裏通りの冒険。

　映画を観た帰り、キャナルから天神まで、裏通りを歩いた。
　初めての路、見たことのない街並み、すぐに方向感覚を失い、自分がどこにいるのか、どこに向かっているのか、わからなくなる。

　だがそれも悪くない。
　迷子になるというのはいわばお手軽な冒険だ。
　ドラゴンやゴーストは出てこずとも、ちょっとしたスリルを味わうことが出来る。
　今宵、この冒険の果てには何があるというのか。

　時刻は夜の八時、少しばかりお腹が空いてきた。
　上手い具合に行く手に食事を出す店が見えた。
　しかしながら少しばかり躊躇する。
　何しろここは裏通り、店があるのが不思議なくらいの人気のなさなのだ。

　だが、これは冒険なのだ。エイヤ、と自分を鼓舞して店に入る。
　店の中はそれほど広くない。
　そして思っていたよりも客が多い。
　客の中にゴーストやリザードマンはいないようだった。

　メニューを渡されるが、何を注文してよいか、わからない。
　いや、メニューは日本語で書かれていたのだが、書かれてある料理名が聞いたこともないものばかりだったのだ。
　店のお薦めのパスタである「パッケリオンドゥラーティーチだらのトマトソース」と「パッパルデッレ牛テールのヴァッチナーラ風」のうちどちらを注文するか迷い、それほど深い理由もなく後者を注文する。
　発音できない料理を注文したのはたぶんこれが初めてだ。


　　　


　そしてこれが「パッパルデッレ牛テールのヴァッチナーラ風」である。
　ふむ、美味い…。
　最近、大名や天神でパスタを食す機会が多かったのだが、申し訳ないが、それらの店とは段違いの美味であった。

　完食後、満ち足りた気持ちで店を後にする。
　裏通りにこれほどの店があったのか…。
　人生にはまだまだ発見も多い。

　一つ残念なのは、散々道に迷った挙句たどり着いた店なので、どこにあるのか、さっぱりわからないということだ。
　いつかまたあの店に行くことがあるのか、それは冒険の神のみぞ知っている。

お前だけは何としても落とす！！例え金にものを言わせても…。

　お前だけは何としても落とす！！例え金にものを言わせても…。お前を、お前を何としても手に入れてやる！！


　って思ったんですよ。ヤフオクの話ですが。
　自分がこれまで見てきた数限りないテレビアニメの中で一番好きなのは『未来少年コナン』なんですが、二番目が『ペリーヌ物語』です。
　ヤフオクやアマゾンでは『ペリーヌ物語』の新品ＤＶＤがだいたい一巻につき￥３５００前後で購入できます。
　しかし、『ペリーヌ物語』は全十三巻ですから、全巻すべてを新品ＤＶＤで揃えようと思ったら、３５００ｘ１３で、天文学的金額になってしまいます。
　一社会人に過ぎない自分にはそこまで資金はありません。
　なので自分はだいたい￥１０００前後、高くても￥１５００ぐらいのお金をかけて、ヤフオクやブックオフで、こつこつと一巻ずつ買い求めてきました。
　それで、十一巻を購入し、一巻から十二巻までが揃ったのが三ヶ月ぐらい前のことでした。
　残るはいよいよ最終十三巻だけです。

　ぶっちゃけ十三巻だけなら￥３５００出して新品ＤＶＤを購入できないことはないです。
　でもこれまでずっとせこせこと￥２０００以下で買い続けてきて、最終巻だけセレブみたいな買い方をする、っていうのは、せこせこと買い続けてきた自分への、裏切り行為のように思えるのです。
　っていうのは考え過ぎですか。
　まぁでもともかく、最終十三巻も￥２０００以下で買いたかったのです。

　そしたらですね、何と五日前にレンタル落ちの『ペリーヌ物語』の十三巻がヤフオクに出品されたのですよ。しかもそのオークション開始時の価格が￥１５０！！
　これには、ヒャッホーと歓声を上げてしまいました。
　これでよーやく長く追い求めてきた『ペリーヌ物語』のＤＶＤが全巻揃うのですから。

　それで昨日がオークション最終日でした。
　自分はオークション終了の一時間半ほど前に入札しました。
　その時点で入札価格は￥５６０、自分が最高価格の入札者でした。
　そして終了十五分前、やはり自分が最高価格の入札者で、どうやら無事に落札できそうだな、と思って、最新の状況に更新したところ、別の入札者が最高価格をつけていました。
　この時点では、ふっふっふ、どこの誰かは知らないが、無駄な入札をしやがって、と余裕をぶっこいてました。
　終了五分前に最高価格をつけて入札をクリック、、、が、最高価格入札者が表示されません。
　競争相手は自動入札に設定していたのです。
　それでもまだ余裕がありました。
　レンタル落ちのアニメの中古ＤＶＤに、そこまで高値を付ける奴がいるはずないと思っていたからです。
　￥１０００までは十円単位で入札し続けたのですが、やはり最高価格入札者と表示されず。
　￥１０００からは百円単位で入札、、、しかし一向に最高価格入札者とは表示されません。　こ、こいつ、いったいいくらまで自動入札するように設定してるんだ、と若干焦ってきたのですが、ともかく祈るような気持ちで入札をクリック。しかし競り勝てない！！
　とうとう￥２０００の大台へ！開始時の価格が￥１５０ですよ？ありえん！！と思いました。

　このとき、さらに入札を続けるかどうか迷いました。
　前述通り、￥３５００出せば新品が買える代物です。レンタル落ちの中古に￥２０００以上出すのは明らかに馬鹿げています。
　しかし、負けたくなかった。顔の見えない競争相手に、後塵を拝したくなかった。
　そして、核ミサイルの発射ボタンを押すような気持ちで￥２２００で入札をクリック！！
　頼む、自動入札の限度額を￥２０００で設定しといてくれ！！
　という願いも空しく相手はあっさりとこちらの入札価格をクリア。
　こ、コイツ、￥３５００出せば新品が買える商品に、いったいいくらの限度額を設定しとるんだ…。
　泣きたいような気持ちで、￥２４００で入札、、、しかしあっさり跳ね返されました。
　ここで心が折れました。
　何としてでも手に入れてやると心に固く誓ってオークションに臨んだのですが、その誓い、果たせませんでした。
　￥１５０で出品された『ペリーヌ物語』の十三巻は結局顔も知らぬ『ペリーヌ物語』ファンが￥２５００で競り落としました。
　負けはしましたが、同時に嬉しくもありました。
　だって、この日本のどこかに、自分以上の『ペリーヌ物語』ファンがいるってことがわかったのですから。
　その人と、いつか『ペリーヌ物語』談義に花を咲かせたいです。



　なんて思うわけないだろ！！！
　すっげー悔しかったです！！！！！！！！