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BL小説・風のゆくえには~旅立ち4-1

2017年12月19日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

【浩介視点】


 あれは高校一年生の5月のこと………
 慶のうちに初めて遊びに行って、初めて勉強を教えた時、慶はニコニコで言ってくれた。

「お前教えるの上手だな。本物の先生みたいだ」

 言われた瞬間……小学校2年生の時にクラスメートから言わたことを思い出して、全身から血の気が引いてしまった。

『そんなに頭良いこと自慢したいのかよ?』
『お前、ほんと嫌な奴だな』

 隣の席の人に聞かれたから答えただけなのに、前に座ってたクラスメートにそう言われて………

『同級生に教えるのは失礼なんだからな』

 憎しみのこもった目で睨まれて、身動きがとれなくなったことを、今でも昨日のことのように覚えてる。暗い暗い闇の中に落ちていく………

 でも………

「バカじゃねーの」

 一刀両断の慶の明るい声が、思い出の暗い闇を切り裂いてくれた。

「誰にそんなこと言われたのか知らねえけど、友達だったら教え合ったり助け合ったりするの当然だろ」

 ………友達。
 友達って言ってくれた。友達って………

 あたりがキラキラと輝きはじめる。
 いつでもおれを闇から救い出してくれる眩しい光。



 慶は、おれの初めての友達。初めての親友。初めての恋人。そして、初めての生徒だった。

 慶は優秀な生徒だ。勘がいいから、こちらの意図をすぐに読み取ってくれる。そして何より、分からないことは「分からない」といって、食いついてきてくれることも教える身としては助かっている。

 高校2年生の文化祭前に、数人の女子の前で慶に勉強を教えたのをきっかけに、クラスメートから勉強を聞かれる機会が増えたのだけれども、一番困るのは「分かったふり」をされることだと思うようになった。

『桜井君って教え方上手!』
『本物の先生みたい!』

 みんなそんな風に言ってくれるのだけれども、それでも、こちらの一度の説明だけでは理解してもらえないこともある。でも、分かっていないのに「分かった」と言う人もいて……。その場に慶がいて、

「分かんねえ。もう一回説明してくれっ」

とかいうと、「分かった」と肯いていた人が、食いつくようにその「もう一回」の説明を聞いていたりするのだ。

(なんで「ふり」をするんだろう……?)

 よくよくみんなを観察していて、おれに遠慮して「もう一回」と言えない、とか、みんなが分かったのに自分だけ分からないとは言えない、とか、各々理由があるということに気が付いた。だから、思った。

(おれが「何回聞いても大丈夫」って信頼される人間になればいいんだ)
(「分かったふり」をしていることを、見抜けるようになればいいんだ)

 教える人に寄り添って教える。それを心掛けるようにしていたら、勉強のことだけじゃなく、人づきあい自体も少し楽になったように思う。



『そんなに頭良いこと自慢したいのかよ?』

 今でも、そう言われたことを思い出して、押しつぶされそうになることがある。でも、

「さすが学年首位!」

 慶もみんなも、具体的に示されたその順位を認めてくれて、頼ってくれる。その度に縮こまっていた体が少しずつ自由になっていく。


『同級生に教えるのは失礼なんだからな』

 今でも、そう言った小2の時のクラスメートの目を思い出して、ひやっとなることがある。でも、

「分かった!」

 慶やみんなの嬉しそうな瞳がその目を埋めつくして見えなくしてくれる。

 その瞳が勇気をくれる。慶やみんなが嬉しそうなことが嬉しい。暗い記憶が奥の方に奥の方に押し込められていく。




***



 期末テストが終わった直後、元バスケ部キャプテンの田辺先輩から電話があった。

「小学生のバスケットボールチームのコーチをしてほしい」

 田辺先輩の母校の小学校が練習場になっているチームで、近隣の小学生がメンバーとなっているらしい。元々、田辺先輩もそこのチーム出身で、大学生になってからコーチをはじめたのだけれども、明日の練習に急に行けなくなってしまったため、代理を探しているそうなのだ。

