんだ」
袴の後ろの腰当にコハゼ付いていて、それを帯に引っかけてずり落ちないようになってるんだ。
それから、立ち居振る舞いを習っていると、後ろで歓声がおこる。
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」
お、わたしの巫女姿に見惚れてる奴がいる……と思ったら、姿見の向こうにプリマドンナかっちゅうくらいのゴージャスな巫女服のたみ子。歓声をあげているのは、お手伝い巫女をやる地元のJC(女子中学生)たち。わたしのことは自分たちの同類ぐらいにしか思ってないみたい。
「いやあ、たみちゃんも立派だわぁ!」
奥さんもお世辞ではない賞賛の声。
「招き姫をやるのは初めてなのよ(^▭^;)」
招き姫っていうのは、年越祭の主役らしい。
わたしらは、スタンダードな巫女服の上に千早っていう一重の上を羽織るだけ。でも、たみ子のはほとんどお雛さま!
十二単っぽくって、裳裾っていうのかなあ、長い御引きずりが付いていて、手にはごっつい房付きの扇、頭にはキンキラキンの冠。
うわぁぁぁぁぁぁぁ……きれい……たまげたぁ……お招きさまだぁ……美幸ちゃんに負けないねえ……うん、本物だあ……いいなあ……
JCたちは、たみ子を取り巻いて、なんだか白雪姫と七人の小人かっちゅう感じ。たみ子は令和でもあまり見かけない175センチの長身で美人ときてる。その上、このゴージャス巫女服。太刀打ちできるとしたら大谷翔平の奥さんぐらいだ。
「さあ、あんたたちも準備して!」
「「「「「ハーイ」」」」」
奥さんが手をメガホンにして言うと、元気のいい返事をして、クルクルと巫女服に着替える。意外に薄着なんでビックリ。わたしなんか巫女服の下は七分袖のババシャツだっちゅうのに(^_^;)。
「はい、では、みんなに紹介します」
全員正座して招き姫のたみ子と奥さんに向き合う。わたしはたみ子の横。
「今年から、招き姫をやってもらうたみちゃんです。去年までは総代さんとこの美幸ちゃんがやってたけども、お嫁に行っちゃったからね。で、そちらに控えているのが共姫をやっていただく時司巡さんです。最初は兼子ちゃんたちにやってもらうつもりだったけど、インフルエンザだから、急きょ湘南の宮之森から来てもらいました。今日と三が日いっしょにやってもらいます。他にも明日、三人来てもらいますので、よろしくね」
「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」
「よ、よろしく(^_^;)」
お互いに挨拶して、簡単に巫女の所作を確認。初めてのわたしは失敗ばかりで恥ずかしかった。
それから、参集殿という板敷の広いところに行って、たみ子の招き姫を中心に本番の稽古。ええと、お囃子っていうのかなあ、雅楽の楽団まで付いてる……って、本番は明日なんだ!
JCの平巫女が控えてる前を共姫のわたしが付き従って中央に進む、正面の神さまに一礼して前に置かれた神楽鈴と扇を手に、招き姫が招き舞を舞う。
小学五年から巫女舞をやってきたというたみ子の舞は見事だった。
本番は拝殿の前の舞殿(まいどの)で舞って、御祭神である山の神様をお招きする。
ちなみに、この神社には神さまを祀る本殿が無い。拝殿の奥には扉があって、その扉の向こうは山がそびえている。つまりは山全体が御祭神ということになっていてスケールが大きい。
日ごろは山にお籠りになっている神さまを大晦日から元旦に掛けてお出ましいただく。お出ましいただくについては招き姫が共姫を引き具してお迎えの舞を舞うという寸法。舞殿の奥には特設の扉が置かれて、神職がそれを開けると同時に拝殿の扉もリンクして開けられるという分かりやすい演出もされるそうだ。
「昔はね、共姫もいっしょに舞ったんだそうよ」「あ、うちのお婆ちゃん娘時代にやったって」「ああ、舞殿、一人舞やるには広すぎるもんねぇ」「シ、聞こえるよ」「あ、気にしないでくださいねただの昔話だから(^_^;)」
お稽古の後、豚汁とおむすびを振舞ってもらっていると、JCたちがお喋り。悪気はないんだろうけど、微妙に凹む。
「ねえ、明日来てくださる共姫さんたちは、どんな人なんですか?」
のりちゃんというJCが目を輝かせて聞いてくる。
「あ、ええとね……」
三人のイメージをかいつまんで話すと目を輝かせるJCたち。スマホの中に三人の写真が入ってるんだけど、スマホを見せるわけにはいかない。そのかわり、修学旅行や万博の話をするとメチャクチャ羨ましがってくれる。
「万博行きたかったねえ」「うんうん」「でも中学生で大阪はねえ」「東京だったらねえ」「横浜でも行けた」「高校は修学旅行関西方面だよ」「うん、でもぉ」「万博やってないしぃ」「万博以外でいいとこありますか?」
「ああ、それならねえ……」
こないだ行ったばかりの修学旅行の話をすると、目を輝かせて聞いてくれるJCたち。総代さんたちへの挨拶に行っていたたみ子が戻って来ると、湘南の海の話になる。
「東京には行ったことあるんですけど、海は見たことないんですよねぇ」
「湘南の浜辺って、加山雄三が歩いてたりするんですよね?」
「ああ、加山雄三には会ったこと無いけど、小三のころに吉田茂に出くわしたことがあるよ」
「え、あの国葬になった!?」
「うん、和服で袴もちゃんとしてて、こーんな葉巻をね……」
たみ子はリアル吉田茂を知ってるんだ、吉田茂って麻生さんのお祖父さんだよぉ~。
いろいろ盛り上がってきて、のりちゃんがすごいことを言った。
「じつはね、もともとの共姫さん、インフルエンザじゃない人がいるんです」
「「え?」」
「じつは、男性経験を持ってしまった人が居てぇ……」「招き姫も共姫も男を知っていてはいけないんです」「みんな仲良しだから、みんなインフルエンザってことに」「あ、これは内緒でお願いします」
この話題は奥さんがやってきて、それっきりになった。
なんだけども……お二人は大丈夫ですよねって目で見るのは止めて欲しい(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長 伯父:武藤頼政
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 安藤さん 伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人