なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

プライマリ・ケア学会(その3)~リウマチ・ポケットエコー・診断エラー

2016年06月13日 | Weblog

 内科学会とのジョイントプログラムで高林克日己先生の「リウマチ診療の進歩」を聴いた。2010年のACR/EULARの関節リウマチ分類基準は4つの項目、すなわち1)腫脹なたは圧痛のある関節数 2)血清学的因子(RF・抗CCP抗体) 3)滑膜炎の持続期間(6週間未満か以上) 4)急性期反応物質(CRP・ESR)のうち、6点以上で関節リウマチと診断を確定する。関節数だけでは橙でも5点にしかならない、など良くできていると言われた。

 進行性・予後不良例は、1)抗CCP抗体が100以上 2)MRIで骨びらん 3)炎症性変化が強い(CRP・MMP-3)。最初の2年で一気に進行する(window of Opportunity)ため、治療は早ければ早いほど良い。診断したらすぐにDMARDs(メトトレキサートMTX)を使用して、3か月経過して改善すればMTXを継続し、改善しなければバイオ(生物学的製剤)を使用する。

 MTXはがRAのアンカドラッグで、禁忌がなければMTXで治療を開始する(MTXは葉酸代謝阻害薬で、大量に使用すれば抗癌剤)。妊婦・授乳時には使用できない、また高齢者には注意して使用する。8Cap・16mgまで使用できるが、多くの人はそこまでの量は副作用で無理。(今日の治療指針では通常は、3~4Cap/日から開始。副作用を確認して増量。ただし高齢者・軽度腎障害では2~3Cap/日から。) 24~48時間後にフォリアミンを併用する。葉酸を多く摂取(サプリメント・青汁・海藻類・サザエ)していると、効果がなくなってしまう。MTXの副作用は、1)間質性肺炎(MTX量と無関係) 2)口内炎・舌炎(フォリアミンで予防) 3)急激は白血球減少(高齢者・感冒に注意)。

 MTXで効果不十分な時は、生物学的製剤を使用する。TNF阻害薬として、レミケード(インフリキシマブ)・エンブレル(エタネルセプト)・ヒュミラ(アダリムマブ)。これらは、1)早期治療するほど効果が高い 2)骨が修復される 3)MTXと併用した方が効果が高い 4)改善すれば休止もできる。ただし、1)値段が高い(4万/月)2)重症の肺感染症をきたす 3)悪性腫瘍合併では使用できない 4)原因に対する根本的治療ではない。大阪大学で開発した、抗IL-6受容体のアクテムラ(トシリズマブ)が一番有効である。ただし、感染症併発が多く、CRPなど炎症反応が上昇しない・発熱がないなど感染症の発症に気づきにくいので、専門医が使用する。高齢者には不向き。

 症状がない(腫脹・圧痛)、炎症反応(CRP・ESR)が陰性化した場合は、休薬できる。しかし、休薬できるのは2/3で、そのうち1/2/が1年で再燃するので、休薬継続できるのは1/3だけになる。

 生物学的製剤が使用できない時は、MTXに古典的なDMARDs(リマチル・アザルフィジンEN)を併用する(DMARD3剤併用療法)。ステロイドはプレドニン3mg/日以下の少量にとどめる。NSAIDsはステロイドを併用で消化性潰瘍をきたす。

 検査は、MRIで骨びらんを見る。関節エコーはドップラーで血流シグナルの有無を見る。視診・触診でわからない病変を検出できる。治療はTreat to Target(T2T)で、臨床的寛解(症状を抑える)から構造的寛解(骨破壊を抑える)、機能的寛解(普通の生活かできる)をめざす。

 フォロ-中の注意は、1)腱断裂(早期手術) 2)単関節腫脹(穿刺排膿) 3)発熱(MTX中止) 4)呼吸困難(MTXで間質性肺炎、生物学的製剤でカリニ肺炎) 5)疼痛(炎症か変形・強直か) 6)手指の腫れ・炎症反応上昇(専門医へ) 7)終末期(NTM,るいそう)。

 ワークショップは、「ポケットエコー」と「診断エラー」に出た。ポケットエコーは看護師さんも使えるようにしようというもので、まずは膀胱エコーから始めるという話だった。ポケットエコー「MIRUCO」は16万円。

 診断エラーの要因は、単なる医師の疲れなどもあるが、患者に対する陰性感情(陽性感情も注意)、他者の得た病歴や診察への過度の依存(病名付きの申し送りをそのまま信じる、専門医が一度診ている)、早期閉鎖(病名を決めつけてしまう)、アンカリング効果・確証バイアス(一度病名をつけてしまうと、合わないことも合っていると思い込む)などがある。帰りに、徳田安春先生の「見逃してはならない疾患の除外ポイント The診断エラー学」医学書院を購入した。

