なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

ヘルペス脳炎?

2017年04月10日 | Weblog

 40歳代半ばの男性が車いすで内科外来を受診した。担当した先生から、どうしましょうかと相談された。息子の乗った車いすを押してきた母親は検査と入院を希望しているという。患者さんはほとんど答えず、もっぱら母親だけがは話をするそうだ。

 1週間前からふらふらして動きにくくなっていた。そのころから後頸部痛があった(ずっと持続していたわけではない)。3日前の金曜日に母親が息子の自宅に行って、実家に連れ帰った。寒気がしていたというが、体温測定はしていなかった。患者さん自身は受診する気がなく(病院を受診すべきと判断できなかった)、母親が何としてもの思いで受診させたのだった。母親も、土日は受診せず月曜日に受診することにしたという律儀な方だった。

 病院で体温測定すると38℃の発熱があった。上気道症状はない。後頸部痛は軽度にある。胸痛・腹痛・筋肉痛・関節痛はない。血液検査では白血球数正常域でCRP0.5だった。肝機能障害が軽度にある(腹部エコーは異常なし)。胸部X線で肺炎はない。

 外来の点滴室に行って診察してみると、心雑音はなく呼吸音は正常だった。腹部に圧痛はない。立ってもらうとふらついてしまい、点滴台をつかんでもふらふらする。筋力低下ではなく、バランスがとれないらしい。熱だけでは説明できない。自宅でテレビの音を大きくして聞いていたと母親が言う。これまで難聴はなかった。それほど大きな声で話かけないでも、聴こえているようだったが、どうも後で考えると理解力が遅れていたようだ。普通に会話はできると判断したが、それは誤りだった。

 頭部MRIをオーダーして、検査が始まるころに見に行った。途中でブザーを押すので、放射線技師がMRI室内に入ると、尿が出ると言う。看護師さんが尿瓶を持ってきたが、すでに失禁していた。オムツをはかせて検査を再開したが、またすぐにブザーを押してくる。聞いても、なぜ押したかがよくわからないらしい。

 頭部MRIをみると、両側前頭葉内側にすぐわかる病変が出現した。出血を伴う病変だった。すぐに(ひとり)神経内科医に連絡して診てもらった。やはりヘルペス脳炎疑いだった。側頭葉には病変がなさそうだ。左右対称の脳出血もないだろう。左右をまたいでの脳腫瘍(リンパ腫か)も考えにくい。1週間の経過であり、感染性病変と判断される。順序が逆になるが、頭部CTで出血を確認した。

 神経内科医が、地域の基幹病院神経内科のトップの先生に連絡した(神経内科4名+脳外科医3名が常勤)。受けてもらえたので、救急搬送とした。当院としては受診から搬送まで4時間。出血があるので、高次脳機能障害が残るだろう予想されたが、まず生命が助からないとどうしようもない。受診させて検査を希望した(頭の検査をと希望した)母親は偉大なものだという話になった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする