沖縄で芽吹く”ミレニアル世代”「優秀な若者が沖縄で働ける環境をつくりたい」
9月12日に投開票を迎えた、現職と新人の3人による沖縄知事選。アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設反対などを訴えた現職の革新派、玉城デニー氏が勝利を飾り、「辺野古新基地反対の民意が示された」と報道された。
沖縄県知事選で溢れたヘイトスピーチ
一方、知事選同日に開催された普天間基地がある宜野湾市長選は、保守の松川正則が再選を果たした。今年1月の名護市長選挙でも保守候補が当選。知事は革新派として反対の意見を示すも、辺野古新基地を着工している名護市と、宜野湾市の首長はともに保守系。これも民意である。
また、9月の知事選ではSNSにて沖縄を侮蔑する投稿が相次ぎ、大きな波紋を呼んだ。 「沖縄は台湾有事や尖閣有事に備えなければいけないのに、玉城知事で大丈夫なのか……」。挙句の果てには「琉球土人」「日本人もどき」「帰化人」、さらには「沖縄は中国の属国」と、差別を扇動するヘイトスピーチが溢れかえった。沖縄のメディアが重要な事実を報道せず、このようなヘイトを変に煽って日本からの分断を図っているという意見さえ散見される。答えは、いつもひとつだけじゃない。
そんな中で声を挙げる”次世代”
そんな沖縄で今、ミレニアル世代(’80年~’95年生まれ)の躍進がめざましい。年齢的には27歳から42歳。各分野でホープと呼び得る人材が多数輩出され始めている。
7月の参議院選挙に出馬するも、当選まであと2888票という僅差で涙を飲んだ古謝玄太氏(38歳)もそのうちのひとりだ。 「東京大学に入って沖縄県人会を立ち上げました。『いつか沖縄に戻って活躍したい、頑張りたい』と思って内地(本土)に来ている人が多いんですけど、帰ったとしても県庁か沖縄電力くらいしか就職先がない。彼らが沖縄で活躍できる環境があったら面白くなるだろうなと思ったのが、僕が政治を志すきっかけでした。そこから大学院へ行き47都道府県の知事を調べてみると、旧自治省出身者が多いとわかり、大学院を中退して総務省に入りました」 県下No.1進学校の昭和薬科附属高校から現役で東京大学理科Ⅱ類に入学。大学院在学中に国家一種試験経済職を受け213人中6位で合格し、中退して総務省に入省。沖縄で躍進する彼ら世代の特徴は、目的意識を持っての推進力と応用力が備わっていることだ。 「教養では理Ⅱと理Ⅲが同じクラスになるんですけど、理Ⅲの同級生にも別に負けてないなと思いました」 古謝氏は嫌味もなくサラッと言う。東大理Ⅲ(医学部)といえば全国100位までの天才たちが入る国内最難関学部。おまけに、東大生でも落ちるという国家一種試験に6位で受かるという頭脳。地頭はべらぼうに良く、純粋な理念を持ち、二世でもない新しいタイプの指導者候補がようやく現れた。
理系の優秀な学生が県外の大学に進学して沖縄に戻るためには、医者になるという選択肢くらいしかなく、理系の優秀な子を持つ親としては、「もう子供は沖縄に戻ってこない」と思って県外へ送り出すという。そういう意味でも、古謝氏の言うように環境の整備が急務なのだ。それなりの給料を貰って働ける場を創出するため、観光業の高付加価値化に加えて、健康・環境・海洋など沖縄ならではの魅力・可能性を活かした多様な産業の育成の必要性を訴えるほか、若者の新たなチャレンジを支援すべく、沖縄を日本とアジアの起業の聖地とする「スタートアップアイランド構想」を進めたいと古謝氏は今考えている。
沖縄の学力平均値が全国最下位というのも事実だが、毎年県内から東大合格者を10人前後輩出し、古謝のような優秀な人材がまっすぐでクリーンに育ってきているのは確かだ。
