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風のゆくえには~現実的な話をします 5 +おまけはBL

2017年03月21日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【溝部視点】

2016年12月11日(日)大安


 快晴の中、高校の同級生の山崎と、8歳年下の菜美子ちゃんの結婚式が行われた。
 開放的なテラスのある、レストランウェディング。
 元々美人な菜美子ちゃんの純白のウェディングドレス姿は、まるでモデルさんのようで……

(なぜこいつが……)

と、その横に立っている男を見たら、誰もがそう思うだろう。地味で真面目が取り柄の公務員・山崎。でも……

「やっぱり結婚相手にはこういう人が一番よねえ」
「菜美子は良い人を見つけたねえ」
「優しそうで誠実そうで、いいじゃないの」
「区役所にお勤めなんて、安心ね」

 チラホラと聞こえてくる、山崎アゲの言葉の数々。主に、年齢の高い層からのウケがかなり良い。なんか羨ましい……

 それから……

「一緒に写真いいですかあ?」
 きゃっきゃっと若い女子~中年のオバサマに声をかけられまくっている、うちのテーブルの男二人……

「あ、おれ撮るよ?」
「違くてー! 渋谷さんと桜井さん一緒じゃないとー!」

 みんな楽しそうに、桜井と渋谷を取り囲んで写真を撮ってもらっている。

 桜井と渋谷が同性カップルである、ということは、列席者のほとんどに知れ渡っているようだ。というのも、山崎と菜美子ちゃんからの希望で、二人は夫婦扱いとなっていて、お祝儀袋も一つで受付したので、受付を担当した子はもちろん、その時そばにいた人達にも知られ……

「あーいいなー。若い女の子に囲まれてうらやましいー」
「動物園のパンダ状態のどこがうらやましいんだよ」

 おれが言ったのに対して、渋谷が苦笑して答えてくる。

「そんなに珍しいか? おれたち」
「まあ、珍しいし、しかも二人ともイケメンだからな」
「えええっ」

 長谷川委員長の言葉に、桜井が「とんでもないっ」と跳ね上がった。

「慶はそうだけど、おれは違うでしょっ。隣りで写るのが申し訳ないよ」
「あー、いいなあ。おれも申し訳ないって言いながら写りてえなあ」
「溝部……」

 みんながやれやれ、といった感じに肩をすくめたところで、斉藤の奴が嫌なことを言い出した。

「そういう溝部は鈴木とどうなった?何か進展あった?」
「…………」

 黙ってしまうと、またみんな、一斉にやれやれと肩をすくめた。

「なんだ。何もないのか」
「あ、いや……、何もなくは、ない……」
「え?!」
「何何?!」

 食いつかれたけど、食いつかれるようなことはないんだけど……

「あの………結構頻繁に連絡は取ってるし、毎週、陽太の野球特訓してるし……」
「おお!すごいじゃん!」
「でも……」
「何?」

 みんなに見られ、はあっと大きく息をついてしまう。

「いつもと同じパターンにハマりそうな気がしてきた……」
「同じパターンって?」

 首を傾げられ、真面目に言葉を続ける。

「『良い友達』パターン……」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 少しの沈黙の後……4人は一斉に「ああ~」と納得したようにうなずいた。

「待て待て待て!」

 なんでみんな納得する?! そんなにオレ『良い友達』っぽい?!


***
  

 デザートは、バイキング方式で自分の好きなものを取っていき、最後は新郎新婦からウェディングケーキを取り分けてもらう、という形式だった。

 そこで、タイミングが良いんだか悪いんだか、菜美子ちゃんの親友、明日香ちゃんと前後ろで列に並ぶことになってしまった。
 オレを振って、イケメンチャラ男と付き合いはじめた明日香ちゃん。気にした様子もなくニコニコと話かけてきた。

「溝部さん、聞きましたよ~。今、本気で狙ってる人がいるんでしょ? 高校の同級生!」
「………あ、うんうん」

 誰だ!変なこと吹き込んだのはっ!……とも思ったけれども、ふと、思いついた。

 明日香ちゃんなら、オレの欲しい答えを知っているかもしれない……

「あの、明日香ちゃん?」
「はい?」

 相変わらずの抜群に可愛い瞳で見返してくれる明日香ちゃん。

「参考までに聞きたいんだけど……」
「はい」
「オレの何がダメだった?」

 いうと明日香ちゃんは「?」というように首をかしげた。

「ダメって?」
「あのー……、明日香ちゃんは結局、さんざん口説いてたオレを振って、佐藤君を選んだわけじゃん? オレの何がダメで……」
「え、何言ってるんですか?溝部さん」

 口に手をあて、明日香ちゃんはアハハと笑った。

「口説かれた覚えも、振った覚えもないですけど?」
「………………え?」

 覚えない………って?!

