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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・後日談

2017年05月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18

「その瞳に」から3日後のお話です。

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 浩介の友人の一之瀬あかねさんが、真面目~な顔をして、言った。

「オレ、バリタチなんで、スミマセン」 

 バリタチ????

「はい????」
「何言ってんの?」

 キョトンとしたおれと浩介に、あかねさんはさらに真面目に続ける。

「慶君、真木と会うの気まずいでしょ?」
「まあ………」
「……………」

 真木というのは、おれの勤める病院の系列病院の医師で、3日前、おれを襲おうとしたナルシストの変態野郎だ。鳩尾に膝蹴り&延髄斬りでのしてやったけど……さすがに顔を合わせるのが気まずい、とは思っていた。

「ほら、ああいう男は、ネチネチといじめとかしそうでこわいじゃな~い? 一応、和解はした方がいいと思うのよ」
「和解………」

 しないでいい。もう二度と関わりたくない。けれども、仕事となるとそうもいかないんだよな……

「そこで!」
 パンっと手を打ったあかねさん。

「提案するのが、この魔法の言葉です。『オレ、バリタチなんで、スミマセン』」
「だから、何すかそれ……」
「だから、魔法の言葉。これを慶君にいわれたら、真木は絶対に和解に応じるから」
「はあ………」
「でも………」

 顔を見合せたおれと浩介に、再び手をパンっと打ったあかねさん。

「はい!いいですか? Repeat after me!『オレ、バリタチなんで、スミマセン』」
「オレ、バリタチなんで、スミマセン……?」
「わあ慶!言わないでいいから!」

 ぱたぱたと手を振った浩介。

「もー!あかねサン、何言わせてんの!」
「だーかーらー魔法の言葉だってー!」
「………………」

 わあわあといつものように言い争いをはじめる浩介とあかねさん。あいかわらず仲良いよな……。
 二人は職業が教師(浩介は高校の社会科教師、あかねさんは中学の英語教師だ)という共通点もあるし、いまだに、同じボランティアのNPO法人に所属しているし、親の前では恋人のフリをしているし、3日前、真木の滞在するホテルに浩介が現れたのも、浩介があかねさんに相談したかららしいし………。

 内心、面白くない。と思うおれは心が狭い嫌な奴だ。あかねさんの恋愛対象は女性なので、浩介とどうこうなることはないと分かっていても、やっぱり面白くはない。浩介のことになると、おれはどうしても嫌な奴になる。

「まあ、向こうの出方次第で……言ってみます」
「そうしてそうして~」

 ニコニコのあかねさん。

「慶、無理しないでね。また襲われたりしたら……」
「大丈夫だよ」

 心配でたまらない、という顔をした浩介の頭を軽く小突く。

「ちょうど明日、勉強会で会うはずだから。様子みて対応してみる」
「うん……気をつけてね?」

 浩介はものすごい心配してくれてるけど……大人なんだし、露骨に何かしてくることはないだろう………

 と、思いきや。


「渋谷先生、真木先生と何かあったの?」

 一緒に勉強会に出ている同期の吉村に聞かれるくらい、真木のおれに対する態度は大人げなかった。挨拶も完全無視。前回までは休み時間もベッタリ一緒にいたのに、今回はグループ討論の間までも、おれがいる方向に顔すら向けないほど、徹底的に無視してきたのだ。子供かよ!

(あったまくんなー……)

 だいたい、悪いのはあっちで、こっちは正当防衛なのに。まあ、若干、過剰防衛気味だったかもしれない……? いや、そんなことはない。あんなもんじゃ気が済まなかったけど、早々に伸びてしまったから、それ以上はしないでやったんだ。完全なる防衛のみだ。


 おれと真木の分厚い壁はそのままで勉強会は終わった。
 終了後は各々で情報交換をしたりしていて、おれもお目当ての先生に質問に行ったのだけれども………

「ああ、それは、真木先生に聞いてみて? 同じような症例を扱ったことがあるってさっき言ってたよ」
「あ………はい………」

 う……やっぱり真木になるのか……。そうじゃないかとは思ったけど……。

 真木はあれで経験値も知識も高い優秀な医師なのだ。あちこちにツテもあるので、この1ヶ月で色々な人を紹介してもらえた。本当に頼りになる先輩なのに……あんなことさえなければ……

