梅干が入った小鉢が食卓においてある。
梅干は苦手、
梅干のおにぎりなども、梅干の部分は勇を鼓して、
よいしょって目をつぶる感じでやっと食べることができる始末。
でも梅干が家の中にまったくないとなんとなく心が穏やかではなくなってしまう。
子供のころを過ごした田舎のうちは食べ物にはとても気を使ううちだった。
戦後の復興期、まだ日本の衛生状態はとても悪かった。
特に梅雨のこのころから夏の間は赤痢などが流行っていた。
祖母は梅干を食べさせたがった。
そしてお茶にも梅干を入れて出したりした。
うだるような、蒸し暑い日に、熱いお茶に入った梅干を、ちびりちびりと食べていたことを思い出す。
今でも、梅干を丸のまま口に入れるのはできない。
梅干の皮をちびり、ちびりと歯で齧る。
先日お店で梅干を見つけた。
買っても食べないだろう、どうしようかと思ったけど、家には梅干はもうない。
腐るもんじゃないしって、買って来た。
一口、おちょぼ口で齧る。口一杯に広がる酸っぱさ。
その酸っぱさのなかに、ほのかに子供のころの思い出が広がる。
あの、庭に広げられて、太陽を浴びていた梅の香り。
風が運んでくる柿の葉の匂い。
そして、祖母の手の暖かさ。