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風のゆくえには~ あいじょうのかたち25(樹理亜視点)

2015年09月30日 09時44分25秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 渋谷慶先生は、すごく綺麗な顔をしている。中性的で天使みたいな男の人だ。
 いつもは穏やかで優しいけど、怒るとこわい。ものすごくこわい。今日はそのことを再認識した。
 そして、恋人の桜井浩介先生のことをすごーく愛してるんだなあということも再認識した。

**

 毎週土曜日の午後一は、心療内科クリニックに行っている。
 いつも通り、クリニックの帰りに買い物をしてからマンションに戻ろうとした途中で、携帯に着信があったことに気がついた。

 確認して驚く。ものすごい着信数だ。相手は全部、慶先生。

「何……うわわっ」

 見てるそばから鳴りだしたので、驚いて取ると、

「目黒さん、いまどこにいる?」

 慶先生の切迫した声。

「マンションの入り口……え?」

 走ってくる音がして振り返ると、慶先生がすごい勢いでこちらに向かって走ってきていた。イケメンは何をやってもイケメンだ。かっこいいなあ……なんて呑気なことを思ったけれど、慶先生はそれどころじゃなかったらしい。怖い顔をしたまま、

「家入れて」
「えええ」

 力強く腕を掴まれ、引きづられるようにしてエレベーターに乗せられる。

「ど、どうしたの?」
「…………」

 あたしの質問には答えず、ギリギリと歯ぎしりをしている慶先生……。

 頭の中、ハテナだらけのまま、急いで鍵を開ける。

 慶先生は玄関を開けるとすぐに、ズカズカと中に入っていってしまった。猫のミミがビックリしたようにこちらに向かって走ってくる。

「ただいまミミー、慶先生……」

 言いかけたのと同時に、リビングからララの悲鳴が聞こえてきた。

「ララ?!」
 ビックリしてミミを抱き上げようとして気がつく。男物の靴が、もう一足……誰だろう。

 おそるおそるリビングをのぞき……

「????」

 ますます頭の中が?だらけになった。

 下着姿で突っ立っているララ。あいかわらずのガリガリが痛々しい。
 そして、ソファーで寝ている浩介先生……は、半裸状態。
 慶先生はそんな浩介先生の脈をとり、おでこに手を当てたりしている……。


「あのー……」
 
 これはどういう状況で……

「………なんなの、これは」
「!」

 あいかわらずの忍び足の陶子さんが、いつのまにあたしの後ろに立ってつぶやいたので、ビックリして振り返る。

 なんなのって、あたしが聞きたい。


「ララ、答えなさい。いったいどういうことなの」
「どういうことって……」

 ララが乾いた笑みを浮かべている。

「陶子さんが言ったんじゃないの。好きな人とエッチしなさいって。だからしてただけだよ」
「え?! ララ、浩介先生としたの?!」

 うそ! 浩介先生、浮気?!

 浩介先生、良く寝てる……こんだけまわりで話しても起きないってどんだけ図太いんだ。

「ララ、そんなウソは……」
「ウソじゃないもん」
「何を飲ませた?」
「!」

 慶先生が浩介先生の脱げていたシャツのボタンを閉め終わると、すっと立ち上がった。
 無表情にララを見下ろしている。イケメンの真顔……こわい。

 そして無表情のまま、何か薬の名前を羅列しはじめた。一つの名前の時にララが眉を寄せたのをみると、

「どのくらい飲ませた?」
「飲ませてないよっ」

 ギッと慶先生をにらむララ。

「浩介先生は疲れて寝てるだけ。だって、何回もしたんだもん!」

 げ。マジか。

 うわ~~とミミの頭をなでながら、これからはじまる修羅場に備えてそおっと退避する。

 ララが得意げに顎をあげて言葉を続けた。

「もう、浩介先生ったら激しくて~こんなに優しそうなのに、エッチの時になると……」
「どのくらいの量を飲ませたかって聞いてんだよ!」
「!」

 突然の慶先生の怒声に、私もララもビクッと跳ね上がってしまった。でも、ララは負けじと睨み返した。

「だから何も飲ませてないし。私が浩介先生とやったのが悔しくて認めたくないからってそんな……」
「んなホラ話、どうでもいい。質問に答えろ。量は? 何時に飲ませた?」
「だからっ」

