新型コロナウイルス対策で、国が個人事業主などに支給する持続化給付金の不正受給を巡り、沖縄県警は13日、詐欺容疑で沖縄タイムス元社員で無職の男(45)を逮捕した。知人らに紹介・勧誘されて不正受給に手を染めた事例が全国で広がりを見せる中、摘発に乗り出した県警の捜査がどこまで及ぶのか。今後は「悪質性」「組織性」を見極めながら、逮捕の可否を検討していくことになる。(社会部・比嘉太一、銘苅一哲)
元タイムス社員の自宅を家宅捜索する沖縄県警の職員ら=13日午後2時ごろ
「不正受給を全て摘発するには、あまりに多すぎる。制度自体も相当緩い」
9月、県警組織犯罪対策課などが本島中南部の複数箇所を家宅捜索した際、捜査員らは1500件にも上る大量の給付申請書類を持ち帰った。捜査関係者の1人は当時の方針として、反社会的な組織が関する悪質な事例に的を絞り「一般人の不正受給は、疑いがあっても見送る想定だった」と明かす。
そんな中で同月、同容疑者が那覇署に出頭。メディアで大きく取り上げられ、世間の注目度も高まった。上層部からは、確実に立件するよう捜査員らに指示が入ったとされる。
捜査関係者によると、同容疑者は不正を認め、逃走や証拠隠滅の恐れがなく、身柄不拘束で書類送検も検討された。だが不明瞭な投資ビジネスを手掛け、投資仲間らに給付申請を呼び掛けており「悪質性がある」と判断されたという。
◆広がる動揺
県内での初摘発を受けて、不正に給付金を受け取った人々に動揺が広がる。本島中部の60代女性もその一人。マルチ商法をしていた知人に申請を勧誘され、100万円を受け取った。夫は接客業の経営者だったが、新型コロナの影響で夏に閉業。家計のやりくりに頭を悩ませていたところに、給付金の話を聞いた。
だが9月ごろから不正受給問題が報道で取り上げられ、今ではニュースを目にするたび不安にかられる。コールセンターへの相談を考えているという女性は、小さくつぶやいた。「私、逮捕されるんですかね」
捜査関係者によると、家宅捜索で押収した申請書類などを手掛かりに、不正の裏付けがとれた事案に関しては、不拘束での書類送検も検討され始めているという。「もしかすると、100人規模の立件になるかもしれない」との見解だ。
特別捜査本部は同容疑者と共謀したとされる人物やその周辺についても引き続き捜査する方針で、年明け以降も捜査態勢は維持される見通しだ