1992年・高校3年生夏
【慶視点】
おれ達の通う白浜高校と、隣接花島高校との恒例の交流試合。今年は白浜高校で開催された。
今年は、野球部、バレーボール部、ハンドボール部、テニス部、サッカー部、バスケ部の試合が一日かけて行われる。
浩介達バスケ部3年生はこれが引退試合となるので、普段はあまり試合に出られないスタメン外の3年生も、この日ばかりはチャンスをもらえる。
今まではベンチ入りしてもベンチを温めて終わりなことが多かった浩介も、中盤から出場し、しかも、試合終了10秒前。
「打て!その場で打て!」
おれの声が聞こえたかのように、逆転のスリーポイントシュートを決めた!
「入ったーー!!」
「逆転ー!!」
どっと沸いた体育館の中……
(なんつー顔してんだあいつ)
浩介の、まさに「鳩が豆鉄砲くらったような顔」にちょっと笑ってしまう。が、試合中だぞ!
「桜井!ボーっとすんな!戻れ!」
「あっ!」
チームメイトの上岡武史の声に、ハッとしたように浩介が戻りかけた。が、
(やった!)
無事に終了のホイッスルが鳴った!
「ったーーーー!!」
わあああっと今日一番の歓声の中で、浩介が興奮したように叫んでいるのが見える。
(ああ……良かった)
ほっと息をつく。
浩介がこの2年数ヶ月、ずっとずっと頑張ってきたことが実を結んだ。自分のことのように……いや、自分のこと以上に嬉しい。まったくの素人だった浩介がここまで成長できたのは、あいつが毎日毎日練習をサボらずに励んできたことと……
(おれの教え方が上手だったおかげに違いない!)
なんてことを思いながら、満たされた気持ちでチームメートに囲まれた浩介を眺めていたのだけれども……
「ハンドボール部の試合準備があるので、該当生徒以外は体育館から退出してください」
交流試合実行委員からの放送に水を差された。勝利の余韻に浸る暇もくれないのか!と文句を言いたいところだけれども、時間が押しているらしく、実行委員は殺気立っている。繰り返し流れるアナウンスにも苛立ちが含まれはじめた。怒られる前にさっさと出よう……。
グラウンドでは今、サッカー部が試合をしているらしい。テニス部は終わったらしく、ラケットを持った生徒がバスケの観客の中にも紛れている。
普段見慣れない花島高校の制服やジャージと見慣れた白浜の生徒と入り混じった人波に乗って体育館からの階段を下り終わったところで、上から声が聞こえてきた。
「慶! 慶!慶!慶!」
おれを「慶」と呼ぶのは、この学校で一人しかいない。振り返ると、当然、浩介の姿が目に入った。人波をかき分けながらこちらにこようとしている。背がわりと高いのでやっぱり目立つ……というか、ユニフォーム姿だから余計に目立ってるぞ、おい。
「おー、なんだお前、もう…………、って!」
止める間もなかった。
「ま、まて……っ」
「けーいーー!!」
おれの停止をものともせず、ぎゅーぎゅーぎゅーぎゅー抱きついてきた浩介。
(うわ……っ)
汗の匂いにそそられ……って、そそられてる場合じゃない!!
「お前! 何して……っ」
「慶、慶!慶! ありがとう!」
は? ありがとう?
叫ばれた声にキョトンとなる。
「何が……」
「さっき、打て!って言ってくれたでしょ!」
「え……」
さっきって……スリーポイントシュートの話か。
浩介は目をキラキラさせたまま、おれの両頬を囲った。
「言ったよね? 言ったでしょ?」
「言った………けど」
あれだけの歓声の中、おれの声が聞こえるわけ……
「聞こえたよ! 聞こえた! だから打ったんだよ!」
「………っ」
こんっとオデコがオデコに落ちてくる。
「ありがとう。慶。ありがと。慶がいてくれたからおれ、ここまでできた」
「……うん」
「慶のおかげだよ。何もかも慶のおかげ」
「……………」
それは違う。それはお前が一生懸命だったからで。お前が頑張ったからで。おれはお前のそんなところが羨ましくて……大好きで。
「……良かったな」
「うん」
微笑みあって、そして……
………って! 違う違う違う!!
