【有希視点】
2016年12月23日(金)
2週間ほど前、
(もう、溝部には会わないようにしよう)
そう思ったのに………
結局また、溝部を頼ることになってしまった。
22日の夜、突然、大きな仕事が舞い込んできた。取材に行くはずだった人がインフルエンザにかかり、急遽声をかけてもらえたのだ。これを逃す手はない。
明日の午後から翌日の夜までの一泊、と言われたけれど、二つ返事で「行きます」と答えてしまった。電話を切った後に、息子の陽太に伝えたところ、
「うちで留守番やだ」
「え」
いつもは快く送り出してくれるのに……
眉を寄せた陽太をみて、ふと思いついた。
「もしかして、お父さんのとこ行きたい?」
離婚以来、春休みと夏休みに一泊ずつ元夫のところに泊まりにいかせた。もう冬休みだし、それを期待してのことだろうか、と思って言ったら、
「はあ? ありえないんだけど」
ムッと口を尖らせた陽太。ホント生意気。誰に似たんだろう。4年生でこの言葉使い、それこそありえない。
でも、続けて言った陽太の言葉は意外なものだった。
「お母さんいないと、上のおばさんが出ばってきて鬱陶しいから嫌なだけ」
「え?そうなの?」
実家は二世帯住宅で、一階に母の住居があり(父は3年前に他界したため、現在は母と私と陽太の3人で住んでいる)、二階に弟一家の住居がある。
弟のお嫁さんは、私が出戻ってきたことを良く思っていない。自分の娘との二世帯住宅生活を夢見ている彼女にとって、私がこのまま一階に住み続けることは、絶対にあってはならないことなのだ。姪はまだ幼稚園生だというのに、ずいぶんと気が早いことだ。
(出ばってって何だろう……)
母への懐柔策のことだろうか……
一年前、私が「実家に戻りたい」とお願いしたところ、母からは「1年だけ」と言われた。それは義妹の強い要望だったということは後から知った。
もうすぐ丸一年になる。あと少しだけ待ってほしい、と母には言って了承もらっているけれど、義妹は不満なのだろう……
なんてことがグルグル頭の中で回っている中で、陽太がケロリとして言った。
「だからさー、溝部のとこ泊まりにいってもいい?」
「………………は!?」
なぜ溝部!?
「こないだから、泊まりにこいっていわれてるんだよ」
「…………」
溝部ーーー!!
私がラインを無視してるからって、陽太を勝手に誘うなんて……っ
「なんか溝部、最近お母さんに無視されてるって、落ち込んでるよ」
「………それは」
溝部、お前のせいだろうがっ!!
約2週間前、12月11日の夕方。
山崎君の結婚式帰りの溝部がうちにやってきた。持ち帰り用のウェディングケーキを持ってきてくれたのだ。
そこにたまたま(たまたまなのかわざとなのかは不明)、義妹が下りてきて、「せっかくだからお茶でも」と言いだし、そのままズルズルと夕飯まで食べていくことになり……
その後、いつの間に陽太と母は弟一家と一緒に2階に行ってしまっていて、気がついたら溝部とさしで飲んでいた。
若い頃を知っている気安さからか、この1ヶ月半、何だかんだと連絡を取り合ったり、陽太の野球の練習に付き合ってもらっていたせいか、ついつい心を許して、愚痴をこぼしてしまって……
「やっぱり、仕事変えないとと思っててさ……」
「なんで? せっかくライターになったのに?」
卒アルに書いてたじゃん、お前。という溝部。
そう、雑誌のライターになることは高校の頃からの夢だった。でも、なってみたら夢は生活の一部となり、そして、結婚生活を維持するために一度は手放した。
あの時辞めていなければ……と、再就職を探した際にものすごく後悔した。以前のツテで今はフリーとして細々と仕事をもらえてはいるけれど ……
「会社やめてなかったら、続けられてたかもしれないけどね……やっぱりフリーは安定しないよ。もう、実家出ないといけないし、子供と二人、生活していくのは無理かなって」
「それは金銭的にってことか?」
「そう。金銭的に。夢だけじゃ食べていけませーん」
おつまみのピーナツの皮をむく音がやけに響く。別に食べたいわけでもないのに、手持ち無沙汰でひたすらむいてしまっていた。
小皿にたまったピーナツを「食べる?」と差し出すと、溝部はなぜかビックリしたような感じで「あ~~……サンキュー……」と小さく言って食べはじめ、
「あのさあ……」
急にあらたまったように、正座をした。
「なに、あらたまって」
顔変だよ、とからかって言ったけれど、溝部は真面目な表情を崩さず、ボソボソと言葉を続けた。
「オレもそろそろマンション更新なんだよ」
「あー、あんた、都内で優雅な一人暮らしなんだっけ?」
「…………。優雅じゃなくて、さみしい一人暮らし、な」
「さみしい?」
じゃあ、実家帰ってくればいいじゃん。
言うと、溝部は軽く首を振り、
「いや、実家は姉ちゃんも母ちゃんもうるせーから帰りたくなくて……。でも、横浜には戻ってこようかと思ってて」
「あ、そうなんだ」
「でさ」
再び姿勢を直した溝部。なんなんだ。
「なによ?」
「あの……」
そして、溝部はいたって真面目な顔をして、言った。
「オレ達、一緒に暮らさないか?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………は?」
なに……?なに言ってんの?
「何を………」
「陽太の学校のこともあるから、この付近で探してさ……、ほら、駅の大通り挟んだ向こうのマンションとかどうだ? 前に売りにでてたんだよ。あそこらへんって、小学校の学区ここと一緒だよな?」
「一緒……だけど……」
「あそこならスーパー近いし、良くね?」
「………………」
良くね? って……、意味が分からない……
「あの……意味分かんないんだけど?」
「何が?」
「なんで私たちがあんたと暮らすわけ?」
「嫌か?」
「………?」
溝部……酔ってる……ようには見えない。真面目な顔のままだ。
「一緒に住んだら、絶対、楽しいぞ」
「楽しい……」
ふっと、陽太と溝部が一緒に野球をしたりゲームをしたりしている姿が頭をよぎる。確かに楽しい………だろうな。
ああ、なるほど。ようやく合点がいった。ルームシェアってことか。少し前に流行ってたもんな。
「なるほど。ルームシェア、ね」
「は?」
私の言葉に今度は溝部がキョトンとした。
「ルームシェア?」
「ってことでしょ?」
「んなわけねえだろ」
溝部、眉間にシワが寄ってる。
「なんでそうなる」
「なんでって………………」
って? って、ことは………………
「え?」
「え、じゃねーよ」
溝部、ムッとしてる。
「人が真剣にプロポーズしてるっつーのに、何だその斜め上な返事は」
「プ……?!」
プロポーズ?!
呆気にとられた私に、溝部はコックリと肯いた。
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お読みくださりありがとうございました!
書こうと思った半分しかかけてないし、おまけも書いていないのですが、ちょっとトラブルがあり、とりあえずここまでで投稿させていただきます(涙)
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