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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係22-1

2019年08月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【亨吾視点】

 高校の同級生、渋谷&桜井カップルが連れてきてくれたのは、新宿にある女性専用のバーだった。偶数月の最終土曜日だけ、男性も入れることになっているらしい。

『陶子』

と、蔦の葉の絵で描かれた看板がとても洒落ている。地下にあるため窓はないのに、圧迫感のない、明るい不思議な空間のバーだ。

 カウンターに数席と、立ち飲みテーブルと、ソファ席がある。

(出会いの場っていう意味もあるから、こういう形なのかな……)

 なんてついつい、経営者目線で分析してしまう。と、

「いらっしゃい」
 カウンターの中にいたクレオパトラみたいな美人に声をかけられた。おそらくこの店のママ。凛とした佇まいの女性。

「陶子さん、こんばんは」
「今日はありがとうございます」

 渋谷と桜井が次々と頭を下げると、『陶子さん』はフッと笑みを浮かべて、オレと哲成に「こちらどうぞ?」と、カウンターの一番端を手で差し示した。『リザーブ』の札が置いてある。

「え?」
 そこ? 2席分しかないけど……、と思っていると、

「お二人はいつもの席ね?」
と、陶子さんが、カウンターの逆側の席を差し示した。

「???」

 頭の中はハテナでいっぱいだ。
 今日は「カクテルの美味しいバーで4人で飲もう」って話のはずじゃ……

 渋谷達を振り返ると、二人はソファ席を見ながら顔を合わせていた。

「あかねさん、もう来てるな」
「あ、ホントだ」

 ソファにいる女性の群れの中の一際目立つ美女がこちらに向かって手を振っている。渋谷が頭を下げ、桜井がそちらに向かって歩いていく。

「誰? 知り合い?」
 哲成がこそこそっと渋谷に聞くと、渋谷がアッサリと言った。

「例の浩介の元カノ。あかねさん」
「!?」

 元カノ!? と、オレは驚いて振り返ったのに、哲成は「ああ」と納得したようにうなずいた。

「スゲー美人だな。芸能人みたい」
「だろ。オーラ半端ねえよな」

 …………。

 そう言ってる渋谷だって、相当なオーラの持ち主だ。……なんてことはどうでもいい。元カノつてなんだ。オレだけ話についていけてない。

 大輪の薔薇のような元カノと話す桜井を眺めながら、渋谷がオレ達に肩をすくめてみせた。

「あかねさんがいると、みんな彼女のとこに集まってカウンター側に人こなくなるからさ。だから今日来てくれるよう頼んだんだって」
「へえ……」

 そんなことを頼めるような関係を別れても続けてるってのがすごいな……。って、あれ? 桜井はこないだ、高校の時から渋谷とずっと付き合ってるって言ってたのに……

 意味が分からない……

 どう考えても意味が分からない、と思っていたら、桜井が戻ってきた。

「お待たせー。じゃ、ここからは別々で!」
「チーズが種類色々あって面白いぞ?」

 二人は口々に言うと、反対側のカウンター席に行ってしまった。

「…………」

 だから……なんなんだ?
 4人で飲むんじゃなかったのか?
 桜井の元カノってなんだ?

 頭の中が混乱しているところ、

「席、着こうぜ?」

 哲成に腕を叩かれて我に返った。どうやら哲成は、オレとは情報量が違うようだ。何なんだろう……と思いながら席に着く。

 と、陶子さんがスッとメニュー表を差し出してくれて、思わぬことを言った。

「心置きなく、恋人気分を味わってちょうだいね?」
「…………え?」

 恋人、気分? 

 なんだ?それ……

 ハテナ?と思いながら、哲成を見ると………哲成は気まずいような、照れたような顔をしながら、

「はい」

と、小さく返事した。



----------

お読みくださりありがとうございました!
とりあえず書けたところまで……。続きは金曜日更新予定です。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係22の前

2019年08月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【慶視点】

 小学校、中学校、高校、の同級生である村上哲成から再び連絡があったのは、6月の下旬になってからだった。

「また、相談があるんだけど……」

というので、今回はうちに来てもらうことにした。
 料理上手の浩介が張り切って作った夕飯を食べて、これまた張り切って作ったつまみをつまみながら、飲みに移行して……

「……奥さんって感じだな」

 食器の片付けのために、浩介が台所にこもったところで、テツがボソッと言った。

「話には聞いてたけど、本当に、甲斐甲斐しい奥さんって感じ……」
「なんだそりゃ」

 話?

