ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

少年棋士とベテラン棋士

2018-07-06 05:58:02 | 
藤井聡太七段の111手目を見て
豊川孝弘七段はしばらくして投了した
天才棋士の老獪な指しまわしに豊川は悔しさをにじませた
藤井の駒台に無造作に散らかる駒たちが彼が少年であることを物語るだけ
恒例のインタビューが始まり、藤井はいつもの様にはにかんで答える

質問が豊川に移った
半日以上盤上で火花を散らした疲労を浮かべながら豊川は言った
「3回りほど違うのかな。年甲斐もなく、今日は先手を持ちたいと思ってたんですがね」
振り駒は豊川の気持ちも知らず、藤井の先手を選んだ

「いや、完敗ですよ。長渕剛ですよ」
得意のギャグにも、敗れた勝負師の寂しさは染みついていた
そしてこうも続けた
「最近は成績もさっぱりでしたけど、藤井七段が現れて、また将棋が楽しくなった」
天才棋士の出現への闘志と感謝を素直に口にした

最後にもう一度「いや、完敗ですね、長渕さんですね」と独り言のように話した
古びたギャグに意味が解っているのかいないのか、藤井は豊川の言葉を穏やかに聞いていた
盤上を挟んだ二人の姿は引き止めたい思いを振り切って、手の届かない場所へ離れていく父と息子のようでもあった
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