人口減少こそ本当の問題
不明確な「基地負担」の定義 補助金依存から脱却を
世界日報の読者でつくる世日クラブ(近藤譲良会長)の定期講演会が8月27日、動画サイト「ユーチューブ」の配信を通じて行われ、評論家の篠原章氏が「沖縄は『復帰50年に相応(ふさわ)しい知事』を選ぶことができるのか?」と題して講演した。篠原氏は「最優先すべき課題は基地問題ではなく人口減少問題だ。来年、再来年ごろから大きな問題として浮上してくるだろう」と見解を述べた。以下は講演要旨。
沖縄に対して抱いているイメージをまとめてみると、第一に青い空と海の美しい島々がある、第二に米軍基地が県民の暮らしを脅かしている、第三に出生率が高く若々しい―といったものがある。
しかし、現実はどうか。まず青い海と空は危機的な状況で、特に海は環境破壊が進んでいる。辺野古の埋め立てが問題になっているが、1972年に本土復帰以降、沖縄は埋め立て事業に積極的だった。東京や大阪に次いで埋め立て面積の比率が高く、そのためにサンゴの死滅や海洋生物への影響などの問題が起きている。
工場や住宅が建つわけでもなく、空き地となって放置されている埋め立て地もかなりある。どうも埋め立て自体がビジネスになっているようで、「埋め立てラブ」の沖縄という歴史がある。
最近の大きな埋め立ては那覇空港の第2滑走路で、反対運動はほとんどなかった。翁長前知事の頃から推進している事業で、今後埋め立てが行われる予定の浦添西海岸の再開発も知事が賛成している。那覇市にある那覇軍港をここに移設することになっており、約160ヘクタールの埋め立てが行われる。その一方で、辺野古の移設だけ反対運動がクローズアップされているのは奇妙な状況だ。
「基地負担」という言葉をよく聞くが、実はこの言葉の定義は不明確だ。「負担」は騒音や米軍兵士の不祥事など幅広い内容を指すことが多く、「沖縄には在日米軍専用施設の約70%が集中している」ともよく言われる。だが、在日米軍一時使用施設という、自衛隊の施設も一緒になった軍事施設はどうかといえば、これは沖縄には約0・3%しかない。ここで在日米軍専用施設と一時使用施設とを足して単純に面積比で比べてみると、沖縄は全体の約20%という計算になり、見方が変わってくる。
沖縄には大きな軍事用の飛行場が二つあり、騒音などのトラブルはどうしても目立つ。だが、沖縄の現実にだけ目を奪われ、日本全体の安全保障の在り方まで含めて考えないと的を射た話ができないだろう。
米軍基地には雇用問題もある。基地に雇われている人の数は約9000人。翁長前知事は米軍基地がなくなっても問題ないとよく発言していたが、沖縄で一番大きな会社である沖縄電力でも従業員は約1500人。その6倍の雇用を持つ米軍基地を「いらない」と、何人が本気で言えるのだろう。
そもそも基地の弊害から県民を守るという点で、自治体行政に何ができるのか。基地政策は安全保障政策なのだから、自治体が関われないところで決定されていくのはやむを得ない。日本の基地政策は日米合同委員会で決められているが、今後、憲法を改正し、日米安保条約を見直しすることで、安全保障について日米が対等なテーブルで話し合えるようになることが最終的に重要となる。
そこに沖縄県知事が入るのは難しいし、安保政策的にも不適切なことだろう。この辺りは基地政策や辺野古埋め立てに反対している人たちには、なかなか届かない考え方だ。
国は「基地負担」の代償として沖縄振興予算という補助金を沖縄に出している。約3000億円の特別予算で、基地故に出ている補助金ではないと歴代の県知事は否定しているが、米軍基地がなくなれば出なくなるのは間違いない。これと別に防衛省が沖縄に使っている予算も2000億円ある。また、沖縄だけ高率な補助率(自治体の事業に対する国の補助金の比率)や優遇税制が定められているという問題もある。
これで沖縄が発展すればいいのだが、これらの補助金によって経済的な自立が阻まれてしまっているというのが私の考えだ。
最近の事例だと、竹富町で起きた汚職事件がある。竹富島は沖縄の風景が出てくる際、必ずといっていいほど出てくる美しい島だ。離島なので水源確保のために海底送水管が必要であり、竹富町でも総額50~80億円のお金が何年かに一度掛かる。その入札金額を町長が業者に教えてしまい、逮捕された。原因となった事業は11億円の海底送水管だった。
竹富町の自己負担はいくらだったかというと、たったの126万円。このように沖縄ではインフラ整備など何らかの事業をしようとしたとき、高率補助を活用して自治体がほとんど負担しないケースが多い。自分の懐を痛めずに事業ができるので、高額事業を増やすことにつながり、お金に対する感覚がずれていってしまう。補助金依存からの脱却が求められる。
そして、本当の沖縄問題というべきは人口問題。沖縄は全国で最高の出生率、最低の高齢化率などと知られていたが、それらは既に過去の話になった。解決のためには、あらゆる政策を動員しなければいけない。結婚増加や人口維持を目的とするなら、特に雇用の確保や雇用条件の改善が大切になる。
沖縄は最低賃金が全国で一番低い上に、そもそも働き口がない。しかもコロナで観光業も大打撃を受けてしまったので、観光に依存しない新たな産業を育てていく必要がある。なおかつ所得分配も偏りやすく、沖縄では経営者の取り分が多くて、従業員に払っていないという事例も散見される。こういった改善の努力が人口政策にとってもキーポイントになるだろう。
全国平均と比べて、教育水準が低いというのも大きな問題だ。小中学校の教育をドロップアウトしてしまう子も多く、字が満足に読めない子もいる。再教育や職業訓練のプログラムを一人ずつきめ細やかにやらないと教育水準はいつまでも改善しない。
9月11日実施の知事選について、佐喜真淳前宜野湾市長は7月の参院選に出馬した古謝玄太氏を陣営に迎えている。「知事になった時の副知事」として紹介しながら共に県内を巡っており、そのセット戦術が功を奏している。
那覇市内で行われた総決起集会には1万人以上が参加した。反基地の人たちも同じ場所でよく集会をしているが、それでも1万人には達することはあまりなく、佐喜真候補の追い上げに目が離せない。この二人のコンビなら沖縄経済を改善する政策ができると思うが、人口減少などへの対応策は玉城デニー知事の認識レベルでは難しい。
確かに玉城知事は強いのだが、次第に支持が減りつつある。最近の沖縄タイムスや琉球新報を見ても、知事を全面応援ということはなく、むしろあまり良い知事とも思っていないように感じる。2紙が応援するのはオール沖縄であって、玉城氏本人ではないのだ。今後佐喜真候補の支持がどこまで広がるか、玉城陣営もかなり脅威に思っているだろう。