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プライマリ・ケア学会(その2)~OC・LEP製剤

2016年06月13日 | Weblog

 プライマリ・ケア学会の続き。ワークショップ「明日から処方したくなるOC・LEP製剤」に出た。OC(Oral contraceptives 経口避妊薬)で、そのうち月経困難症の保険適応をとっている薬剤がLEP(Low dose Estrogen-Progestin 低用量エストロゲン-プロゲスチン)だ。いわゆる(低用量)ピル。

 あおもり女性ヘルスケア研究所の蓮尾豊先生が経口避妊薬(ピル)の話をされた。蓮尾先生はピル普及に尽力している(らしい)。ピルは、1)最も確実な避妊法 2)女性みずからが選択できる 3)多くの利点がある 4)少ない副作用、ということだ。ピルは卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類のホルモン剤で構成されている。卵胞ホルモンは1種類だけだが、黄体ホルモンは第1世代から第4世代まである。

 ピルは、1)女性ホルモンの分泌を調整して排卵を抑制する 2)子宮内膜を菲薄化して受精卵の着床を抑制する 3)頸管粘液を変化させて精子の子宮内進入を防ぐ、などの作用で確実な避妊効果を発揮する。

 基本的に、ピルを毎日1錠ずつ(実薬)21日間服用して、7日間休薬する(あるいは偽薬を服用する)と、消褪出血が起きる。大切な予定の時に月経がぶつかる時は、実薬の服用期間を延ばせば(21日以上の服薬)、月経を遅らせることができる。月経を早める場合は、14日間実薬を服用して休薬すれば消褪出血が起きる。ピルの最大のメリットは月経開始日を自由にコントロールできること。

 ピルの副効用として、月経困難症の改善・月経過多の改善・月経不順の改善・排卵痛の消失・月経前症候群の身体症状改善などがあり、子宮外妊娠の減少・子宮内膜症の抑制・子宮筋腫の発症予防がある。

 ピル処方の禁忌項目について、チェックシートを用いて確認する。副作用は、頻度は多いが内服継続で3か月以内に消失するものとして、1)不正性器出血(破綻出血) 2)頭痛/悪心(軽度なら継続、耐えられない時は月のピルに変更) 3)浮腫がある。

 頻度は低いが起こると重篤な副作用として、血栓症がある。1年以内に多いが特に1か月に起こる。ACHES(エイクス)すなわち、A:Abdominal pain(腸間膜血栓症) C:Chest pain(心筋梗塞・肺塞栓症) H:Headache(前兆を伴う頭痛) E:Eye disorders(視野障害、網膜血管の血栓) S:Severe Leg pain(下肢痛、深部静脈血栓症)をチェックする。リスクはOC非服用者の1~5人/年間/10000人に対して、OC服用者は3~9人とあまり問題にはならない

 定期フォローで行うのは問診(ACHES)・血圧測定・体重測定で、初期は1か月毎、以後は3か月毎に行う。また応用編として、緊急避妊の方法もあった(性交渉から72時間以内に婦人科を受診してノルレボを内服するなど)

 産婦人科医のいる総合病院の内科医なので、月経に関する問題で受診する患者を診ることはないし。実際に処方する機会はない。処方する医師を増やしたいという企画なので、そういう立場で参加するのは申し訳ない気がする。少なくとも、これまでの「ピルと言えば血栓症で危険」「ピルは特別な人が服用するもの」という認識(誤解)は払拭された。

 蓮尾豊先生によれば、産婦人科医でもピルの処方を快く思っていない医師が多いそうだ。受診した患者さんで、月経困難症の話が出た際には、低用量ピルの治療を勧めることはできる。まず当院の産婦人科医の先生方のピルに対する考えと処方に実態を確認してみよう。ファシリテーターの池田裕美枝先生と問診の取り方でちょっとだけ話をした(ミーハーですね)。

 お昼の学会ジョイントプログラムで、種部恭子先生の「思春期の性の現状と学校性教育」を聴いた。10代女性(もっと低年齢も含めて)の性の問題を詳しく教えてもらった。離婚した母親の再婚相手、父親、教員など大半は身近な男性が性交の相手になっているそうだ。またSNSで知り合った相手には携帯のやり取りで親しくなった気になっていて、初めて会った時の性交が多いそうだ、避妊の教育を受けていないので、望まない妊娠をして、どこに相談していいか迷っているうちに中絶のタイミングを逃してしまったりする。中学生や高校生で妊娠すると、高卒の学歴がとれずに学校をやめてしまうことになり、普通の就職ができずに風俗でしか働くことができないという。中学生の性教育(指導要領)で「性交」や「避妊」は使用できないそうで、日本の性教育は欧米に比べて相当に遅れている。迫力のある講演で圧倒された(種部先生はちょっと銀座のママ風)。

 このような講演を聴けるのが、プライマリ・ケア学会の面白いところだ。

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