自然現象でたびたび起こった「想定外の出来事」が、政治の世界でも起こり世界中が戸惑っているようである。しかし、その後のトランプの言動からしても、それほど想定外な政治が行われることはありそうもない。大騒ぎしたが、アメリカの根本矛盾(貧困や格差など)の解決策は何も出て来そうにない、と前回書いた。
法人税減税や大規模公共投資などはレーガン並にやるだろうが、それは上記矛盾を深めこそすれ解決はしないだろう。今回の選挙が、アメリカ政治史上に最大の変化をもたらしたのは、サンダースの登場と、彼を若者たちが公然と支持したことではないか? サンダース氏は社会主義者(正確には民主的社会主義者)を公然と名乗った。反共大国、社会主義・共産主義政党は非合法に近いアメリカにあって、社会主義者を名乗るのはタブーではないのか? しかし、氏の最低賃金引上げなどを中心とする貧困打開策を、若者たちは公然と支持し、選挙戦の途中で降りることもなく、最後まで主張しつづけた。
もしサンダースが民主党候補になっていたら、大統領選は、社会主義者対保守主義者、貧困層対富裕層の様相を帯びて闘われたかもしれない。これは資本主義大国アメリカ、世界資本主義の盟主国にあっては、全く新しい現象と言えると思うが、現在の資本主義経済の行き詰まりはそこまで来ていることを表しているのかもしれない。
同じような現象は、もう一方の反共・資本主義盟主国イギリスにおいても起こっている。EU離脱は様々な要因が絡み合ったのであろうが、緊縮政策をめぐる国民の閉塞感が底流を蔽っていたことは確かであろう。その様な中で、最大野党労働党主にジェレミー・コービンが選ばれたことに注目する。コービンは、カール・マルクスを称賛する党内最左翼の男である。トニー・ブレア以来、その中道寄り政策で保守党との差が見えなくなっていた労働党は、党員数を大きく減らし続けていた。その中にあって労働党支持者たちは、反緊縮財政など明確な左寄り路線を掲げるコービンを、泡沫候補の中から選んだのである。
イギリスにあっても、マルクスを称賛する男は選挙戦ではタブーであったはずだ。しかし、これら大国を覆う閉塞感は、その解決策を古典的大道――行き過ぎた資本主義の修正を通じた社会主義への道、に求めようとしているかに見える。資本主義の矛盾は、想像以上に深まっているのではないか? 世界は、ジワリと、動き出しているのではないか?