【哲成視点】
好きだよ。愛してるよ。
そう言い合って、軽いキスを繰り返して……
今日はこれ以上のことはしない、と言いながらも、このままでは進みそうだな……と思った矢先、
(…………ピアノ)
階下からピアノの音が聴こえてきて、唇を離した。
階下からピアノの音が聴こえてきて、唇を離した。
「…………」
「…………」
見つめ合い……なんとなく気まずくなって目をそらす。
(やっぱり、下に奥さんいるのに、こういうのはな……)
ふっと息を吐いてから、少し間隔を空けて座った。ピアノの音は引き続き聴こえてくるけれど……正直、下手くそだ。
「………。これ、歌子さんじゃないよな? こんな下手なわけないもんな」
普通に話しかけると、享吾は少し安心したようにうなずいた。
「ああ……たぶん、大人の生徒さん」
歌子さんは、大人の生徒のために、土日祝もレッスンを受け入れているらしい。そういえば、発表会にも大人が何人か出演していた。大人になって習い始めた人もいたけれど、大人のピアノは下手でも味がある。
「もしかして、お前も習ってるのか?」
「いや。こないだ習いたいっていったら断られた」
「へえ……」
教えてくれないんだ。不思議な夫婦だ。
(ああ、やっぱり……)
何だかよく分からない二人の関係。そもそも、享吾が歌子さんをどう思っているのかも知らない。知らないからモヤモヤする。このモヤモヤを解消するには、そこら辺の話をちゃんとしなくてはならないのだろう。……でも。
「……そろそろ帰ろうかな」
「え!?もう!?」
びっくりしたように叫ばれたけれど、もう6時だ。明日から旅行に行くのなら準備とかもあるだろう。
「旅行は一泊?二泊?」
「二泊三日だから、3日の夜に帰ってくる。だから哲成、4日……」
「ああ、ごめん」
提案しかけられたのを、手で遮る。
「4、5、6はオレが都合が悪い」
梨華たちを遊びに連れて行く約束をしているのだ。
「まー、会うのは連休明けの週末だな」
「……………」
「なんだその顔」
いつもポーカーフェイスの享吾が、明らかにガッカリしてるから、おかしくて笑いだしてしまった。
梨華たちを遊びに連れて行く約束をしているのだ。
「まー、会うのは連休明けの週末だな」
「……………」
「なんだその顔」
いつもポーカーフェイスの享吾が、明らかにガッカリしてるから、おかしくて笑いだしてしまった。
ほら、やっぱり、享吾はオレのことが好き。オレと一緒にいたいと思ってる。そしてオレを欲しいと…………
思ってると、思っていたんだけど。
11日の土曜日、享吾がお泊まりセット持参で夕方からオレの部屋に来た。だから当然、あの続きを……と思いきや。
(…………何もしねーとはな)
いや、何も、とは言い切れない。キスして手を繋いで腕枕をされて………………寝た。大学のはじめの頃みたいな感じだ。
享吾は普通に歩いていたので、足の調子は元に戻っているようだった。だからそれが原因とは思えない。
(オレが仕掛けてもいいんだけど……)
未経験のため躊躇してしまった。どう考えても、ここは、結婚生活18年半の享吾がリードすべきだろ? そもそも、若い頃、2回だけそういうことしたときも、享吾主導だったし……
(って、まさか、オレじゃ勃たなかった、とかいう……?)
………。
………。
ウッと詰まってしまう。そんなことはない……と思いたい。けど……
(オレが仕掛けてもいいんだけど……)
未経験のため躊躇してしまった。どう考えても、ここは、結婚生活18年半の享吾がリードすべきだろ? そもそも、若い頃、2回だけそういうことしたときも、享吾主導だったし……
(って、まさか、オレじゃ勃たなかった、とかいう……?)
………。
………。
ウッと詰まってしまう。そんなことはない……と思いたい。けど……
(まあ……たくさん話せたからいいか)
ふうっと息を吐き、綺麗な横顔をジッと見つめる。
ふうっと息を吐き、綺麗な横顔をジッと見つめる。
歌子さんのことは聞けなかったけれど、他のことは色々聞けたのだ。
そろそろ仕事復帰を考えていて、独立も視野に入れていること。
お兄さん一家が今、鹿児島に住んでいて、この春お子さんが東京の大学に通いはじめたこと。それで、お母さんが孫の面倒をみることを楽しんでいること。
明日の母の日には、バーでお母さんのためにピアノを演奏すること……
(…………良かった)
享吾のお母さんの幸せそうな顔が目に浮かぶ。孫の面倒をみて、息子夫婦と旅行に行って……。きっと、お母さんはこういう「普通の幸せ」を欲していたと思う。だから、やっぱり、今までのオレたちの選択に間違いはなかったのだと思う。
(…………そうだよな?)
眠っている享吾の唇をそっと指で撫でる。相変わらず整った横顔……
ああ、キョウも幸せそうだ。幸せだろうな。だって……
(キョウにはご両親がいる。奥さんもいる。でも、オレには……)
急に迫って来た孤独感に胸が苦しくなって、享吾に横からぎゅっと抱きつく。
(オレには、誰もいない。母にはもう会えないし、父も妹も清美さんに取られた)
でも……オレには享吾がいる。だからいいじゃないか。
(でも……)
諦めきれない自分がいる。ああ……高校生、大学生の時と同じだな。あの時も、清美さんに家族として受け入れてほしくてもがいていた。そう考えると、清美さんが家を出て行って、梨華の親がわりをしていた十数年は、オレにとっては幸せな時間だったのかもしれない。
でも……でも……今は。
ああ、キョウも幸せそうだ。幸せだろうな。だって……
(キョウにはご両親がいる。奥さんもいる。でも、オレには……)
急に迫って来た孤独感に胸が苦しくなって、享吾に横からぎゅっと抱きつく。
(オレには、誰もいない。母にはもう会えないし、父も妹も清美さんに取られた)
でも……オレには享吾がいる。だからいいじゃないか。
(でも……)
諦めきれない自分がいる。ああ……高校生、大学生の時と同じだな。あの時も、清美さんに家族として受け入れてほしくてもがいていた。そう考えると、清美さんが家を出て行って、梨華の親がわりをしていた十数年は、オレにとっては幸せな時間だったのかもしれない。
でも……でも……今は。
「……キョウ」
その愛しい胸に額をおしつける。
オレは欲張りだな……
その愛しい胸に額をおしつける。
オレは欲張りだな……
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お読みくださりありがとうございました!
20分遅刻っm(__)m
哲成の家族コンプレックスは根が深い。恋愛だけで進めないこんな真面目なお話にお付き合いくださり本当にありがとうございます!もうすぐ彼らの幸せな形が見えてくるはず……
次回火曜日更新予定です。どうして享吾が手を出さなかったのかーの話になる、かな?と。どうぞよろしくお願いいたします。
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