「誰が言ってんだよ」
「皆川」
「あー……」

 何度かうちに来たことがある高校の同級生だ。やたらと浩介の甲斐甲斐しさを羨ましがっている奴。
 テツはなぜか眉を寄せてジーッとオレをみるとボソボソと言葉を足した。

「それでいて、会話とかは普通なんだな」
「普通って?」
普通の友達みたい」
「…………。そりゃ、人前では普通に話すだろ」
「え?!」
「え?」

 なぜか驚かれて、こっちが驚いてしまう。

「なに……」
「人前ではってことは、二人きりの時は違うってことか?!」
「…………。え」

 え? いや? え? ええと……

「あー……どうかな……」
「どうかなって、今、人前ではって言っただろ!」
「言ったけど……」

 なんなんだ。この食いつき方……って、もしかして。

「もしかして、今日の相談ってそれか?」
「…………」
「…………」
「…………」

 ストン、と椅子に座り直したテツ。
 うー……と唸っている……

「ええと?人前と二人きりの時と変わらないって話?」
「いや………オレらも二人きりの時は違うといえば違うんだけど……」
「…………」

 オレら……
 やっぱり、テツに男の恋人がいるってことでいいんだよな?こないだは、全然詳しく聞かなかったんだけど……

 と、思っていたら、テツがハッとしたように、口に手を当てた。

「そうだった。オレ、ちゃんと礼言ってないよな? こないだはサンキューな」

 テツは律儀に頭を下げると、照れたように頬をかいた。

「こないだ渋谷が話聞いてくれたおかげで、なんつーか……先に進む覚悟ができて……」
「あ、そうなんだ」
「うん」

 うまくいったなら何よりだ。……で?

「でも、なんか……今までと変わんないんだよ……」
「変わんない?」
「うん……

 テツは言いにくそうに、コップに口をつけた。

「やっぱ、友達の期間が長かったせいか、それ以上の関係になりにくいというか……」
「あー……」
「オレらはさ、お前らみたいにカミングアウトする気はなくて……極力隠したいから、余計に人前では友達でいなくちゃで」
「…………」
「なんつーか……恋人っぽくならないっていうか……」
「…………」
「いや、この歳で恋人とか言うのもなにかなとも思うけど、でも……」
「…………」
「…………」
「…………」

 言いたいことは分かる、気がする。でも、それをどうするかって言われても………

 うーん………と二人して黙りこんでしまっていたら、コトン、とテーブルに皿を置かれた。さくらんぼがのっている。

「あの……」

 振り仰ぐと、浩介が遠慮深げに口を開いた。

「ごめん、話聞こえちゃったんだけど……」
「いや、桜井も話聞いてくれよっ」

 バンバン、とテーブルを叩いたテツ。

「なー、どうすればいいと思う?」
「うん。一つ提案があるんだけど」
「え?」
「え!」

 アッサリ言った浩介の言葉に、おれも叫んでしまう。さすが浩介。打開策があるのか!

「なになになに!?」
「恋人っぽくなりたければ、デートすればいいんじゃないかなって」
「………………。だからー」

 テツはガッカリと息をつくと、頬杖をついた。

「オレ達はカミングアウトしない方針なんだって。だからデートなんて……」
「うん、だからね」

 浩介はテツの言葉を遮ると、おれの方を向いた。

「来週の土曜日、みんなで一緒に、陶子さんの店に行こうよ」


***

 陶子さんの店、とは、浩介の友人のあかねさんが昔アルバイトをしていた、新宿にあるバーだ。普段は女性専用なのだけれども、偶数月の月末土曜日だけ、男性もカップルならば入店が許される。

 カップルならば、ということは、カップルでなくてはいけない、ということで。この店の中では、男同士はカップルでいることが必須なのだ。


 待ち合わせの新宿駅東口で、テツとその相手を待っている間、浩介はやたら上機嫌だった。

「なんなんだよ?さっきからニヤニヤして」
「えーだってダブルデートなんて初めてじゃーん」
「あほか」

 ゲシッと軽く蹴ってやる。

「ダブルデートじゃねえだろ。ただ連れていくだけ。向こう着いたら別々な」
「うん。思いっきりベタベタして見せつけてあげようね♥ ……って、痛いって」

 脇腹を小突いてやったけど、全然懲りてない。あはははは、と楽しそうに笑ってる。

「もー暴力亭主ー」
「お前がアホなことばっか言うからだっ」
「アホじゃないもーん。だって…………」

 浩介が言いかけて、

「え」

と、息を飲んだ。視線、おれの後ろだ。なんだ?