(仕事、仕事……仕事のため……)

 なんとか自分の怒りを腹にしまいこんで真木の姿を探す……と、ちょうど部屋から出ていく後ろ姿が見えた。

「真木先生!」

 すぐさま追いかけて声をかけたけれど、聞こえないんだか、まだ無視してるんだかで、さっさと歩いていってしまっている。悔しいけれど足の長さが違うので歩くのも速い。

 院内は原則走るの禁止。出来る限りの早歩きで追いかけていくと、階段の方に曲がったのが見えた。ここは最上階なので、当然下りたのだろうと、おれも曲がって下りかけたのだけれども……

「慶君」

 涼やかな声が上から聞こえてきた。振りあおぐと、真木が屋上前の踊り場の手すりから顔を出している。

(あそこからであの顔の位置になるのか……)

 正直、真木の背の高さが羨ましい。真木の豊富な知識も経験値も人脈の広さも羨ましい。おれが持っていないものを真木はいくつも持っている。そのおおらかさも明るさも尊敬していた……のに。

 真木がゲイであり、毎夜男を取っ替え引っ替えしているような男だ、ということはあかねさんに聞いた。男達にしなだれかかられて写った写真まで見せられては、もう否定もできない。

(まあ、否定するも何も、あの変貌をおれは身をもって体験したわけだしな……)

 そうだ。そうだ。
 しかも、奴は浩介にも色々言ったらしい。それが一番ムカつく。ああ、思い出したらやっぱり腹が立ってきた……

 でも、我慢。我慢だ……。仕事のために、無視だけでもやめてもらわなくては……

 階段をのぼりきると、壁に背をあずけ、腕を組んでこちらを見ている真木の姿があった。

「あの……真木先生……」

 意を決して声をかける。

「こないだは……」
「慶君」

 遮られたので黙ってしまう。何を言われるかと身構える。……と、真木がふわりと微笑んだ。
 
「君は俺のことが気になってしょうがないんだね。さっきもずっと見ていたよね?」

 ………………。

 それは、お前が無視するからだろーが!!

 という言葉はなんとか押し込める。

「いや、その……」
「無視していたのは、ちょっとしたお仕置き、だよ」

 ふふふ、と笑った真木。

 お仕置き……? 意味わかんねえ………

 真木は固まっているおれにスッと近づいてきた。

「この前は悪かったよ。急に誘われてビックリしちゃったんだよね?」
「えーと……、って!」

 ぐっと肩を掴まれ、嫌悪感からビクッとなってしまう。それをどうとらえたのか、真木は少し目を細めて穏やかに語りかけてきた。

「俺はね、君のことを初めて見た時から、君は俺の隣にいるべき子だと、確信していたんだよ」
「え………」
「その美しい瞳には俺だけを写していればいい。君こそが俺にふさわしい。俺が君を天国に連れていってあげる。俺だけの天使君………」

 ………………。

 うわーーー蹴りてえええ! こいつ、今すぐ蹴り倒してえええ!!

(いやいやダメだ!我慢だーー!)

 蹴ったら、仕事に支障がでる!
 こうなったら、あかねさんの魔法の言葉を………っ

(………って、あれ?)

 なんだっけ……

 えーと、えーと……バリ……なんだ? なんだっけ?!

「慶君……」
「うわわわわわっ」

 思い出すのに気をとられていたところで、顔を寄せられそうになり、慌てて身をそらす。

「慶君、照れないでいいから」
「いや、その………」

 ムズムズする足を押さえつけ、一歩下がり二歩下がり……としていたら、後ろの壁に背中がついてしまった。

(しまった……っ)

