金曜日は消化器病学会の地方会があった。遺伝性血管性浮腫Hereditary angioedema(HAE)の講演(ランチョンセミナー)があり、これが聴きたかった。講演されたのは熊本から来られた救急医の前原潤一先生。
遺伝性血管性浮腫Hereditary angioedema(HAE)は、補体のC1インヒビター欠損症。有病率は5万人に1人(日本に2,000人)で、75%は家族歴があり、25%は新生変異(孤発性)になる。
血管性浮腫の中で、ヒスタミンに起因するアナフィラキシーや蕁麻疹とは違い、ブラディキニンに起因する。ブラディキニンが血管透過性亢進を来たして浮腫が起こる。
原因(引き金)になるのは、機械的・肉体的ストレス(歯科処置、打撲)、精神的ストレス、妊娠・薬剤など。
症状は、顔面・口唇の皮膚の浮腫、喉頭・声門の浮腫、消化管の浮腫、四肢の皮膚の浮腫。急性発作はこのうちのどこの部位にも起こる。
喉頭浮腫は気道狭窄・閉塞により、死亡原因になる。50%の患者が経験している。急性喉頭蓋炎が鑑別になるが、血管性浮腫はみずみずしい(刺すと水が出るようなと)外観を呈する。消化管の浮腫では腹痛で受診し、CTで消化管の浮腫と腹水を認める。
診断は、C1インヒビター活性、C4濃度を測定する(保険適応があり)。(C1インヒビター濃度は保険適応外)
治療は、C1インヒビター製剤(商品名ベリナートP)。ブラディキニン受容体拮抗薬のイカチバント(商品名フィラジル)の皮下注。これは在宅自己注射の適応がある。症状が進行するので、できるだけ早く治療する。
問診のコツは、1)初めてか以前にあったか、2)手足・顔喉・腹部の腫脹の有無、3)初めての症状はいつごろからあるか(思春期から起き始める)、4)家族の同じ症状の人がいるか、を訊くこと。
「急性腹症ガイドライン」に「生来健康な患者が6時間以上続く激しい腹痛を訴えた場合は外科的病態である」というCQがある。この疾患を知っていれば不要な手術を避けることができる。東北ではこの疾患の報告が極く少なく、経験しているが認知されていないのだろうという。
詳しくは、イカチバント(商品名フィラジル)を販売している武田製薬ホームページを見て下さい、ということだった。
他の講演は、
肝細胞癌治療のパラダイムシフト 工藤正俊先生
2007年から20017年の10年間、幹細胞癌の分子標的治療はソラフェニブだけだったが、2017年以降に新規6剤が出た。その中でレンバチニブはソラフェニブに非劣性で低分化肝細胞癌ではソラフェニブに勝る。
腫瘍サイズ・腫瘍個数・部位から根治可能であれば、肝動脈化学塞栓療法(trasncatether arterial chemoembolization:TACE)を行う。TACE不応になれば分子標的薬にスイッチするとされてきた。
分子標的薬先行後のTACEは、TACEのみに勝る。分子強敵薬による腫瘍縮小・腫瘍血管正常化・薬剤デリバリーの改善により、TACEの効果を増強する。
胆膵内視鏡の最前線 糸井隆夫先生
超音波内視鏡を使用した、胃あるいは十二指腸からの胆道ドレナージをビデオを供覧。専門施設ではここまでやれるのかと驚くばかり。中国人富裕層が内視鏡治療を希望して来ているそうだ。
症例では、ベンス・ジョーンズ型多発性骨髄腫の続発性アミロイド―シス(S状結腸~直腸病変の生検でアミロイド検出)、浸潤性乳癌の直腸転移、が興味深かった。
2日目は病院に呼ばれたので、専門医セミナーだけ出席(単位を稼いだ。2020年度は学会が広島と神戸と遠方で行かないから)。