日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が有価証券報告書にその役員報酬を実際より少なく記載したという嫌疑で逮捕されたが、この事件にはいくつかの不可解な点がある。
(1) 有価証券報告書の虚偽記載はゴーン氏一人でできることではなく会社ぐるみの犯行であることは明白。したがって、罰せられる主体は日産自動車株式会社ではなかろうか。
(2) 虚偽記載に関して会社の代表者も罰せられるとして、代表権を持っているのはゴーン氏と西川廣人社長、グレッグ・ケリー取締役の3人である。西川社長は情報提供者だから司法取引によって逮捕を免れたのだろう。ケリー氏は海外在住ということで、当面逮捕が保留されたと解釈する。その結果、ゴーン氏だけが逮捕されたのだが、社会的地位もある外国人を一人だけ逮捕し、留置場に拘留するのはいかにも不公平に思える。「それが司法取引なんだ」と言われれば、それまでだが・・・。
(3) 読売新聞(11月25日)によれば、過少記載された8年分80憶円は、実際にはまだ支払われておらず、ゴーン氏が退任後に支払われるという覚書があるという。すなわち、虚偽記載はまだ実行に移されていないのだから、犯罪行為があったとは言えないのではないか。本26日の読売新聞はゴーン氏が罪状を否認していると報じているが、この論点ではないかと思う。
(4) その覚書はゴーン氏とだれがサインした文書なのか新聞には書かれていないが、その覚書の法的効力に疑問がある。すなわち、日産自動車が、有価証券報告書に記載しないことが認められるゴーン氏の退任後に、過少記載部分の80億円を支払うとすれば、その時点で案件は取締役会・株主総会で承認される必要がある。言い換えると、その覚書に記された合意事項は未確定であり、実行されない可能性がある。
(5) 結論として、有価証券報告書の虚偽記載は現時点では発生しておらず、ゴーン氏は無罪であるように思えるが、裁判所はどう解釈するのか。少なくとも、ゴーン氏逮捕は検察の勇み足だったのではないか。
一方、ゴーン氏がとてつもない高額の報酬をもらいながら、会社に購入させた世界各地の高級住宅を私物化したことや、姉の生活費を会社から支出させたこととか、その強欲ぶりには呆れるばかりだが、それは逮捕に至った嫌疑とは無関係である。私は、むしろゴーン氏の専制経営を黙認した他の役員の不甲斐なさに驚きの念を禁じ得ないのである。