昨日は市医師会の講演会があった。糖尿病の講演で、前半は患者さんをどう治療に導くかという話だった。講師の先生は平尾紘一先生のクリニックに内地留学されたそうだ。まず平尾先生直伝の、患者さんの守ってほしい3項目の紹介があった。1)自覚症状がないこと(合併症も含めて)、2)検査をしないとわからないこと、3)きちんと医療機関に通院すること、の3つをまず患者さんに伝えて、中断しないようにすることが大事という。患者指導(一方向性)として上から押しつけるのはダメで、患者さんと交渉(相互関係性)して進めていく。「血糖が高いが、どうしましょうか」と問いかける様にするそうだ。
日本糖尿病協会で出している、糖尿病連携手帳は良くできているので、せひ活用してほしいという。病院にとってはこの手帳の項目を埋めていくことが糖尿病の良い治療・合併症のチェックになる。特に眼科と連携して、所見を記載してほしいという。これまで検査値は記入していたが、この手帳全体をちゃんと見たことはなかった。
また石井均先生(奈良県立医大教授)とのつながりもあるそうで、石井先生の医療者には1)知識、2)技術、3)言葉が大事だが、特に言葉、つまりコニュニーションが重要という話もされた。石井先生の「糖尿病医療学入門」と「病を引き受けられない人々のケア」いずれも医学書院刊を紹介された。
「高齢者の安全な薬物ガイドライン」によると、高齢者ではDPP4阻害薬が最適、というかこれしかないという。2番目はないんですと言われて、確かにそれは常々思っているが、それだけで改善しない時にどうするが困る。
「糖尿病標準診療マニュアル」は半年ごとに改訂されているそうだ。大血管症合併症の予防効果があり、低血糖と体重増加を避ける治療がエビデンスに基づいて記載されている。第1選択はメトホルミン(500mg/日分2~1500mg/日分3)だが、75歳以上では新規処方は勧められない。第2選択はDPP4阻害薬で、これは使いやすい。SU薬はグリミクロン(20mg/日分1~80mg/日分2)とアマリール(0.5mg/日分1~2mg/日分2)を使用するが、前者は20~40mg/日くらいを後者は0.5~1mg/日と少量で使用する。グリミクロンはハーフのハーフ10mg/日がいいという。アクトスは体重増加・浮腫の副作用があり、7.5mg/日で使用する。DPP4阻害薬+メトホルミン500mgを分1の処方はコンプライアンスがいいので好まれているそうだ。
「糖尿病ガイドライン」は2年に1回改訂されるが、どれも第1選択としていて、わかりにくい。推奨されるHbA1c7%未満は、表の下に小さく記載されている空腹時血糖130mg/dl、食後2時間血糖180mg/dlに相当することが参考になるそうだ。
平尾先生は、DPP4阻害薬+高用量メトホルミン+少量のSU薬を、黄金の処方としているという。
SGLT2阻害薬の薬効は基本的にどれも同じだが、海外で認可されているフォシ-ガ・カナグル・ジャディアンスが良いのではということだった。SGLT2阻害薬は、単独では低血糖を生じない、経口薬である、肥満を助長しないでむしろ減量する、1日1回の処方、すべての糖尿病薬と併用できる、エビデンスがある(出始めている)、血圧・脂質・肝機能も改善する、という点で優れている。
70歳以下ならば、メトホルミン、DPP4阻害薬、そしてSGLT2阻害薬という処方で治療できる。高齢者でも実際に処方してみると、当初危惧したほどの問題はなく、案外使えるのかもしれない(元気な高齢者にだが)。
会場の先生方はピンときていなかったようだが、平尾紘一先生・石井均先生という自分がこれまで注目してきた先生方の話が出て、またその考えを継承する先生の話が聴けて有意義だった。(座長の自分が一番楽しんでいた)