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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係25

2019年08月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】

「恋人みたいになりたい」

と、享吾に言った結果、本当に、一緒にマンションを買うことになった。まさか、そんなことになるなんて、いまだに信じられない……

 嬉しくて夢みたいで、何だか毎日ふわふわしている。

 でも……実は、元々投げかけたことについては、まだ、解決していない。

 マンションに引っ越すまでまだ数週間あるので、享吾がオレが今一人暮らししている部屋に泊まりにくるんだけど……

(また、もう寝てる……)

 享吾は夜、何もせず寝てしまう。それはもう、速攻で。
 一応、一緒にテレビ見てるときとかはベタベタくっついたり、ちょっとキスしたりはするんだけど、それ以上のことは、ビックリするくらい何もしてこない。

(したくないのかなあ……)

 ベッドの中、横に寝ている享吾のスッとした鼻をなぞりながら、ジッと寝顔を見つめる。

(オレは、してほしいのにな)

 そんなことを思い……

(……してほしい?)

 ふ、と気が付いた。

(オレ……キョウには「してほしい」ばっかりだ)

 オレは亡くなった母にはじまり、幼なじみの暁生、妹の梨華、姪の花梨、その他にも、色々な人に「してあげる」ことばかり考えてきた。でも、享吾には「してほしい」がたくさんだ。

 唯一、してやれることは何かを考えて、したことは、「一生一緒にいる」ってことだけで……

(………キョウ)

 途端に、抑えきれない思いが込み上げてきた。おそらく、愛しさ、という言葉が一番合う思い……

「キョウ……」

 熟睡している享吾の頬に唇を寄せる。

(…………キョウ)

 ふいに蘇った中学時代の記憶。
 落ち込んでいたオレに、ただ黙ってピアノを弾いてくれた享吾……

 今日、偶然、幼馴染みの松浦暁生に20年ぶりに再会して、中学時代の暁生にそっくりな暁生の息子にも会ったせいか、妙に記憶が鮮明によみがえってくる。

 実家にまだピアノがあって……毎日のようにピアノを弾きにきてくれた享吾。オレは、享吾の横顔や背中を見ながらとか、隣でピタッとくっついたりしながら、ただボーッと聴いているのが好きで……

 今日、あれから月日が加算された今の暁生が、オレ達を見て、呆れたように言っていた。

『お前ら、あいかわらず仲良いんだな』

 そして、なぜか享吾を向いて、

『よろしくな、享吾』

と、言った。享吾は少し表情を固くして『ああ』とうなずいていたけれど………

(そういや、あれ、なんだったんだ?)

 その後、暁生の息子の野球部の話で盛り上がってたから、すっかり忘れていた。

「な、キョウー」
「……ん」
「キョウーキョウーキョウー」

 ユサユサと揺すぶると、ようやく少し目を開けた享吾。

「…………なんだ」

 口を開くのもダルそうに言われたけど、聞かないと気になって眠れない!

「今日さ、暁生に『よろしくな』って言われてたけど、なんで?」
「……ああ?」
「だから、暁生が『よろしくな』って!」
「ああ……」

 すいっと伸びてきた手に頬を触られドキリとする。……けど、享吾は寝ぼけたように、変なことを言った。

「オレは……松浦から譲ってもらったから……」
「何を?」
「…………お前を」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………。は?」

 何を言ってる?

「譲るって何の話だよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………こらっ寝るなっ」

 揺すぶったけれど、もうダメだった。

(譲るって……何なんだよ!)

 オレは物じゃねえっつーの!っていうか、暁生の物だったつもりもねーよ!って……

(いや、確かに、暁生の言うことは何でも聞いてたけど……)

 今思えば、それでしか、友人関係を続けられないと思っていたのだろう。

(でも……キョウは違う)

 ただ、一緒にいてくれた。慰めてくれた。ピアノを弾いてくれた。抱きしめてくれた。愛してくれた……

「キョウ……」

 無理矢理、腕の中にもぐり込むと、条件反射みたいに、抱き寄せてくれた。温かい……

「キョウ……」

 大好きだよ。

 そう言って胸におでこを擦り付けると、優しく頭を撫でられた。それだけで、胸がいっぱいになる。幸せ過ぎて。



【享吾視点】

 明け方、ふ、と目が覚めた。
 腕の中に哲成がいることが、嬉しくて、胸がいっぱいになる。幸せ過ぎる。

 それなのに………

(ああ……困ったな……)

 不安感がまだ強い。寝る前に薬を飲んだので、寝入りは良かったけれど、持続してくれなかったようだ。医者には続けての服用は止められているので、時間がたたないと、追加の薬は飲むことはできない。

(…………哲成)

 そっと頭を撫でる。愛しい感触……

(一生一緒にいる……)

 そう約束したのは大学の時だった。でも……その時思った未来とは違う方向に進もうとしている。それが最良の道だと思ったけれど……

『よろしくな、享吾』

 今日、何十年ぶりに再会した松浦暁生に言われて、背筋に冷たいものが走った。松浦には、中学3年の三学期に同じことを言われたのだ。

『テツのこと、よろしくな』

 高校からは譲る、と……。
 松浦は哲成の幼馴染みで、哲成の母親が亡くなった時もずっとそばにいてくれて、家族ぐるみで哲成を助けてくれていたらしい。

(よろしくって…………)

