【亨吾視点】
高校の同級生、渋谷&桜井カップルが連れてきてくれたのは、新宿にある女性専用のバーだった。偶数月の最終土曜日だけ、男性も入れることになっているらしい。
『陶子』
と、蔦の葉の絵で描かれた看板がとても洒落ている。地下にあるため窓はないのに、圧迫感のない、明るい不思議な空間のバーだ。
カウンターに数席と、立ち飲みテーブルと、ソファ席がある。
(出会いの場っていう意味もあるから、こういう形なのかな……)
なんてついつい、経営者目線で分析してしまう。と、
「いらっしゃい」
カウンターの中にいたクレオパトラみたいな美人に声をかけられた。おそらくこの店のママ。凛とした佇まいの女性。
「陶子さん、こんばんは」
「今日はありがとうございます」
渋谷と桜井が次々と頭を下げると、『陶子さん』はフッと笑みを浮かべて、オレと哲成に「こちらどうぞ?」と、カウンターの一番端を手で差し示した。『リザーブ』の札が置いてある。
「え?」
そこ? 2席分しかないけど……、と思っていると、
「お二人はいつもの席ね?」
と、陶子さんが、カウンターの逆側の席を差し示した。
「???」
頭の中はハテナでいっぱいだ。
今日は「カクテルの美味しいバーで4人で飲もう」って話のはずじゃ……
渋谷達を振り返ると、二人はソファ席を見ながら顔を合わせていた。
「あかねさん、もう来てるな」
「あ、ホントだ」
ソファにいる女性の群れの中の一際目立つ美女がこちらに向かって手を振っている。渋谷が頭を下げ、桜井がそちらに向かって歩いていく。
「誰? 知り合い?」
哲成がこそこそっと渋谷に聞くと、渋谷がアッサリと言った。
「例の浩介の元カノ。あかねさん」
「!?」
元カノ!? と、オレは驚いて振り返ったのに、哲成は「ああ」と納得したようにうなずいた。
「スゲー美人だな。芸能人みたい」
「だろ。オーラ半端ねえよな」
…………。
そう言ってる渋谷だって、相当なオーラの持ち主だ。……なんてことはどうでもいい。元カノつてなんだ。オレだけ話についていけてない。
大輪の薔薇のような元カノと話す桜井を眺めながら、渋谷がオレ達に肩をすくめてみせた。
「あかねさんがいると、みんな彼女のとこに集まってカウンター側に人こなくなるからさ。だから今日来てくれるよう頼んだんだって」
「へえ……」
そんなことを頼めるような関係を別れても続けてるってのがすごいな……。って、あれ? 桜井はこないだ、高校の時から渋谷とずっと付き合ってるって言ってたのに……
意味が分からない……
どう考えても意味が分からない、と思っていたら、桜井が戻ってきた。
「お待たせー。じゃ、ここからは別々で!」
「チーズが種類色々あって面白いぞ?」
二人は口々に言うと、反対側のカウンター席に行ってしまった。
「…………」
だから……なんなんだ?
4人で飲むんじゃなかったのか?
桜井の元カノってなんだ?
頭の中が混乱しているところ、
「席、着こうぜ?」
哲成に腕を叩かれて我に返った。どうやら哲成は、オレとは情報量が違うようだ。何なんだろう……と思いながら席に着く。
と、陶子さんがスッとメニュー表を差し出してくれて、思わぬことを言った。
「心置きなく、恋人気分を味わってちょうだいね?」
「…………え?」
恋人、気分?
なんだ?それ……
ハテナ?と思いながら、哲成を見ると………哲成は気まずいような、照れたような顔をしながら、
「はい」
と、小さく返事した。
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お読みくださりありがとうございました!
とりあえず書けたところまで……。続きは金曜日更新予定です。