「いやいやいやいや、オレさんざん誘ってたよね?」
「えー、全然本気じゃなかったじゃないですか」
「えええええ!?本気だったよ!?」

 あれを本気と言わず何を本気という!?

「うそー、ノリにしか思えなかったですよー」
「いやいやいやいや……」
「それに色々な子誘ってるんだろうなって感じだったし」
「えええっ明日香ちゃんしか誘ってないよ?」
「えーうそー」
「いやホントだって」
「ホントに? やだごめんなさい」

 引き続きアハハと笑う明日香ちゃん。

 な、なんてことだ……
 ごーん……と落ち込んでいたら、

「ああ、そっか。分かりました」
 明日香ちゃんがポンと手を打った。

「そういうところなんじゃないですか?」
「え?」
「ダメなところ?」
「………」

 明日香ちゃん、にっこりと可愛らしく笑うと、

「本気って思われないところがダメ。みたいな」
「……………」

 ぐうの音もでないとはこのことだ……

「今度の彼女さんには本気見せてあげてくださいね」
「いや、オレはいつでも本気なんだけど……」
「わ!溝部さん!見て!このチーズケーキ美味しそう!」
「…………」

 可愛い可愛い明日香ちゃん。オレ、本気だったんだけどなあ……

 でも、本気の明日香ちゃんに対してさえ、『鈴木呪縛』が発現していたことは否定できない。いつでもそうだ。どの女の子に対してもそうだった。

『鈴木と似てる』
『鈴木とはここが違う』
『鈴木だったら……』

 どの女の子のことも、いつも心の片隅で、鈴木と比較していた。
 オレはこれを『鈴木呪縛』と名付けている。高2の冬に鈴木を好きだと自覚してから、ずっとずっとだ。オレはずっと呪縛され続けている。



「菜美子~お色直し水色正解~可愛い~」
「ありがと」

 親友の言葉ににっこりと微笑む完璧な新婦。その横で、黙々とウエディングケーキの取り分けに励んでいる新郎……。

「山崎……。お前、胸の花がなかったら、確実にボーイと間違えられるぞ……」
「え?! あ、溝部、今日はありがとう」

 必死すぎてオレの嫌味も耳に入っていないらしい。大変だな、山崎……

「次はオレの番だからな」
「うん。頑張って」
「…………」

 ぽん、と皿にのせられたウェディングケーキ……。美味しそうだな……。
 思わずジーと見ていたら、山崎が「あ」と言って、

「持ち帰り用の箱あるけど、鈴木に持ってく?」
「え?!」

 なんだそのナイスな提案は!

「持ってく!持ってく!」
「じゃ、もうちょっと待ってて。もうすぐアナウンス入るから」
「オッケーオッケー!」

 山崎、なんて良い奴だ!やった! と内心小躍りしていたら、

「溝部さん。頑張ってください」

 明日香ちゃんがぐっとガッツポーズをしてくれた。

 よし。オレは頑張る。頑張れる。今度こそこの恋を実らせて、呪縛から開放されてやる。

 

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お読みくださりありがとうございました!
続きまして今日のオマケ☆

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☆今日のオマケ・慶視点


 山崎らしく、戸田先生らしく、素敵であたたかな結婚式は終始和やかな雰囲気のままお開きとなった。


「わ……ペアグラスだね」
「おお。綺麗だな」

 引き出物は有名なブランドのシャンパングラスだった。

 なるほど。おれ達をカップルとして招待したい、と言ってくれたのは、引き出物のことがあったからなのかもしれない。

「お前の方のは?」
「えと……あ、お揃いの小皿。かわいい」

 オレの方の引き出物が、他の招待客と同じもので、浩介の方のは、夫婦で列席した人達の奥さんがもらっていたものと同じで少し小さめのものだった。

(うーん………)

