内科の若い先生に相談された、抗菌薬の使い方で示唆的だった症例。
1月17日から発熱・悪寒があり、1月22日水曜日に当院の内科新患を受診して、若い先生が担当だった。インフルエンザ迅速試験でA型陽性と出た。
日数が経っているので、血液検査・胸部X線検査も行った。白血球8300(ふだんは3000なので倍増)・CRP8.7と上昇していた。胸部X線は肺炎の可能性ありと診たようだ。
入院を勧めたが、患者さんは外来治療を希望した。抗インフルエンザ薬はイナビル吸入を処方して、抗菌薬はセフトリアソンを外来で1回点滴して、翌日からの内服はオグサワ(オーグメンチン+サワシリン)を処方した。次週の月曜日にフォローとしていた。
1月27日月曜日の受診時も発熱が続き、咳・痰が増加していた。白血球5200・CRP7.6と微妙な値だった。胸部CTで確認すると両側肺に浸潤影が散布していた。この時は患者さんも入院に同意した。
抗菌薬をどうしましょうか、と訊かれた。セフトリアキソンにしようと思うが、非定型カバー(アジスロマイシン併用など)をするべきかという。
すでに抗菌薬を出していたが、可能ならば喀痰培養を提出することにした。肺炎球菌ならばまずオグサワで効くはずだ。他の細菌としては、通常の市中肺炎ならばインフルエンザ桿菌・モラキセラになる。インフルエンザウイルス感染後とすると、黄色ブドウ球菌も考えられる。非定型の可能性はあまりないようだ。
喫煙者だとインフルエンザ桿菌かなあ、BLNARだとオグサワが効かないかも、と答えた。セフトリアキソンで数日経過をみて、反応が良くない時は、また考えることにした。結果は順調に軽快したのだった。
その後忘れていたが、若い先生が内科専攻医の症例に入れていたので、評価に回ってきた。改めて確認すると、喀痰培養でBLNARが検出されていた。ABPC、AMPC/CVAはRになっている。CTRXやLVFXはSだった。CAMもSだった。
「市中肺炎診療レクチャー」黒田浩一著(中外医学社)には、市中肺炎の外来患者の経験的治療(細菌性肺炎を疑う場合)として、第1選択がAMPC/CVA+AMPC(つまりオーグメンチン+サワシリン=オグサワ)になっている。(外来治療のに限定)
しかし個別の菌になるとそう簡単にはいかない記載になっている。肺炎球菌が疑われる場合経験的治療としてはAMPCで問題ない。
インフルエンザ桿菌が疑われる場合の経験的治療は、ABPC感受性(BLNAS)の場合はAMPC、ABPC耐性かつABPC/SBT感受性(BLPAR)の場合はAMPC/CVA+AMPC、ABPC/SBT耐性の場合(BLNAR)の場合はLVFX(AZMも)になる。
モラキセラが疑われる場合の経験的治療は、βラクタマーゼを産生してAMPC体制のため、AMPC/CVA、AZM、LVFXになる。
AMPC/CVA+AMPCに非定型カバーで処方するAZMが、細菌性のインフルエンザ桿菌とモラキセラをカバーするという結果になる。そうなると、必ずAZMを併用するか、アメリカ的にやっぱりLVFX(できるだけ結核を否定して)ということになってしまわないか。
それにしても初診時の胸部X線で両側肺下肺野に粒状影が目立つので、CTで確認してもよかった(これも安易にCTを撮り過ぎないようにとはされているが)。CT像をみれば、入院治療の勧め方も違っていたかもしれないから。