「なに……」
「悪い。待たせた」

 テツの声に振り返り………おれも息を飲んでしまった。

 だって……だって、テツの隣。隣にいるのは……

「きょ、亨吾……?」
「ああ、渋谷。久しぶり」

 アッサリと手を挙げたその男は、間違いなく、中学、高校の同級生、村上亨吾。

 その隣に、あの頃と同じように、寄り添うようにテツが立っていて………立っていて………って、えええ!?

「ちょ…………待て」

 思わず声が上擦ってしまう。

「テツの相手って、亨吾なのか?!」
「え」

 キョトン、としたテツが、首を傾げていった。

「言ってなかったっけ?」
「言ってねえよ!」
「言ってない!」

 浩介と一緒に叫んでしまい、道行く人から注目を集めてしまった……


----------

お読みくださりありがとうございました!
上記のことがあって、デートすることになった哲成と亨吾。のお話を次回火曜日に更新する予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係21

2019年08月06日 07時32分27秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【享吾視点】


 哲成と「家族」になりたい。
 そのことに、今さら、ようやく気がついた。


 哲成は小学生の時に母親を亡くしている。父親は積極的に子供と関わる人ではなかったため、哲成は、余計に幼なじみの松浦暁生に依存していたのだろう。
 中学生の終わり頃、松浦の役目はオレにバトンタッチされた。それからはずっと一緒にいて、そんな日々がずっと続くと信じていた。

 でも、高校三年生の時に、父親が再婚したことで、哲成はその新しい「家族」に溶け込もうと必死になりはじめた。そのために、森元真奈という同じ歳の女と付き合ったりしたくらいだ。

 梨華ちゃんが小学一年生の時に、義母が家を出ていってしまい、哲成は職場を変えてまでして、梨華ちゃんと一緒にいることを選んだ。「そのうち結婚する」と言っていた森元真奈とのちに別れることになるのも、おそらくそのことが原因だったのだろう。

 哲成は家族の話をあまりしてくれないので、推測でしかないけれど、父親と妹の梨華ちゃんとの3人暮らしをしていた十数年の間が、一番、落ち着いていたように思う。バーに来たときも、子供のいる常連さん達と子供の話をしている姿が、いつも楽しそうだった。

 でも、梨華ちゃんが結婚して、子供が生まれて、梨華ちゃんの母親が戻ってきて……

 哲成はせっかく守ってきた「家族」を奪われた形になっていたのだ。オレは自分の気持ちの処理に精一杯で、そのことに気がついていなかった。

 でも……奪われたと思っていたのは、勘違いだったのだ。

 母の日に、梨華ちゃんは哲成にカーネーションを渡してくれた。実家の近くに引っ越してきて、と強引に言い渡して、

家族なんだから、甘えていいでしょ?」

と、当然のことのように言った。

「……分かったよ」

 そう言ってうなずいた哲成は、今まで見たことのないような、優しい、泣きそうな瞳をしていて……

(ああ……そうか)

 今さら……ようやく気が付いた。

 オレは、哲成と家族になりたいんだ。

 3年前、渋谷と桜井の写真を見て、あんなにも羨ましい、と思ったのは、「一緒にいる」だけではなく、彼らが「家族」に見えたからだったのか。

 昔から、哲成が求めているのはひたすらに「家族」なのだ。
 オレはその特別になりたい。渋谷と桜井のように。



【哲成視点】

「半分、オレが出す」

と、享吾に唐突に言われ、「へ? なんで……」と、間抜けな言葉を発しかけて、その真剣な瞳とぶつかって、口を閉じた。

 なんでって、それは……

『一緒に、暮らそう』

 ってこと、だよな……

(でも、歌子さんは……?)