 ララがヒステリックに叫ぶ。

「何も飲ませてないっただエッチしただけっそれだけ……っ」
「陶子さんっ」

 パチンっとララのほっぺが陶子さんに叩かれた。それからバスロープをバサッとかけられる。呆然としているララ……。

「ん………」
 このタイミングでようやく浩介先生が身じろぎをした。慶先生がはっとしたようにしゃがみ込み、浩介先生の頬に手をあて、覗き込む。

「浩介?」
「慶……」
 
 うっすらと瞳をあけた浩介先生。慶先生を認めるとふわっと笑い、両手を伸ばして慶先生を胸に引き寄せて……

「慶……大好き」

 つぶやくと、また、くかーと寝てしまった……。なんて幸せそうな寝顔……。

 こんな状況なのに、ホッコリしてしまう。ララはますます呆然としている。


 慶先生がそっと浩介先生の腕から抜け出てきて、ララを睨みつけた。

「1時くらいってとこか?」
「……だから、薬なんて飲ませてないっ。激しくしすぎて寝てるだけで……」
「激しく? 激しく何をしたんだ?」

 慶先生の体から怒りのオーラが立ち上っているのが見える……

「そんなの決まってるじゃない。セック……」
「こいつ勃った?」
「え?」

 ララもあたしも耳を疑った。何を言い出すの先生。

「何を……」
「勃たなかっただろ? 勃つわけねーよな」
「そんなこと……っ」

 ララがカッとなったように言い返す。

「どういう意味? 私が相手だとできないとでもいいたいわけ?」
「それもあるけど」

 慶先生、無表情のまま、とんでもないこと言いきった。

「こいつ、昨日倒れるまでやって、今朝も無理矢理抜いたから、まだ勃つわけねーんだよ。10代20代のころならまだしも、今はもう、んな元気ねーよ」
「……………」

 …………。
 先生たち、一体どういう性生活送ってるんですか……

「で、1時ごろか? 量は?1錠?」
「…………ララ」

 うつむいてしまったララを、陶子さんが促すと、

「そうだよ!」
 ララは叫んで自分の部屋に駆け込んでいってしまった……。

 シーンとした中で、ミミがようやく「みゃー」と鳴いた。空気を読める猫・ミミ。今まで鳴くのを我慢していたらしい。


「……ごめんなさいね」

 陶子さんが青ざめた顔で慶先生に頭をさげている。

「……あの、2つお願いがあります」

 慶先生、真面目な顔で陶子さんを振り返った。

「まず、こいつのこと、もうしばらくこのまま寝かせてもらいたいのと……」
「それはもちろん」
「あと、たぶん、彼女の携帯でも写真を撮られてると思うんです。データを削除してもらえますか」
「………なんてこと」

 陶子さんが力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。

「どうすればあの子………」
「陶子さん……?」

 今まで見たことのない弱々しい陶子さんの姿……。 一体全体、陶子さんとララってどんな関係なんだろう?


 その後、陶子さんは店の準備に行ってしまった。いつもはあたしも行くんだけれど、ララを見張っておいてほしいと頼まれたので、浩介先生が起きるまでは慶先生とお茶することになった。ちょっとラッキー。

「目黒さん、お願いがあるんだけど」
「なになに?」

 慶先生の憂いを帯びた目にキュンキュンなる。
 ワクワクしながら、そのお願いとやらを待っていたら、浩介先生の携帯電話を差し出された。

「写真のデータ確認してもらえるかな? もし写ってたら……」
「オッケー消す消す」

 データを呼び出してみたら、10枚ほどララが自撮りしたと思われる写真があった。裸の浩介先生がララにのしかかっている写真なんて、よく見れば不自然なんだけど、パッと見はドキッとしてしまう。浩介先生の腕枕にいるララの写真は、事後に見えなくもない。うーん。とても浩介先生にも慶先生にも見せられない……。

「削除、削除、削除……はい、終了。……と?」

 削除し終わって、浩介先生が撮ったらしい最新の写真が出てきたんだけど……

「うわーかわいい!」

 あまりの可愛さに悲鳴をあげてしまった。
 そこに写っていたのは、慶先生の寝顔。浩介先生の左手をギュッと握り占めて、口元に抱え込んでいる、無防備な寝顔。かわいすぎる!

「え? なに? ……げっ」
 覗き込んだ慶先生が、げっと声をあげる。

「なんだこれ。いつ撮ったんだよ……」
「んー、今朝の3時25分だって」
「………」

 頭を抱え込んだ慶先生。
 いいのかな、と思いながら、見ていって………笑ってしまった。

「なんか、すっごいいっぱいあるよ。慶先生の寝顔の写真」
「………あほだな」

 慶先生、顔、真っ赤。

「先生、愛されてるねえ」
「………」

 慶先生、頭をかきながら、寝ている浩介先生をちらっと見た。その視線の柔らかくて愛おしそうなこと!

「愛してるんだねえ……」

 かなわないなあ、と思う。
 早く私も、2人みたいに愛しあえる人と出会いたいなあ……


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以上です。
お読みくださりありがとうございました!
浩介さん、隙ありすぎです。でも引きこもりの女の子に、カレー作ったの。どうしても食べにきて。樹理もいるから。って言われたら、行かないわけにはいかないでしょー。

そんな感じで。次は浩介視点。
次回もよろしければ、よろしくお願いいたします!

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クリックしてくださった数人の方々、本当にありがとうございます!
真面目~な話のため、つまんないよね……でもしょうがないよね……書きたい話なんだもん……
とうじうじ思っていたので、クリックしてくださった方の優しさが余計に心に沁みました。
本当に本当に嬉しいです。ありがとうございました!!

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