【享吾視点】
哲成と「家族」になりたい。
そのことに、今さら、ようやく気がついた。
哲成は小学生の時に母親を亡くしている。父親は積極的に子供と関わる人ではなかったため、哲成は、余計に幼なじみの松浦暁生に依存していたのだろう。
中学生の終わり頃、松浦の役目はオレにバトンタッチされた。それからはずっと一緒にいて、そんな日々がずっと続くと信じていた。
でも、高校三年生の時に、父親が再婚したことで、哲成はその新しい「家族」に溶け込もうと必死になりはじめた。そのために、森元真奈という同じ歳の女と付き合ったりしたくらいだ。
梨華ちゃんが小学一年生の時に、義母が家を出ていってしまい、哲成は職場を変えてまでして、梨華ちゃんと一緒にいることを選んだ。「そのうち結婚する」と言っていた森元真奈とのちに別れることになるのも、おそらくそのことが原因だったのだろう。
哲成は家族の話をあまりしてくれないので、推測でしかないけれど、父親と妹の梨華ちゃんとの3人暮らしをしていた十数年の間が、一番、落ち着いていたように思う。バーに来たときも、子供のいる常連さん達と子供の話をしている姿が、いつも楽しそうだった。
でも、梨華ちゃんが結婚して、子供が生まれて、梨華ちゃんの母親が戻ってきて……
哲成はせっかく守ってきた「家族」を奪われた形になっていたのだ。オレは自分の気持ちの処理に精一杯で、そのことに気がついていなかった。
でも……奪われたと思っていたのは、勘違いだったのだ。
母の日に、梨華ちゃんは哲成にカーネーションを渡してくれた。実家の近くに引っ越してきて、と強引に言い渡して、
「家族なんだから、甘えていいでしょ?」
と、当然のことのように言った。
「……分かったよ」
そう言ってうなずいた哲成は、今まで見たことのないような、優しい、泣きそうな瞳をしていて……
(ああ……そうか)
今さら……ようやく気が付いた。
オレは、哲成と家族になりたいんだ。
3年前、渋谷と桜井の写真を見て、あんなにも羨ましい、と思ったのは、「一緒にいる」だけではなく、彼らが「家族」に見えたからだったのか。
昔から、哲成が求めているのはひたすらに「家族」なのだ。
オレはその特別になりたい。渋谷と桜井のように。
オレはその特別になりたい。渋谷と桜井のように。
【哲成視点】
「半分、オレが出す」
と、享吾に唐突に言われ、「へ? なんで……」と、間抜けな言葉を発しかけて、その真剣な瞳とぶつかって、口を閉じた。
なんでって、それは……
『一緒に、暮らそう』
ってこと、だよな……
(でも、歌子さんは……?)
オレは享吾と歌子さんに離婚してほしいわけではない。……いや、本音を言うとしてほしいのかもしれないけれど、それによって、歌子さんや享吾のご両親が傷つくのが嫌なのだ。そんな罪悪感を背負って一緒に暮らせる自信はない。
でも……享吾と一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろう……。
昨晩みたいに、一緒にご飯を食べて、一緒の布団に入って、その温かな腕の中で眠って、起きても一人ぼっちじゃなくて……そんな朝が日常になったら、どんなに……。でも……
すいっと視線を享吾のご両親に向ける。
レジをしている享吾のお父さん。いつも穏やかでおおらかな人。
その近くで、梨華と喋っているお母さん。神経質そうにオドオドとしていた昔と違って、今はゆったりとした笑みを浮かべている。
(幸せ……なんだろうな)
この幸せを壊してはいけない。壊すことなんてできない……
そのまま、ぼんやりと眺めていたら、梨華がふっと振り返った。
「テックン、こっちに引っ越してきたらさ、歌子先生の家近いから、先生の旦那さんともすぐ遊べるよ」
「………」
享吾のお母さんと、子供の習い事の送迎の話をしていた梨華。「やっぱりテックンには早く近くに引っ越してきてもらわないと」なんて声が聞こえていた直後のこのセリフ。オレは花梨の送迎要員としてすっかり当てにされてるってわけだ。苦笑してしまう。
「遊ぶって、幼稚園児じゃねえんだから……」
「えー遊ぶでしょ?」
「あー……」
なんの遊びだ。なんていらんことを考えそうになりながら、享吾を振り仰ぐと、享吾は真面目な顔をして肯いた。
「そうだな。毎日遊べるな」
「…………」
「…………」
「…………」
冗談なのか本気なのか分からない……
享吾って昔からそうだ。ポーカーフェイスでサラリと変なことを言ったりする。さっきの、マンション購入費を「半分出す」って話だって……
(いや……それは本気だったな)
マンションを一緒に買うって、一緒に住むって意味……
(……あ、そうか。それって、別邸的な……)
愛人宅って扱いか……。ってオレ、愛人か!
自分で自分にツッコミをいれたけれど……納得もしてしまった。
歌子さんと離婚してほしいわけじゃない、とは言ってある。だから、一歩進んだ関係になろうとすると、それは、愛人、ということで……
(なんか……あらためて考えると、それも微妙だなあ……)
まあでも、一緒にいられるならいいのか……
なんてグルグルグルグルと考えていたら、会計の終わった享吾のお父さんがこちらにニコニコとやってきた。
「何の話?」
「村上君が享吾の家の近くに引っ越してくるって話よ」
享吾のお母さんも、つられたようにニコニコになりながら、言った。
「そうしてくれたらうちとしても安心よねえ。仲良しのお友達が近くに住んでるなんて」
享吾のお母さんはふいっと享吾の方を向き直ると、「享吾」と優しく、優しく呼びかけた。オレまで、胸がキュッとなるような、愛情のこもった声……
「今日はありがとうね?」
「いや……」
享吾が無表情に首を振ると、お母さんは今度はオレの方を、見た。
「村上君も、ありがとう」
「え?」
何が、ありがとう?
きょとんと見返すと、お母さんはにっこりと言ってくれた。
「享吾とずっとお友達でいてくれて。これからもよろしくね?」
「………。はい」
なんとなく……ちょっと、後ろめたい。けれど、なんとか肯くと、お母さんは、更に、慈愛に満ちたような笑みを浮かべた。
「享吾は幸せね。村上君がいてくれて」
「………え」
オレがいて、幸せ……?
ポカン、としてしまう。と、享吾がすっとオレの肩に手を回して、宣言するように言った。
「うん。幸せだよ」
「……っ」
キョウ……
「そうね。良かったわ」
「………」
享吾のお母さんの安心したような表情。
そんな……そんなこと……
「だから、テックン。早く引っ越してきてね?」
ダメ押しのように、梨華に言われて、もう……笑うしかなかった。
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お読みくださりありがとうございました!
微妙に遅刻m(__)m……
享吾視点、享吾さん色々勘違いしているなあと思いつつも訂正できない歯がゆさ。(松浦暁生と享吾は違うってこととか、森元真奈とのこととか)
哲成視点も同様で……二人もっと色々話した方がいいよ?と思う今日この頃。
次回金曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
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