「後輩指導、お前が一番上手だったからさ」

 そんな嬉しいことを言われた上に、自分自身でも、部活で一番楽しかったのは後輩指導の時間だった、という気持ちもあったため、ついつい二つ返事で「行きます」と言ってしまい、後から「慶に何て言おう……」と頭を悩ませることになった。

 なぜなら、引退試合終了後、慶に、

「バスケはもう、慶とできればそれでいい」

と言った、ということもあるけれども(もちろんそれは本心なんだけど!)……………それよりも何よりも、田辺先輩の彼女である堀川美幸さんが一緒ということが、大問題、なのだ。

(慶……絶対嫌がるよなあ……)

 慶の美幸さんアレルギーは相当なものなのだ。おれが一時期、美幸さんに片思いしていた、ということを、慶は執念深く恨んで?いて、今でも、美幸さんが参加する部活のイベントにおれが行く日には、ものすっごく機嫌が悪くなる。慶はそういうところ、すっごく分かりやすい。

(そんなに嫉妬することないのに……)

 もちろん、嫉妬されるということは「愛されてる」ってことで嬉しい。でも……

(慶が行くなって言ったら行けない……)

 でも……小学生の指導。してみたい。
 部活も引退なので、バスケを指導するという機会はもうない。

『高校からバスケ部なんて無理だと思ってたけど、桜井先輩のおかげで楽しく続けられました』

 引退試合の前日、後輩からもらったカードに書かれていたメッセージを思い出して、ますますその思いを募らせてしまう。

(やってみたい。でも………慶に何て言おう)

 答えの出ないまま、当日を迎えてしまったため、慶から予定を聞かれたときに、思わず、

「お父さんの用事」

と、咄嗟に嘘をついてしまったのは、おれ的にはもう、どうしようもないことだった。


***


 バスケチームのメンバーは男子17名、女子14名。コーチは代表コーチ(メンバーの子のお父さんらしい)が一人と、OBの大学生が3人。

 おれに与えられた役割は、3、4年生男女8人の指導だった。高学年の子達の中には確実におれより上手い子達もいたので、中学年担当でホッとした、というのが正直なところだ。

 はじめに、ドリブル練習と、一人ずつパス練習もしてみて、実力を測ってから、

「次!僕の言った通りに2人組になってください。清水さんと松山君、加藤君と林君、山本さんと金子さん……」
「えー!!」

 名前を言っていくと、予想通り、数人から文句の声が上がった。

「あたし、あやちゃんと一緒がいいー!」
「松山となんてヤダ!」

 ブウブウ言う子供達の声に、ふっと昔の記憶がよみがえる。

『静かに!学校は社会を学ぶ場所です。仲良しごっこがしたいなら、放課後、勝手にやりなさい!』

 キビキビとした声。佐藤緑先生………小学校2年生の3学期だけ担任だった先生だ。先生が勝手に決めた班に文句を言った生徒をそういって黙らせた。
 一緒の班になってくれる人のいなかったおれにとって、その言葉がどれだけ救いになったことか………

(先生…………お言葉、お借りします)

 心の中で許可を取ってから「まあまあ」とみんなを宥める。

「ただ仲良しの子と遊びたいだけなら、終わってからにして。僕はここに遊びに来てるわけじゃないんだよ。みんなにバスケを教えにきてるんだから」
「えー……」

 ブーッとし続けている子に、真顔で言う。

「じゃあ、君たちはここに何しにきたの? バスケの練習しにきたんじゃないの?」
「…………」

 そこまで言うと、みんなモソモソと言われた通りの2人組になってくれた。
 パス練習をさせながら、何回か組をチェンジさせたりして、様子をみる。

(リーダー格は、やっぱり松山君と清水さんかな……)

