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月の女王-19

2014年08月16日 21時00分00秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
 物入れの中に隠れていた松村明美を救い出し、帰路に着く香たち。
 妙子は鈴木君たち5人と寄るところがあるというので途中で別れた。

 明美から、今日の3校対抗の水泳大会にでてほしいと頼まれるイズミ。
 駅の近くで、水泳部の西田英子とも偶然遭遇し、断りきれず出場することになる。

 水泳大会はイズミの活躍で優勝。
 有名人であるイズミのまわりに人だかりができるが、そっけなく対応して着替えにいくイズミ。

 出待ちしているイズミファンに見つからないよう、香が誘導して裏門から出て行ったのだが、そこにいた女子高生の群れの一人から「香ちゃん!」と声をかけられる。


↓↓↓


「え・・・・・・・・・」
 振り返り・・・・・・香の表情が固まった。
「ヒトミちゃん・・・・・・」
 派手な茶色の髪をした女子高生が、キャアッと声をあげる。
「やっぱり香ちゃん!久しぶり~!小学校の卒業式以来だよね!」
「う・・・うん」
 ぎこちなくうなずく香。
「すごーい。香ちゃんって古沢イズミと友達なの?!」
「う・・・ん」
「わあ~~、私、香ちゃんの小学校のときの友達の秋元仁美です~。よろしく~」
「・・・・・・」
 言われたイズミは眉を寄せたまま軽く頭を下げた。それだけで、周りにいた女子高生達がわあっと歓声をあげる。「仁美すごーい」の声に、秋元仁美が得意げに香に近寄って、
「ねえねえ、香ちゃん。今から私達合コンするんだけど香ちゃん達もこない?! 古沢イズミが来てくれたらすごい自慢なんだけど!」
 イズミ自身はムッとしたように口を結んだまま、香の対応を待っている。
「いいでしょ~?香ちゃ~ん」
「あの・・・・・・」
 香がなんとか声を絞り出そうとした、その時、
「かーおり」
 ポンッと温かい手が頭にのせられた。
「・・・・・・」
 見上げると、青い瞳が安心させるような光をたたえてこちらを見ている。
「遅いと思ったらこんなところにいたのかよ」
「きゃああっさっき会場にいた男の子たち~~」
 イズミの時以上の歓声がおこる。やはり金髪碧眼美少年のクリスと長身美形の白龍のコンビは相当目立っていたようである。
「か、香ちゃんっ、と、友達なの?」
「え・・・・・・う・・・・・・」
「違うよ」
 戸惑う香の横で、クリスがケロリと言う。
「オレ、香の彼氏」
「えーーーーー!!」
 悲鳴にも似た声が上がる。すごーい!うらやましー!の歓声の中、仁美だけが引きつった笑顔で、
「うそ~、ほんとに~?」
「う・・・・・・」
「ホントだよ~。だから合コンとか無しね。オレすごい嫉妬深いんだ」
 ひらひらとクリスは仁美に手をふると、
「じゃ、そういうことで。行こうぜ、香、イズミ」
 背中を押され、香も歩き出したが、その背中に仁美が声をかける。
「香ちゃん、キョウコちゃんが今イギリスにいるって知ってた?」
「え・・・・・・」
 ギギギギギ・・・・・・と機械仕掛けの人形のように香が振り返る。
「昨年、お父さんの転勤についていったんだよ。それでこないだイギリス人の彼氏ができたって手紙がきたの。香ちゃんとキョウコちゃんって仲良かったけど、外国人の彼氏ができるってとこまで同じなんて、なんかちょっと笑えるね」
「・・・・・・・・・」
 香は口の端を少しあげて、なんとか笑顔らしいものを作ると、再び背を向けた。そこから一歩一歩と歩こうとするが、足が自分のものではないようでうまく歩けない。
「香?」
 振り返ったクリスに、香は泣きそうな笑顔のまま、小さくつぶやいた。
「足が・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫だよ」
 左手を掴まれ、右腰をぎゅっと抱き寄せられる。
 きゃあっと黄色い歓声が上がったが、そんなことも気にしていられなかった。
 呼吸がうまくできない。息が苦しい。支えられてなんとか歩いていく。
「香ちゃーん、またねー」
 仁美の声が再び聞こえた瞬間に、意識を失った。


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これ、書きたかったシーン第一弾。

えてして、イジメた方は覚えていなかったり、大したことないって思ってたり、
もう時効だよねって勝手に思っていたりするけれども、
イジメられた方は心の奥底まで傷ついて傷ついて傷ついて覚えていて、
何かの拍子にフラッシュバックがおこったりするものなんですよね。

で。
クリスが「大丈夫だよ」って腰を抱き寄せるシーンを書きたかったんです。はい。


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次回更新はまた来週の土曜日夜9時です。
よろしくお願いいたします。



コメント
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