 おれとしたことが!迂闊過ぎる!
 真木も今回はおれからの反撃に備えているようで、微妙に腕でガードをしながらもジリジリと迫ってきていて………

「慶君……」
「いや、あの……っ」

 真木の香水の匂いがまとわりつく。まずい………蹴り倒して逃げるか? いや、そうしたらこいつはまた無視してくる。それは困る。だから、だからだからだから……っ

「慶君、自分の気持ちに素直になって……、痛っ」
「!」

 まずい! 伸ばされた手を反射的に勢いよく弾き返してしまった。
 驚いたように見開いた真木の目……

「すみませんっ」

 あわてて頭を下げたけれど、瞳は驚きから怒りの色に変わっていき……

「お前……」
「あの……あの………」
 
 バリ……バリ、バリ…………、なんだ?
 今となっては、真面目に覚えず、意味さえ聞かなかったことが悔やまれる。

「いい加減にしろよ?」

 口調の変わった真木の声。どんっと、壁の横に手をつかれる。 

「調子に乗りやがって……」
「ええと、あの……」

 なんだっけ……バリ……バリ……

「この俺がこうまで目をかけてやってるっていうのに」
「あの……」

 バリ……バリ……

「自分の立ち位置ってものを少しは考え……」
「あああ!」

 その言葉に、思わず叫ぶ。

 立ち位置!立ち位置!立ち!立ち!立ちだ!

「あの!!」

 思い出したーーー!!

「バリタチ!」
「え?」

 怪訝そうに眉を寄せた真木に一気にまくし立てた。

「おれ、バリタチなんで!! すみません!!!」



***


 あかねさんから教えてもらったその言葉は、本当に魔法のように効果があった。
 真木はおれの頭の横についていた手をどかし、ジロジロとこちらを観察するように見はじめたのだ。戦意は完全に喪失している。

 よしとばかりにおれは言葉を続けた。

「あの、真木先生のことは、本当に、尊敬してるんですけど」

 そう、医師としては尊敬しているし、教えてほしいこともたくさんあるんだ。

「でも、すみません、おれ……っ」
「タチ……なんだ?」

 ぽつっとつぶやいた真木。口に手をあてながら「へえ、そうか……そうなのか……」とブツブツいったあげく……、

「え!?」

 急に爆発したように笑いだしたのでこちらが驚いてしまう。あはははははは……と、まるで舞台俳優のようにわざとらしい笑い声をあげて……

「あの……?」
「ああ、ごめんごめん」

 バンバンッと肩を叩かれた。でもさっきみたいな、いやらしい感じじゃなくて、普通の、親愛の情のスキンシップ、という感じ。

「そうかそうか……君のその情熱的な視線は、完璧なタチである俺への憧れのものだったのか……」
「…………は?」

 情熱的な視線? いつ、誰が、どこでそんな視線を送った!?

「すっかり俺に恋い焦がれるものだと勘違いしてしまったよ」
「…………」

 だから、なんなんだそれは!?

「おかしいと思ったんだ。この俺の誘いをあんな風に……、なるほど。バリタチか。それなら納得だ」

 真木、一人で勝手に納得している。

「君、喧嘩しなれてるの?」
「ええと……、おれ、背も低いし、顔もこれだから、昔から馬鹿にされることが多くて……それで鉄拳制裁っていうか……」
「なるほどね」

 うんうん、と肯く真木。

「バリタチなのはそのコンプレックスのせいなのかもしれないね。そうかそうか。おれはそのコンプレックスを刺激してしまって、鉄拳制裁をうけた、と」
「いや、その……すみません」

 意味も分からないし、言いたいことも山ほどあるけれども、本人が勝手に納得しているから、この際放置することする。

「いや……俺もね、今までノンケの子やタチの子を落とすこともしてきたよ? でも、幼少からのコンプレックスを崩すのは難しそうだし……ここは潔く、君のことは諦めるよ。また蹴られたらたまらないしね」

 にこっと笑った真木は、出会ってからあの事件が起こるまでの間の、頼りになる先輩そのもので……

「これからは友人として、医師仲間として、よろしくな」
「よろしくお願いします!」

 思わず差し出された手を握り返した。が、

「うわ、その笑顔……ホント天使だな……」
「!」

 変なことを言われ、咄嗟に飛び離れる。

「ああ、ごめんごめん。もう言わない言わない」
「…………」

 真木は笑いながら、階段を下りていき……

「慶君? 追いかけてきたのは何か聞きたいことがあったからじゃないの?」
「あ! はい! 清水先生に真木さんが同じ症例を扱ったことがあるって聞いて……」

 並んで歩き出す。返してくれる答えはいつも通り、的確で分かりやすくて……

(あかねさんに感謝だな……)