ここ、学校! 周りから大注目浴びてるぞ、おれ達!
「わかったから、とりあえず離せっ」
力ずくで腕から抜け出たけれども、浩介は「えーっ」と言いながら再び抱きついてくる。
「えー、いいじゃんいいじゃん」
「よくねーって!」
なんか周りの女子にクスクス笑われてるしっ。
「いい加減離れろっ」
「なんでー?」
「………お前、蹴られたい?」
「……わかったよ」
浩介は渋々体を離したものの、今度は肩に肘をのせてきた。
「だからお前ーっ」
いいながら腕をどかそうとしたのだけれども………
「け、慶!」
「わっ」
突然叫ばれ、ビクッとなってしまった。な、なんなんだ。
「な、なんだよ?」
「背! 背が伸びてるっ」
「背?」
おれがいぶかしげにいうと、浩介は勢いよく肯いた。
「肘の位置が上がったもんっ」
「何言ってんだよ……」
伸びているにしたって、今日急に分かるなんておかしい。そんなに突然伸びるなんてあるわけがない。
そういうと、浩介はブンブン首を振って、
「肘を乗せたのは久しぶりなんだもんっ。いつもは抱きしめるか、腰に手を回すかだからっ」
「…………」
そういうことを大きな声で言うな……
「……お前が縮んだんじゃないか?」
「この歳で縮んだら困るよっ。慶が伸びたんだよっ。測ってみよっ。ほら、保健室!」
腕を掴まれ、そのままズルズルと保健室に連れて行かれた。試合直後で興奮状態な浩介は、いつもより強引だ。
保健室には、保健の先生はいなくて、テニス部の女子が二人、椅子に座っておしゃべりをしていた。
「はい、上履きぬいでね」
言われるまま身長計にのってみる。高2の秋の測定が161で、高3になってすぐの測定でも161だったので、もう伸び止まったんだ……と、相当落ち込んでたんだけど………
「ひゃくろくじゅう……さんてんきゅう……164cmだっ」
「ろくじゅうよん?!」
浩介の言葉にギョッとする。64って!この3か月で3センチも伸びたのか?!
「うわ!マジか!!」
「本当だよっ3センチも伸びてる。……ちょっと複雑」
「複雑?」
なんだそりゃ。
「なんで複雑なんだよ?」
「だって………」
眉を寄せてこちらを見下ろしてきた浩介………
あ、まずい。やな予感……。
という予感通り、後ずさりするよりも早く、ガシッと抱きしめられた。
「だって慶を抱きしめにくくなるじゃん!」
「わっやめろっ」
おれがわたわたしているのにも構わず、浩介はおれの背中にまわした腕にギュウギュウ力をいれながら、満足げにうなずいた。
「やっぱり大丈夫だった」
「わかったんなら離せっ」
ここ学校! 人目が………っ
「やだっ離さな~い」
「お前………っ」
本気で蹴り倒すぞ……っ、と、言いかけたその時、ドアが開き、保健の小川先生が戻ってきた。
そして、おれ達二人をみて、一言。
「不純同性交遊するなら出ていってくれる?」
不純………って!
「ご、誤解ですっ」
「誤解です。残念ながらまだなんです」
「あほか!」
ケロッと本当のことを言う浩介に蹴りをいれてやる。
「まあ、どっちでもいいんだけど」
小川先生はニッコリと笑った。
「あの子達、目まんまるくしちゃってるでしょ。ちょっとは人の目気にして?」
「あ……」
テニス部の女子2人が呆気にとられたようにこっちを見ている………
今日は厄日だ………
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お読みくださりありがとうございました!
って、どうでもいい話をダラダラとっ。載せるのやめようかとも思ったんですけど……ま、まあ、彼らの高校生活こんな感じ、ということで、すみません……。
次回もダラダラしてます。もしお時間ありましたら、どうぞ宜しくお願いいたします。
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今回かなり挫けそうになったのですが、おかげで何とか続けることができました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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