 カミングアウトして、早1年半……
 前々から気になっていることがある。

「お前さ……お祝儀袋の名前、おれのこと右に書いてたな」
「うん」

 祝儀袋の用意は任せっきりだったので、受付で浩介がふくさから出した時にはじめて気がついた。連名の場合、右が格上になる。夫婦の場合は夫が右。同格の場合は五十音順だ。

「同じ歳なんだから、お前の方が右じゃねえ? 桜井、渋谷って五十音順……」
「うちはさ」

 浩介は遮って、ニッコリと言った。

「慶が旦那さんなんだから、慶が右で合ってるよ」
「………………」

 やっぱりそのつもりだったからか……
 浩介はいつもそう言うけれど……今日撮った写真を客観的に見ていて、確実に他人はおれを「嫁」と思うだろう、と思ったのだ。おれの方が背が低いし、それに認めたくはないけれど、やはりおれは中性的な顔をしている。

 同性なのだから、どちらが夫とか妻とかないけれど、それでも、こういう感じにどちらがどちらなのかを決めなくてはならないことがあって……

「なあ……お前、それでいいのか? お前だって一人息子なわけだし、その……」
「んん?」

 手際よく、包装紙を畳みながら浩介が首をかしげる。

「慶、前もそんなこと言ってたよね?」
「んー………なんつーか……ほら、見た目もおれの方が……」
「慶の方が旦那さんぽいよね」
「え?」

 おれの方が?

「何言って……」
「みんなそう思ってるよ。だから山崎と戸田先生だって、おれの席の下に奥さん用の引き出物置いたんでしょ?」
「それは………」

「同性なんだから、どっちがどっちってないけど、どっちって言わなくちゃいけないときは、慶が旦那さんってことでいいと思ってるんだけど……なんか不都合ある?」
「……………」

 ない……ないんだけど……なんだろう。このモヤモヤ。カミングアウトして以来、時々こういう風にモヤモヤすることがある。

 すると浩介が「なんか……」と言いかけて、

「あ、ううん、何でもない」
「なんだよ?」

 ちょっと笑っている浩介。なんだよ。気になるじゃねーかよ。

「何一人で笑ってんだよ」
「ちょっと、思い出しちゃって」
「何を?」
「んー……」
「教えろよっ」
「あはははは、やめてっ」

 脇腹をくすぐってやると、浩介は身をよじってから、きゅっとおれの両手をつかんで、また、ふふふ、と笑った。

「あのね……高校卒業して、初めてして……」
「?」
「それからおれ達、どっちがどっちするって散々悩んだじゃん? って覚えてない?」
「あー……」

 そんなこと、あったなあ……
 はじめは両方しようと頑張ったんだっけなあ……

「それで結局、慶が『受』って決定したけど、おれはずっと、慶ばっかり痛い思いすることに罪悪感があって……」
「でも、それは」
「うん」

 ちゅっと頬にキスをくれた浩介。この上もなく嬉しそうな顔をしている。

「慶、痛いばっかりじゃない、気持ち良いって言ってくれたよね」
「……………」

 う……。恥ずかしい……何の罰ゲームだ。
 思わず浩介の肩に額を押しつけると、ぎゅうっと抱きしめられた。

「ちょっと、似てない?」
「……どこがだ」
「慶はそれでいいって言ってくれてるのに、おれが、でも、でも、って言ってたとこ」
「…………」

 ああ、なるほど……。
 確かに似てる。浩介ばかりを『奥さん』にさせることに罪悪感がある……。

 でも、おれがあの時『それでもいい』って言ったのは、本当に気持ち良いからであって……

「おれも気持ち良いよ?」
「は!?」

 なんの話だ!?
 また、ふふふと笑う浩介。意味がわからん。

「何が気持ち良い……」
「おれは慶のものですって感じが」
「…………え」

 顔を上げると、コツン、とおでこをつけられた。

「おれは慶のもの。慶だけのもの」
「…………」
「おれ、全然抵抗ないし、むしろ嬉しいよ?」
「…………」
「だいたいさ、慶はすっごく男らしいんだから、奥さんなんて似合わないよ? だから、慶が旦那さん」

 浩介はニッコリと笑うと、

「旦那様、お茶になさいますか? それともお風呂? それとも……」
「…………愚問だな」

 キスをする。そのまま、軽いキスを繰り返しながら、ソファに押し倒す。

「当然、お茶より風呂より、お前が先だ」
「ん」

 浩介は知っているだろうか。こうしてお前がおれを認めてくれることが、何より嬉しいってこと。

「あ、でも待って。スーツ、ちゃんとハンガーかけてから」
「あー」
「慶ってば」
「んー」
「もう……」

 カミングアウトする前までは起こりえなかったモヤモヤの数々。浩介を『奥さん』にすることにも、そうしなくてはならない世の中の常識みたいなものにもモヤモヤする。でも、世の中に適応していくには、このモヤモヤはガマンするしかないのだろう。

