それにしても最近、多いんだよね。無理なダイエットをしている若い女性が。どうしてそこまでして痩せたいんだか」
ベテラン医師は呆れ顔で麻美のほうへ顔を向けた。
病院を出る時には麻美は随分、回復したものの、佐世子の自宅へはタクシーで帰った。午後7時前、辺りはすっかり暗くなっていた。佐世子は自宅アパートのドアを開けた。奥の部屋から麻美が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん?」
一瞬、彩乃の顔に緊張が走った。
「随分、変わっちゃったでしょ」
麻美は彩乃から目を逸らしていた。妹の軽蔑の眼差しに耐えられそうにないし、また彼女の健康的な若さも今の麻美には毒のように思えた。
「痩せたね。何でもっと早く帰ってこなかったの?」
手を握ってきた彩乃の目は潤んでいた。
「ごめんね」
麻美の声が掠れた。
夕食に3人でお粥を食べ、麻美を風呂に入れ、その間に彩乃が近くのドラックストアでナイトウエアや歯ブラシなど思いつく生活用品を買ってきて、母子3人で他愛もない話をしていたら、午後10時を過ぎていた。
「麻美、疲れたでしょう。そろそろ体を休めたほうがいいよ」
佐世子が時間を知って慌てて促した。
「うん。そうする」
麻美も眠くなってきたようだ。
「お姉ちゃん、私と一緒の部屋で寝ようか?」
彩乃は提案したのだが、佐世子に否定された。
「麻美は私の部屋で寝るからあなたはいつも通り、一人で寝なさい」
彩乃は諦めたようで小さな声で「おやすみ」と言い、襖を閉じた。一枚しかない敷布団に麻美を横たわらせ、佐世子は座布団を二つ折りにして頭を乗せ、毛布を一枚掛け、畳の上に寝転がった。
「お母さんごめんね。背中、痛くない?」
今日、何度聞いただろう。彼女の謝罪を。