☆本編はじめる前に、おまけの話☆
1991年12月(高校2年生)
23日の夜、めでたく両想いになった慶と浩介。
24日の朝、溝部からその夜のクリスマスパーティーに誘われますが、二人して断ります。だってクリスマスデートの約束してるんだもん♪
溝部は山崎と斉藤を誘って、女子とパーティーしたらしいけど……
ということで。25日の朝。2年10組の教室にて。浩介視点です。
**
注:両想い3日目の浩介君。超浮かれてます。
(あー………)
どうしよう……幸せすぎて、顔のゆるみがおさまらない……。
冷静になろうと、いつものように本を開くのだけれども、一行も頭に入ってこない。
(わああ……)
顔をおさえようとしたところ、唇に手の平が触れ、それで昨日のキスを思い出して余計に顔がにやけてくるんだからどうしようもない。
(慶……まだかな……)
早く会いたい。って気持ちと、今でももう心臓がドキドキしてるのに、会っちゃったらこれ以上どうなっちゃうんだろうっていう心配と、でも会いたい。会ってぎゅううってしたいって気持ちと……もう、本当にどうしようもない。
(今日、授業なくて良かった……)
今日は2学期の終業式と学活だけだ。授業なんか絶対に何も聞けなかっただろうから助かった。
「桜井? どうかした?」
「おっ、おはようっ! 山崎っ」
山崎から声をかけられ飛び上がってしまう。2学期の間、山崎はおれの後ろの席だった。せっかく話せるようになったのに、3学期からは席替えで離れてしまうだろうから、ちょっと残念だ。
「き、昨日どうだった? 溝部のうちでパーティーしたんでしょ?」
「そうそう。大変だったんだよー」
山崎が苦笑して言う。
「溝部が荒れちゃって」
「荒れる?」
「いや、ほら、鈴木がさ……」
声をひそめる山崎。
「やっぱり、好みは大人の男!って言って……」
「あー……」
「で、溝部がいつもの調子で鈴木をからかって、喧嘩になって」
溝部と鈴木さんはいつも喧嘩をしている。それなのに、昨日、溝部が赤くなりながら、パーティーに鈴木さんを誘った、と言ったからビックリしてたんだけど、やっぱり喧嘩になったんだ……。
「まあ、それはいつものことだったんだけど……」
「だね……」
「女子が帰った後に、溝部がヤケ食いみたいに馬鹿みたいに食べて飲んで、んで、食べ過ぎて吐いちゃって」
「えええっ」
「溝部、今日学校休みかも」
「…………」
た、大変だったんだな……
「まあ、せめてあんな失態を鈴木に見られなくて良かったよ」
「山崎……」
山崎って良い奴だなあ、と思う。おれと同じでおとなしくて目立たないタイプなんだけど、おとなしさの中に芯があるというか……ちょっと大人っぽいのかもしれない。
「で、桜井は? どうだった?」
「え」
急に話を振られ、きょとんとしてしまう。
「デートだって言ってなかった?」
「あ」
「あ、違うか。デートだったのは渋谷で、桜井は何もなかったんだっけ?」
「えーっと……」
なんと答えたものかと迷っていたところで、
「はよーっす」
「!」
途端に世界がパーッと明るくなった。眩しいオーラを振りまきながら、慶が教室に入ってきたのだ。
「わ、なんか渋谷、いつもにもましてキラキラしてるな」
「…………うん」
山崎の言葉にコクリとうなずく。ほんと、キラキラしてる……
慶は窓際のおれの席まで真っ先に来てくれると、真っ直ぐにおれを見つめて、
「はよ……」
「おはよ……」
う……照れる……。
そんなこと知らない山崎が、ちょっと笑いながら慶に言った。
「渋谷、デートうまくいったんだ?」
「え!?」
二人一緒に声をあげてしまったけれど、山崎は気にした様子もなく肩をすくめた。
「そんなキラキラ、溝部に見せつけたら何されるかわかんないから気を付けて」
「なんだそりゃ」
眉を寄せた慶。ああ、可愛い……
「まあ、溝部、今日休みかもしれないけど」
「なんで?」
「あー……あ、ごめん、桜井あとよろしく」
山崎は手を振りながら、廊下に向かっていってしまった。鉄道研究部の一年生がきていたのだ。その背中を見送ってから、慶がこちらを振り仰いだ。
「溝部、なんで休み?」
「んー、なんか昨日のクリスマスパーティーで食べ過ぎたらしいよ」
「アホだな、あいつ」
慶が、あはは、と笑う。
その原因は鈴木さんとうまくいかなかったことらしいけど……。
「慶……」
「ん?」
見上げてくれる慶の瞳は湖みたいに澄んでいて、今にも吸い込まれそうだ。こんな人がおれなんかのこと好きでいてくれる……
溝部は想い叶わず、やけ食いして具合悪くなったっていうのに……
「両想いになるって、ホント大変なことだよね……」
「…………何いってんだお前」
照れたように顔を赤らめた慶。
「………」
「………」
あーもー!可愛すぎる!!
「慶ー!」
「わっお前!やめろ!」
我慢できなくてムギューッと抱きしめると、慶がおれから逃れようとワタワタしはじめた。それもまた可愛いすぎる!!
「大好きー!」
「人前で抱きつくな!」
「じゃ、人前じゃなかったらいい?!」
「アホかっ」
真っ赤になった慶は可愛いすぎて可愛いすぎて!
「あ~~も~~幸せ~~」
「分かった分かったっ。分かったから落ち着けっ」
「あー」
無理矢理腕から抜けられてしまった。あーああー……
ガッカリして席に座って俯いたら、こんっと額を拳骨で押された。そして耳元に顔を寄せられ、囁かれた。
「………続きは今日帰ってからな」
「!」
バッと顔を上げる。慶はやっぱり照れたように笑って、いいこいいこって頭を撫でてくれた。
もう、幸せ過ぎる……
結局、この日溝部は学校にこなかった。でも、鈴木さんはいつもと何も変わりなかった。やっぱり恋って難しい……。
そして年明け……。教室に入るなり、
「くっそー! クリスマスの奇跡、おれにはなかったぞー!」
そう叫んだ溝部に体当たりされた。八つ当たりもいいとこだ。
女の子紹介してもらうのに一緒にこいとかうるさいから、溝部にもさっさと彼女ができればいいと思う。鈴木さんは無理そうだけど……。
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お読みくださりありがとうございました!
深夜に投稿した、人物紹介・あらすじに引き続き、おまけの25年前のお話でした。
「巡合」と「将来」の間の話になります。
この頃の浩介君は、まだ慶にしか心を開いていないので、溝部に対してもイマイチ興味が薄いというか……
今、同じことが起きたら(わー溝部かわいそうにー。おればっかり幸せでごめんねー。溝部も上手くいくといいのになー)くらいのことは思いそうだ。
自分が高校生の時は、40過ぎなんてすごいオトナ!って思ってましたが、実際自分がなってみると、高校の時と感覚とかそんなに変わっていなくて……
でも、色々なことに割り切りができてたり、一歩引くことを覚えていたり……
そんな大人の現実的なお話を火曜日からお送りいたします。
BLカテなのに、男女カップルですみません…でも、浩介×慶、しょっちゅう出てくると思います。
出てこない回は、どうでもいい二人のマッタリ話をおまけに書きたいなあ……とか思っていたり。
やりたいことだけは頭の中で盛りだくさんです。
毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月7日火曜日、どうぞよろしくお願いいたします!
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