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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係15-2

2019年07月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】


 渋谷慶と会うのは、20年以上ぶりになる。

 でも、待ち合わせに現れた渋谷は、若干歳を取ったものの相変わらずの超美形で、当時と同じくキラキラしたオーラを振りまいているので、間違えようもなかった。

「おーテツ!久しぶり!」

 明るい声も変わらない。相変わらず人懐こい感じだ。

「テツ、全然変わんねーな」

 ニコニコと言われたけれど……そんなことはない。オレは変わった。変わってしまった、と思う。

「久しぶりだなー何年ぶりだー?」
「んー……大学の時に高校の文化祭でバッタリ会って以来だから、20……何年だろうな」
「うわーそうかー懐かしいな!」
「…………うん」

 やたら嬉しそうにしてくれるから、何だか申し訳なくなってきた。オレは懐かしくて会いたかったわけではない。渋谷と桜井の話を聞きたかっただけなのだ。


 そんな後ろめたい気持ちを隠しながら、乾杯のビールを飲みつつ、仕事の話なんかをしつつ、なんと切り出そうかと迷っていたけれど……、2杯目のカシスソーダを注文したところで、

「で? おれと浩介の何を聞きたいんだ?」

と、渋谷が小首を傾げて言うから、驚いて吹き出してしまった。

「なんで……っ」

 なんでバレてる!?
 キョドったオレに、渋谷は肩をすくめた。

「山崎が、テツはそのこと聞きたいみたいだって言ってたんだよ」
「え」
「だから山崎、今日くるの遠慮したんだぞ?」
「……………」

 恐るべし山崎。思い当たることといえば、『渋谷はまだ桜井と一緒に住んでるのか?』と聞いたことくらいなのに、それで察したのか?

「あー……いや、その……」
「別に普通だぞ?」
「普通……」

 普通って……

「あの……前に山崎が、渋谷達は親とも上手くやってるって言ってたけど……」
「親?」

 キョトンとした渋谷。相変わらず可愛い。40半ばでこの可愛さ、芸能人か。
 渋谷は「うーん……」と唸ってから言葉を継いだ。

「うちの親は、浩介のこと『こうちゃん』とかいって可愛がってる」
「へえ……」
「浩介の親御さんは……まあ、本当のところはどう思ってるのかは知らないけど、おれが行くとお母さんはご馳走作ってくれるし、お父さんは色々話してくれる」
「…………それ、お前も可愛がられてるじゃん」

 言うと、渋谷は「そうかな」と照れたように笑った。

(本当に結婚してるみたいだな……)

 ふーん……とうなずいていたら、渋谷がまた首を傾げた。

「聞きたかった話ってそれか? 親にどう理解してもらったかって話?」
「あー……」
「うちの親はかなり適当だからあんま参考にならない気がするけど、それでも良ければ話すけど……」
「………」

 詰まってしまう。オレには母はいないし、父は元々オレに興味がないから理解してもらう必要性を感じない。あえて言えば……

「妹は?」

 するりと言葉が出てしまった。

「渋谷、妹いたよな? 妹はなんて?」
「あー……これも全然参考になんねえぞ」

 渋谷は苦笑して、揚げ出し豆腐をつつきはじめた。

「うちの妹、ちょっと変わってて……」
「変わってる?」
「変わってるっていうか……昔から、同性愛ものの本とか大好きでさ。だから、おれと浩介のことも一番に応援してて」
「…………そっか」

 うちの梨華は、今はどうか知らないけれど、オレと一緒に暮らしていた間は、そういうのに興味はなかったな……。
 梨華の興味はひたすら『オシャレ』にあった。高校の時には、あらゆるファッション雑誌を買いそろえていた。それで服飾の専門学校にいって、アパレル関係の会社に就職して、そこで出会った男と付き合いはじめて、子供ができて、結婚して……

(……幸せになってくれると信じてたのに)

 梨華は、オレがタイにいる間に、離婚して実家に戻ってきた。それと同時に、梨華の母親の清美さんも家に戻ってきて……

(もう、梨華にオレは必要ない)

 まあ、こないだの発表会の時みたいに、頼りにしてくれることはあるけど……でも、もう、清美さんがいるから、オレのことなんてどうでも……

「で?」

 渋谷の良く通る声で我に返った。振り仰ぐと、綺麗な瞳がこちらを見返している。

「それ悩んでるのって、テツ自身なのか?」
「………」
「聞いていいのか分かんねえけど……テツもゲイなのか?」
「………」

 ジッと見つめられ、詰まってしまう。それは……それは。

「それは……」
「あ、いや、言いたくなかったら言わなくていいんだけど」
「………」
「ただ、何を聞きたいのかな、と思って」
「……うん」
「…………」
「…………」

 気まずい沈黙の中で、2杯目が運ばれてきた。再度、「乾杯」というようにグラスを合わせる。カシスソーダとカシスオレンジ。似ているようで違う……

「……オレが聞きたかったのは、オレとお前、何が違うんだろうってことなんだよ」
「違い?」
「うん」

 二口三口、と喉に流し込み、渋谷を見返す。

「どうしてお前はその選択をできたのかなって……」
「選択?」
「桜井と一緒に暮らしたりする選択……だよ」
「あー……それは……」

 渋谷はまた「うーん」と唸ってから、ボソッと言った。

「それはただ……もう、離れたくなかっただけだ」


***

 それから渋谷は、桜井とのことをポツリポツリと話してくれた。

 学生時代から数年間、桜井の親には、桜井には女の恋人がいると嘘をついていたこと。
 就職してからはなかなか会えず、寂しい思いをさせてしまったこと。それで、桜井が一人、アフリカに行ってしまい、三年後、一緒に東南アジアに行くことにしたこと。
 四年くらい前に帰国してからは、周囲にもカミングアウトして、はじめは色々あったけれど、今は平穏な日々を送っていること……

「どんなことがあっても『別れる』って選択肢だけは、おれには思いつかなくてさ」

 酔いの回ってきた渋谷は、ヘラヘラと惚気てきた。

「どんな嘘をついてでも、何を犠牲にしてでも、手放したくなくて……」
「何を犠牲にしてでも……」

 それは……と思っていたら、いきなり渋谷の手が伸びてきて、トンッと胸のあたりを手の平で突かれた。「え?」と振り仰ぐと、渋谷の綺麗な瞳がそこにあった。

「『自分の心に正直に。あなたの思った通りにしなさい』」

 ニッと笑った渋谷。

「昔、姉貴に言われたんだよ。今この瞬間は一度しかないんだから後悔することするなってさ」

 一度しかない瞬間……
 オレはその瞬間瞬間をどれだけ自分の意にそぐわないことに費やしてきたんだろう……

(キョウ……)

 オレはただ、お前と一緒にいたかっただけなのに……
 本当は、何を犠牲にしても、一緒にいたかったのに……

 何だか気持ちがいっぱいになって呆けてしまっていたら、渋谷が「浩介何してっかなー……」とブツブツ言いながら、スマホを取りだした。どうやら、迎えにきてもらおうとしているようだ。

「…………いいな。渋谷は」

 思わず言うと、渋谷は「そうだろ」とニッと笑った。小学生の時から変わらない笑顔で。



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お読みくださりありがとうございました!
本当は前回ここまで書く予定だったのでした。
次回金曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします!

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コメント (2)
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