 オレは享吾と歌子さんに離婚してほしいわけではない。……いや、本音を言うとしてほしいのかもしれないけれど、それによって、歌子さんや享吾のご両親が傷つくのが嫌なのだ。そんな罪悪感を背負って一緒に暮らせる自信はない。

 でも……享吾と一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろう……。
 昨晩みたいに、一緒にご飯を食べて、一緒の布団に入って、その温かな腕の中で眠って、起きても一人ぼっちじゃなくて……そんな朝が日常になったら、どんなに……。でも……

 すいっと視線を享吾のご両親に向ける。
 レジをしている享吾のお父さん。いつも穏やかでおおらかな人。
 その近くで、梨華と喋っているお母さん。神経質そうにオドオドとしていた昔と違って、今はゆったりとした笑みを浮かべている。

(幸せ……なんだろうな)

 この幸せを壊してはいけない。壊すことなんてできない……

 そのまま、ぼんやりと眺めていたら、梨華がふっと振り返った。 

「テックン、こっちに引っ越してきたらさ、歌子先生の家近いから、先生の旦那さんともすぐ遊べるよ」
「………」

 享吾のお母さんと、子供の習い事の送迎の話をしていた梨華。「やっぱりテックンには早く近くに引っ越してきてもらわないと」なんて声が聞こえていた直後のこのセリフ。オレは花梨の送迎要員としてすっかり当てにされてるってわけだ。苦笑してしまう。

「遊ぶって、幼稚園児じゃねえんだから……」
「えー遊ぶでしょ?」
「あー……」

 なんの遊びだ。なんていらんことを考えそうになりながら、享吾を振り仰ぐと、享吾は真面目な顔をして肯いた。

「そうだな。毎日遊べるな」
「…………」
「…………」
「…………」

 冗談なのか本気なのか分からない……
 享吾って昔からそうだ。ポーカーフェイスでサラリと変なことを言ったりする。さっきの、マンション購入費を「半分出す」って話だって……

(いや……それは本気だったな)

 マンションを一緒に買うって、一緒に住むって意味……

(……あ、そうか。それって、別邸的な……)

 愛人宅って扱いか……。ってオレ、愛人か!

 自分で自分にツッコミをいれたけれど……納得もしてしまった。

 歌子さんと離婚してほしいわけじゃない、とは言ってある。だから、一歩進んだ関係になろうとすると、それは、愛人、ということで……

(なんか……あらためて考えると、それも微妙だなあ……)

 まあでも、一緒にいられるならいいのか……

 なんてグルグルグルグルと考えていたら、会計の終わった享吾のお父さんがこちらにニコニコとやってきた。

「何の話?」
「村上君が享吾の家の近くに引っ越してくるって話よ」

 享吾のお母さんも、つられたようにニコニコになりながら、言った。

「そうしてくれたらうちとしても安心よねえ。仲良しのお友達が近くに住んでるなんて」

 享吾のお母さんはふいっと享吾の方を向き直ると、「享吾」と優しく、優しく呼びかけた。オレまで、胸がキュッとなるような、愛情のこもった声……

「今日はありがとうね?」
「いや……」

 享吾が無表情に首を振ると、お母さんは今度はオレの方を、見た。

「村上君も、ありがとう」
「え?」

 何が、ありがとう?

 きょとんと見返すと、お母さんはにっこりと言ってくれた。

「享吾とずっとお友達でいてくれて。これからもよろしくね?」
「………。はい」

 なんとなく……ちょっと、後ろめたい。けれど、なんとか肯くと、お母さんは、更に、慈愛に満ちたような笑みを浮かべた。

「享吾は幸せね。村上君がいてくれて」
「………え」

 オレがいて、幸せ……?

 ポカン、としてしまう。と、享吾がすっとオレの肩に手を回して、宣言するように言った。

「うん。幸せだよ」
「……っ」

 キョウ……

「そうね。良かったわ」
「………」

 享吾のお母さんの安心したような表情。

 そんな……そんなこと……

「だから、テックン。早く引っ越してきてね?」

 ダメ押しのように、梨華に言われて、もう……笑うしかなかった。


----------

お読みくださりありがとうございました!
微妙に遅刻m(__)m……

享吾視点、享吾さん色々勘違いしているなあと思いつつも訂正できない歯がゆさ。(松浦暁生と享吾は違うってこととか、森元真奈とのこととか)
哲成視点も同様で……二人もっと色々話した方がいいよ?と思う今日この頃。

次回金曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~続々・2つの円の位置関係20-2

2019年08月02日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続々・2つの円の位置関係

【哲成視点】

「じゃ、テックンにあげる」
「え?」

 梨華からカーネーションを差し出され、キョトンとしてしまう。
 オレは結局、清美さんに息子として受け入れてもらえなかった。彼女にとってオレは「再婚相手の息子」でしかない。そのことは、梨華も知っているはずだ。それなのに……

(あ、もしかして、墓参りしろってことか?)