 オレはその期待にこたえられているのだろうか……

 今日、松浦親子と話しながらはしゃいでいた哲成の横顔を思い出す。松浦の息子は今、松浦と哲成の母校に通っていて、野球部でピッチャーをしているそうだ。

『えー三回戦突破?スゲーじゃん』
『負けたら引退だから、みんな気合い入りまくってて』
『今年は雨で予定が崩れて大変だよ』
『来週四回戦? オレ、応援行ってもいい? 一応、野球部OBだし!万年補欠だったけど!』
『おー、来てくれよ。四回戦の会場は……』

 息子の野球の応援……
 哲成にもそんな未来が選べたかもしれない……
 でも、オレと一緒にいたから、哲成は……

「…………っ」

 ひやっと指先と頭の先から血液が引いたのが分かった。全部の血液が心臓に集まってきて、勢いよく心臓をうちならしはじめる。 

(…………苦しい)

 喉が……詰まる。

(…………水)

 水を、飲もう。水……、水……

 何とか起き上がって、ベッドに腰かける。足元のテーブルに置いておいたペットボトルの水を取り、ゆっくり飲む。体に行き渡るように、ゆっくり……ゆっくり……落ち着け……落ち着け……

 息を吸って、吐く。水をゆっくり飲む……
 それを繰り返して、何とか落ち着いてきたところで、

「キョウ?」
「!」

 ペタ、と背中に手の平を当てられた感触がして、ビクッとしてしまった。でも、何とか普通の顔をして振り返る。

「ごめん、起こしたか?」
「いや……」

 薄暗い中、哲成が目を細めてこちらを見ている。眼鏡をかけていないので、見えないのだろう。

「水?」
「ああ……お前も飲む?」
「うん」

 うん、と言ったくせに、起き上がろうとしない哲成。

「? 飲まないのか?」
「飲む」
「じゃあ、起きろ」
「やだ」

 なぜか頑固な感じに哲成は言うと、

「でも、飲む」
「なんだそれ」

 意味が分からない。でもなんか可愛い。笑ってしまうと、手先にも血液が回ってきた。

「起きないと飲めないだろ」
「飲む」
「だから、起きないと……」

 言いかけて、あ、と思う。

「…………飲ませろってことか?」
「うん」

 コクリとうなずいた哲成が可愛すぎて……

「哲成…………」

 水を少し含み、そっと唇を合わせる。柔らかい……。ゆっくりと流しこむと、コクッと哲成の喉がなった。唇を離し、微笑みあう。

「…………キョウ」
「うん」
「オレな」
「うん」

 横に寝そべり、肘をついて、哲成の頭を撫でる。哲成はぼんやりした感じに、言葉を継いだ。

「今さらだけど……お前には、してもらいたいばっかりだって、気がついた」
「してもらいたい?」
「うん」

 頭を撫で続けると気持ち良さそうに目をつむりながら、哲成が言う。

「あのな……オレ、暁生とか梨華とかには、何かしてやらないとってずっと思ってたんだけど……」
「…………」

 暁生、の言葉にドキリとなる。心を読まれないように、少し構える、と、

「キョウ」
「…………」

 真っ直ぐに、瞳を向けられた。オレの大好きなクルクルした瞳……

「今さらなんだけどさ……」
「…………」
「お前って、特別なんだよなあ」
「え?」

 特別?

「お前は、オレが何もしなくても大丈夫で……」
「…………」
「逆に、してほしいことがたくさんで……」

 クルクルした瞳が少し笑った。

「そんな奴、お前しかいない」

 それは…………

「お前だけだ」
「…………」

 そんな……そんなこと……

「哲成……オレは……」
「あ、そうだ」

 言いかけたのに、ぺちっと額をはたかれ、止められた。

「お前、寝る前に変なこといってたの、覚えてるか?」
「寝る前?」

 薬の影響で急激な睡魔に襲われたため、ほとんど記憶がない……

「何言った……?」

 恐る恐る聞くと、哲成は口を尖らせて嫌なことを言った。

「暁生にオレを譲ってもらったって」
「え」
「なんでそんな話になってんだよ」

 それは…………

「あの頃の哲成は松浦の……」
「暁生のものじゃねーし。つか、誰の物でもねーし。つか、それ以前に、物じゃねえし!」
「それは…………」

 そうだけど……

 う、と詰まっていたら、哲成はますます口を尖らせて…………その口をキスをせがむみたいにこちらに寄せてきたので、ちょっと笑ってしまった。途端に、哲成が怒りだした。

「笑ってないで、しろよ!」
「キス?」
「そう」

 なんか、可愛い。言われるまま、チュッと軽く唇を合わせると、哲成は満足したようにうなずいた。

「やっぱり、お前にはしてほしいがたくさんだ」
「……そうか」

 それは何だかくすぐったい。
 オレは特別。哲成の特別……。

「キョウ、もっと」
「うん」

 せがまれ、また、唇を合わせる。柔らかい、愛しい感触……

「キョウ」
「うん」

 背中に回ってきた手が、ぎゅうっと抱きしめてくれる。愛しい。二度と離したくない……

「な、キョウ」
「うん」

 耳元で、哲成が囁くように言った。

「……したい」



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お読みくださりありがとうございました!
と、いうことで。次回かその次あたりに〈完〉をつける予定です。
続きは金曜日に。どうぞよろしくお願いいたします。

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