(それでも……)

 テーブルに置かれたシャンパングラスと小皿を見て思う。
 それでも、周囲に認めてもらえるということは、嬉しい。

「浩介……」
「慶」

 くすぐったそうに笑った浩介の瞳にもう一度口づけた。


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☆続きのおまけ・浩介視点。その夜の話。


(ああ、やっぱりかっこいいなあ……)

 隣で寝ている慶を起こさないように、コッソリと今日撮ってもらった写真を眺めながら、一人にやにやしてしまう。
 普段は写真に写りたがらない慶も、友達と同僚のおめでたい席では、にこやかにおれの横で笑ってくれている。

(おれの『旦那さん』……)

 ふっと、帰宅後の会話を思いだし、ますますにやにやしてきてしまった。

 慶が『旦那さん』おれが『奥さん』というのは、「おれは慶のものって感じがして嬉しい」と慶には答えたけれど、本当は他にも理由がある。

 慶は、イケメンでスポーツ万能で社交的で友達もたくさんいて、とにかく何もかも完璧な人だけれども、一つだけ、コンプレックスがある。

 それは、背が低めで中性的な顔立ちをしていること。
 子供の頃は、その容姿をからかってきた相手には、それ相応の報復をしていたらしい(慶はこの容姿を裏切って、喧嘩がめちゃめちゃ強いのだ)。

 慶が言葉使いが悪いのも、やたらと体を鍛えるのも、おそらくそのコンプレックスのせいなんだと思う。

 だからこそ、おれは絶対に慶を女扱いしない。
 まあ、本当に男らしい人だから、女扱いをするなんてありえないんだけど(学生時代、ラブホに行くときに女の子のフリをしてくれたことはあるけど、それは慶が自ら買ってでてくれたことだ)、ほんの少しでもそんな素振りをしないように気を付けてきた。

(ほんと綺麗な顔……)

 慶の頬を優しく撫でる。

 男のおれの『旦那』であることで、慶のそのコンプレックスが少しは和らいでるに違いない……と思うのはおれの傲りだろうか。

 おれが「慶は男らしい」「慶が奥さんなんてありえない」とか言うと、慶はくすぐったそうな嬉しそうな顔をしてくれる。おれはその慶を見るだけで、どうしようもなく幸せな気持ちになる。

(おれの存在は、少しでも慶の役に立ててるかな……)

 その形のよい唇を指でそっと辿る。

(そのためなら、おれは何にでもなるよ?)

 大好きな大好きな慶。慶と一緒にいられることが、慶が笑っていてくれることが、おれの幸せ。そのためなら、おれが何者であろうと関係ない。

 それから……もう一つ理由がある。
 それは、『男避け』。

 慶はやはり見た目は小柄で綺麗な顔立ちをしているので、抱かれる側と思われてしまって……(昔、慶に迫って、のされた奴もいたな……)

 以前、同級生達がふざけて「渋谷だったら抱けた」と言ったことに頭にきて、「おれが奥さんだよ」と言ったのだけれども、それ以来、みんな慶を『旦那』と見てくれるようになった。万々歳だ。

(本当は、この男らしい人が、おれの腕の中ではあんなに乱れてあんなに色っぽくなっちゃうんだけどね……)

 今日の帰宅早々の事を思い出して、さらにニヤニヤが止まらない。ツーッとその滑らかな頬を手の甲で撫でていたら、

「…………眠れないのか?」
「あ…………」

 目は閉じたまま、慶がボソッといった。慌てて手を離す。

「ごめん、起こした?」
「そりゃ、これだけ撫でまわされたら起きるだろ」
「…………ごめん」
「ん」

 すいっと温かい腕が伸びてきて、頭を抱き寄せてくれた。腕枕だ。

「いいから寝ろ。明日仕事だぞ」
「うん……」

 額にキスをくれて、無意識のように頭を撫でてくれる。

(ああ……幸せ)

 すぐに聞こえてきた慶の寝息に引き込まれ、おれも幸せな眠りに落ちた。大好きな慶の腕の中で。


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お読みくださりありがとうございました!
長!!おまけなのに長!!(^_^;)
でも、一度書いておきたかった、どうして浩介が『奥さん』にこだわるのか、のお話でした。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月24日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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