 実力と発言力が比例するのは、高校の部活内でも同じだった。みんなが何となく二人の動向を気にかけている感じがする。

 そんな中………

(あの子………気になるなあ………)

 加藤君、というわりと大柄な男の子。オドオドしている感じがする。まわりとうまくいっていないのかもしれない。小学校中学校時代の自分の姿と重なる………

 その予感は、4対4の試合形式の練習時に確信した。加藤君と同じチームの子供たちが、せっかく加藤君がフリーでいても、一切パスを送ろうとしないのだ。

「加藤君にもパス出して!」

 こちらの手伝いにきた美幸さんが眉を寄せて声をかけても、「はーい」といいつつ、わざと加藤君には強いパスを出して取りこぼさせたりして…………

「ちょっと、タイム!」

 我慢できなくて、タイムをかけた。「やばい」って顔をした子、半笑いになった子、心配げにこちらを見た子……、色々だ。そんな中、当事者の加藤君は困ったような顔をしてこちらをみている。

「さっきも言ったけど!」

 わざと語気を強めて言い放つ。

「ただ仲良しの子とだけ遊びたいのなら、この時間以外でして!」
「…………」
「今は、チームとして一人一人の………」
「だからちゃんとパスしたじゃーん」

 チームリーダーを任せた松山君が、半笑いでおれの言葉を遮った。

「なのに、あのくらいのパス取れねえ加藤が悪いんじゃん。野澤なら取れてたね!」
「……………」

 それがリーダーの言うことか………。大きくため息をついてしまう。

「それは君が、加藤君が取れるパスを出せばよかったんじゃない? 野澤君と加藤君は別人なんだから、パスの強弱変えるなんて当然だよね?」
「当然ってそんな……」
「松山君」

 今度はおれが松山君の言葉を遮ってやる。 

「チームには色々な人がいる。得意なこと不得意なことも人それぞれ。松山君ならそれを判断して、みんなを活躍させることができるって思ったんだけど」
「は?なんでオレが………」
「見てればわかるよ」

 怪訝な顔をした松山君をジッと見つめる。

「君にはそれができる実力がある。そうじゃなかったら、リーダーお願いしないよ」

 松山君はしばらくムッとした顔をしてから……

「分かったよ」

と、肯いた。


***


 帰りの片付けをしている最中に、美幸さんが転んで足をくじいてしまい、おれが病院まで連れていくことになったんだけど………

「今日の桜井君、すごかったねえ」
「え?」

 自転車の後ろに乗っている美幸さんに、あいかわらずぽやんとした感じに言われた。

「松山君、最後にはちゃんと加藤君とパス回せてたし……あんなに楽しそうな加藤君も初めてみた」
「それは……良かったです」

 ホッとする。余計なことをしたのでは、と気になっていたので………

 美幸さんが呑気な感じに続けてくれる。

「『仲良しの子とだけ遊びたいのなら、この時間以外でして!』ってなかなか思いつかないよ。すごいすごい」
「あ、いえ」

 褒めていただけるのは嬉しいけれど、これは残念ながらおれの手柄ではない。

「それは小学校の時の担任の先生が言ってたことで……その先生の真似っこしただけです」
「えー、なーんだ。真似っこかあ」
「はい。真似っこです」

 二人で笑ってしまう。

 そう、全部、佐藤緑先生の真似っこだ。


-------------

お読みくださりありがとうございました!
こうして、美幸さんと楽しそうにお喋りしているところを、篠原君に目撃され、慶君に知られることになったのでした。

そして、嘘つき浩介君、慶には「バスケは慶としかしないって言ったのに」としかいいませんでしたが、当然、慶が美幸さんのことを嫌がる、ということも、隠した大きな理由となっていたのでした。はい。やっぱりこの人嘘つきなんです。

次回は浩介視点の続き。全然BLじゃない真面目な話で申し訳ないやらなんやら……
お時間ありましたら、金曜日もどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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コメント (4)
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