 本当に魔法の言葉だった。されたことはムカつくし、浩介に変なことを言ったことは許せない。でも、人間的にどうでも医師としては本当に尊敬できる人なんだ。こうして上手くつき合っていけるのなら有り難い限りだ。

(それにしても………)

 バリタチって何だろう………

 
***
 

「バリタチっていうのはね……」

 その日の夜、おれのマンションのベッドで1回戦を終わらせ、狭い湯船に一緒に入っている中で、浩介がおれの質問に答えてくれた。

「バリバリタチってことだよ」
「あ、やっぱりバリは、バリ3とかのバリってことな?」

 すっごいとかそういう意味だな。バリ3というのは、携帯電話の電波が3本、バリバリ立っている、という意味で……

「じゃ、タチは?」
「タチはー……」

 後ろから腰に回された腕にぎゅーっと力がこめられ、うなじのあたりに唇が落ちてくる。

「受け攻めの、攻めのことです」
「え、そうなんだ?」
「タチとネコという言い方もあるのです」
「知らなかった……」

 まあ、受け攻めという言葉だって昔実家にいた頃に、妹が読んでいた本を拾い読みして知った言葉だけど……浩介はなんで知ってるんだ?

「なんでお前そんなこと知ってんの?」
「え」
「…………あかねさんに教えてもらったとか?」

 腹の奥がムカムカムカムカするけれど、なるべく普通の顔で問うと、

「まさか。こないだ南ちゃんがくれた本に書いてあったんだよ」
「……………」

 浩介とおれの妹の南は昔から仲がいい。南に関してはムカつかないのは妹だからだろうか。……いや、違う。南が浩介を情報源として利用していることを知っているからだ。南には浩介と仲良くする理由がある。
 でも、あかねさんは、単なる友人。ただ単に、普通に気が合って仲良くなった友人。だから、モヤモヤする………

(あー、おれ、心狭い……)

 ぶくぶくぶく……と水面に顔をつけると、浩介がぎょっとしたように、おれの腰から手を離した。

「慶!?どうしたの!?」
「なんか……嫌だ……」
「え!?何が!?おれが南ちゃんに本もらったこと!?」

 あわあわと慌てている浩介。

「それとも、やっぱり、真木さんに何か……」
「真木?」

 ………忘れてた。
 あー、とりあえず「バリタチ」の意味は分かった。真木にはおれが「攻め」だと嘘をついたってことだな。その手の話題をされた時に気を付けないと……

「あー……なんでもねえ……」
「なんでもなくないよ!何が嫌なの?!もしかしてこうしてお風呂一緒に入ることが嫌?」
「………………」

 方向転換して、浩介の方を向く。浩介………ものすごく不安そうな顔してる………。


『老婆心ながら忠告させてもらうとね』

 ふっと帰り際に真木に言われた言葉が頭によみがえる。

「慶君、ちゃんと桜井君に言葉で伝えてあげてる?」
「え…………」

 言葉でって…… 

「桜井君、不安でしょうがないって顔してるよね? だからこそ俺も、つけ入る隙があるって思ってしまったんだけどね」
「………………」
「もし、言ってないなら、たまには愛の言葉を囁いてあげなよ? 少しは桜井君の不安も和らぐんじゃない?」

 愛の言葉………?

「…………馬鹿馬鹿しい」
「え!?何が馬鹿馬鹿しいの!?」
「なんでもねーよ」
「なんでもなくな………、あ、慶……」

 水中の浩介のモノを探しだして、優しく掴みながら、その不安げな瞳や口元に唇を落とすと、途端に蕩けるような表情になった。

(愛の言葉? んなもん言わなくても分かるだろ)

 何年一緒にいると思ってんだ。こうして肌を重ねるだけで、充分伝わってる。

「慶……大好き」
「ん」

 おれ達はこれからもずっとずっと一緒にいるんだ。
 お前の瞳には、おれだけ写っていればいい。





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お読みくださりありがとうございました!
バリ3って、今の若い子は知らないよね(^_^;)
「何年一緒にいると思ってんだ」と慶君はいってますが、付き合ってまだ11年です。
現在(交際25年)の安定浩介とは違い、色々なことに不安でいっぱいの浩介君です。まだ若いです。

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