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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係22の前

2019年08月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【慶視点】

 小学校、中学校、高校、の同級生である村上哲成から再び連絡があったのは、6月の下旬になってからだった。

「また、相談があるんだけど……」

というので、今回はうちに来てもらうことにした。
 料理上手の浩介が張り切って作った夕飯を食べて、これまた張り切って作ったつまみをつまみながら、飲みに移行して……

「……奥さんって感じだな」

 食器の片付けのために、浩介が台所にこもったところで、テツがボソッと言った。

「話には聞いてたけど、本当に、甲斐甲斐しい奥さんって感じ……」
「なんだそりゃ」

 話?

「誰が言ってんだよ」
「皆川」
「あー……」

 何度かうちに来たことがある高校の同級生だ。やたらと浩介の甲斐甲斐しさを羨ましがっている奴。
 テツはなぜか眉を寄せてジーッとオレをみるとボソボソと言葉を足した。

「それでいて、会話とかは普通なんだな」
「普通って?」
普通の友達みたい」
「…………。そりゃ、人前では普通に話すだろ」
「え?!」
「え?」

 なぜか驚かれて、こっちが驚いてしまう。

「なに……」
「人前ではってことは、二人きりの時は違うってことか?!」
「…………。え」

 え? いや? え? ええと……

「あー……どうかな……」
「どうかなって、今、人前ではって言っただろ!」
「言ったけど……」

 なんなんだ。この食いつき方……って、もしかして。

「もしかして、今日の相談ってそれか?」
「…………」
「…………」
「…………」

 ストン、と椅子に座り直したテツ。
 うー……と唸っている……

「ええと?人前と二人きりの時と変わらないって話?」
「いや………オレらも二人きりの時は違うといえば違うんだけど……」
「…………」

 オレら……
 やっぱり、テツに男の恋人がいるってことでいいんだよな?こないだは、全然詳しく聞かなかったんだけど……

 と、思っていたら、テツがハッとしたように、口に手を当てた。

「そうだった。オレ、ちゃんと礼言ってないよな? こないだはサンキューな」

 テツは律儀に頭を下げると、照れたように頬をかいた。

「こないだ渋谷が話聞いてくれたおかげで、なんつーか……先に進む覚悟ができて……」
「あ、そうなんだ」
「うん」

 うまくいったなら何よりだ。……で?

「でも、なんか……今までと変わんないんだよ……」
「変わんない?」
「うん……

 テツは言いにくそうに、コップに口をつけた。

「やっぱ、友達の期間が長かったせいか、それ以上の関係になりにくいというか……」
「あー……」
「オレらはさ、お前らみたいにカミングアウトする気はなくて……極力隠したいから、余計に人前では友達でいなくちゃで」
「…………」
「なんつーか……恋人っぽくならないっていうか……」
「…………」
「いや、この歳で恋人とか言うのもなにかなとも思うけど、でも……」
「…………」
「…………」
「…………」

 言いたいことは分かる、気がする。でも、それをどうするかって言われても………

 うーん………と二人して黙りこんでしまっていたら、コトン、とテーブルに皿を置かれた。さくらんぼがのっている。

「あの……」

 振り仰ぐと、浩介が遠慮深げに口を開いた。

「ごめん、話聞こえちゃったんだけど……」
「いや、桜井も話聞いてくれよっ」

 バンバン、とテーブルを叩いたテツ。

「なー、どうすればいいと思う?」
「うん。一つ提案があるんだけど」
「え?」
「え!」

 アッサリ言った浩介の言葉に、おれも叫んでしまう。さすが浩介。打開策があるのか!

「なになになに!?」
「恋人っぽくなりたければ、デートすればいいんじゃないかなって」
「………………。だからー」

 テツはガッカリと息をつくと、頬杖をついた。

「オレ達はカミングアウトしない方針なんだって。だからデートなんて……」
「うん、だからね」

 浩介はテツの言葉を遮ると、おれの方を向いた。

「来週の土曜日、みんなで一緒に、陶子さんの店に行こうよ」


***

 陶子さんの店、とは、浩介の友人のあかねさんが昔アルバイトをしていた、新宿にあるバーだ。普段は女性専用なのだけれども、偶数月の月末土曜日だけ、男性もカップルならば入店が許される。

 カップルならば、ということは、カップルでなくてはいけない、ということで。この店の中では、男同士はカップルでいることが必須なのだ。


 待ち合わせの新宿駅東口で、テツとその相手を待っている間、浩介はやたら上機嫌だった。

「なんなんだよ?さっきからニヤニヤして」
「えーだってダブルデートなんて初めてじゃーん」
「あほか」

 ゲシッと軽く蹴ってやる。

「ダブルデートじゃねえだろ。ただ連れていくだけ。向こう着いたら別々な」
「うん。思いっきりベタベタして見せつけてあげようね♥ ……って、痛いって」

 脇腹を小突いてやったけど、全然懲りてない。あはははは、と楽しそうに笑ってる。

「もー暴力亭主ー」
「お前がアホなことばっか言うからだっ」
「アホじゃないもーん。だって…………」

 浩介が言いかけて、

「え」

と、息を飲んだ。視線、おれの後ろだ。なんだ?

「なに……」
「悪い。待たせた」

 テツの声に振り返り………おれも息を飲んでしまった。

 だって……だって、テツの隣。隣にいるのは……

「きょ、亨吾……?」
「ああ、渋谷。久しぶり」

 アッサリと手を挙げたその男は、間違いなく、中学、高校の同級生、村上亨吾。

 その隣に、あの頃と同じように、寄り添うようにテツが立っていて………立っていて………って、えええ!?

「ちょ…………待て」

 思わず声が上擦ってしまう。

「テツの相手って、亨吾なのか?!」
「え」

 キョトン、としたテツが、首を傾げていった。

「言ってなかったっけ?」
「言ってねえよ!」
「言ってない!」

 浩介と一緒に叫んでしまい、道行く人から注目を集めてしまった……


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お読みくださりありがとうございました!
上記のことがあって、デートすることになった哲成と亨吾。のお話を次回火曜日に更新する予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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