 亡くなった母のお墓は、母の実家の本家の敷地内にある。そちらとは父の再婚を期に疎遠になってしまったため、もう何年も墓参りすらしていない。……なんてこと、梨華は知らないもんな……等々、考えを巡らせていたら、

「正直、あの人を母親って言われてもピンとこないんだよねー」

 梨華に肩をすくめながら言われて、「え?」と梨華を見返した。あの人?ピンとこない?

「だってさ、小学生よりも前の記憶なんて全然ないもん」
「…………」

 清美さんは、梨華が小学一年生の時に家を出ていってしまったのだ。それからずっと、梨華は父とオレとの3人暮らしだった。清美さんが梨華に会いに来ることは一度もなかった。

 清美さんが再び梨華の前に現れたのは、花梨が生まれた直後のことだった。父と清美さんがまだ連絡を取り合っていたことにも驚いたけれど、一度捨てた娘の元に、何事もなかったかのように会いに来た清美さんの図々しさにも驚いた。

「私の中では、あの人は『バアバ』なんだよ。花梨のバアバ」

 梨華は再び肩をすくめると、アッサリとした口調で言葉を足した。

「だから、あの人に母の日に何かあげるって気にはならない」
「…………」
「あげるなら敬老の日だね」
「……梨華」

 そんなこと思っていたなんて、微塵も知らなかった。すっかり清美さんを母親として受け入れたと思っていたのに……

 かわいそうに。かわいそうに、梨華。やっぱり母親のいない辛さを味合わせてしまった。オレがあの頃、清美さんの気持ちに気がついていれば、清美さんが出ていくことはなかったかもしれないのに。そうしたら、そうしたら……

(梨華……)

 目の前が暗く暗くなっていく………

 そのまま、沈みこみそうになった、その時。

「なるほどね」
「……っ」

 ポン、と優しい手が頭に乗せられた。ふりあおぐと、享吾がいつも通りの涼しい瞳でこちらをジッと見ている。

「キョウ……」
「梨華ちゃんにとっての母親は哲成ってことだな」
「え?」

 母親?
 首を傾げると、梨華が「そうそう」とうなずいた。

「だから、カーネーションあげるなら、テックンかなって」
「そうだね」

 微笑んでいる享吾……
 梨華は再び、オレの方にカーネーションを突きだすと、ニッと笑った。

「いつもありがとう、テックン」
「………梨華」

 そんなこと………
 オレが、母親? オレはちゃんと、梨華の母親代わりになれてたってことか? 
 オレは、梨華の家族に………

「だからさ」
 梨華は口調を変えると、ぷうっと頬を膨らませた。いつもの、文句を言うときの梨華の顔だ。

「テックン、やっぱりもっとうちの近くに住んでよ。来るのに一時間以上かかるなんて遠すぎるよ。不便すぎ!」
「…………」
「タイから帰って来たときにも言ったでしょ。なのに会社の近くに住んじゃってさー」
「それは……」

 梨華には清美さんがいるから、オレなんか必要ないと思ったから……
 なんて言えず、黙っていると、梨華はビシッとオレに指を突き立てた。

「とにかく早く引っ越してきて!いい?」
「…………」
「梨華はまだまだテックンに甘える気満々なんだからね?」
「……なんの宣言だよ」

 子供の頃のように自分のことを「梨華」というと、ますます昔に戻ったみたいだ。

「家族なんだから、甘えていいでしょ?」
「…………」

 家族だから。

 梨華の上目遣い。小さな頃から、この目には敵わなかった。大切な妹……

「……分かったよ」
「やった」

 肯くと、梨華ははしゃいで手を叩いた。この笑顔を守るために、オレは何年も梨華と一緒にいた。そのためにオレは……


***

 帰り際、「駅の反対側の新築マンションが売りにだされてるんだけど……」と、享吾がオレにだけ聞こえる声で、小さく言ってきた。梨華はすっかり意気投合した亨吾の母親と、子供の習い事の話で盛り上がっている。

「マンション?」
「ああ。来週、見にいかないか?」
「ああ。でも新築かあ……」

 高いんじゃないのか?

 言うと、享吾はさらに声をひそめて、言った。

「半分、オレが出す」
「へ? なんで……」

 言いかけて、享吾の真剣な瞳とぶつかって、口を閉じた。

 なんでって……なんでって、それは……

『一緒に、暮らそう』

 言葉には出てない声が聞こえた。


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お読みくださりありがとうございました!
次回火曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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