「ゴチャゴチャ感がまた沖縄の良さ」
「故郷をなんとかしたい」という信念を持って立ち上がろうとするのが、沖縄の若者のメンタリティでもある。沖縄戦で約20万人(うち約12万人が県出身者で当時の県人口の1/4)の人が凄惨な地上戦によって亡くなり、生き残ったおじいおばあや、小中学校の「平和教育」の授業により“命の重み”を何十年に渡って子どもたちに連綿と説いてきた。そのため、ひとつひとつ家族の絆が強固であり、県外に出ても「いつかは沖縄に戻りたい」という思いが強い。政治と経済が密接にリンクする沖縄ゆえに、このままではいけないという意識を潜在的に持っているのだ。 大人気アニメ『NARUTO-疾風伝-』の主題歌を歌うなど、沖縄を拠点に活動しているメジャーバンド「seven oops」のボーカルNANAEとドラムのMAIKOはともに34歳の沖縄育ち。彼女たちは沖縄のミレニアル世代かつ第一次ゆとり世代でもある。MAIKOは真摯にこう話す。 「立ち飲みなんかで隣に座った、県外から来たおじさんに基地問題とか触れられることがあるんですけど、流れに身をまかすのが沖縄だと思うんです。歴史的に見ると、今よりもっと苦しんでいる沖縄があったのは知っています。アメリカが統治したことで新しい文化が入り、沖縄市がロックの聖地となり、それでいて沖縄文化のエイサーがある。整理整頓されていないデメリットもあるけれども、このゴチャゴチャ感がまた沖縄の良さのひとつでもある。いろんなものが生まれては消え、その中から引き継がれるものがもある。無理にすべてを正そうとすると、良いところまでもなくなってしまうんじゃないかなと思ったりします。各々の中で正しいと思うことはたくさんありますから」
沖縄で芽生えるグローバリゼーション
ボーカルNANAE(34歳)も独自の目線で語ってくれた。 「生まれる前から当たり前のように基地がある私たちの世代は、今いる自分の場所を踏まえて『自分の人生は自分しか責任が取れない』と、早い段階から考えているのかなと思います。同世代を見ると、独立してやっている人たちが多い。それは幼い頃からの世の中の空気感や大人たちをずっと見て育ってきたからなのかもしれません。好きなことを突き詰める熱は、理論や理屈ではありません。世の中に絶対はなく、唯一ある“絶対”は死だけです。だから死ぬ寸前に、面白い人生だったなぁと悔いがないようにと毎日生きています。私の場合は決められたレールがつまらなそうだったので、だったら自分の好きなことをやりたいという思いが心を動かしましたね」 彼女たち世代は、常に俯瞰で物事を、そして沖縄を捉えているところがある。沖縄という土壌のせいかグローバルで見る感覚が幼い頃から養われ、誰かを比べて蹴落とすのではなく、皆で一緒にやろうという仲間の大切さを肌でわかっている。それが、沖縄のミレニアル世代の大きな強みでもある。
沖縄の政治家たちの素顔
沖縄の政治にしても、筆者は玉城デニー、候補者の下地幹郎と飲んだこともあるが、とても気さくな良いおっちゃんだ。音楽好きなデニーは華があって親しみがあり、下地はブルドーザーのような豪快さで随所に笑わせてくれる。どちらも人間味があって一度でも一献を傾ければ魅了されてしまう。佐喜真淳も然りだ。でも選挙で選ぶかは別物。もちろん人間性がベースにはなるのは言うまでもないが、政治家としての資質と政策の実現性を量る。評価を下すのは市井であり、公約の実現率ではなく達成率と、ブレない政治理念を見ている。
既得権益や権勢欲にむしゃぶりつく50代以上の大人たちよ。もう次世代の若者たちに任せたらどうだろうか。欲張り過ぎて人生良いことなんかない。考えてもみよ。自分たちが若い頃、上の世代がうっとおしくて仕方がなかったはずだ。それが今、同じことをしていることに気づかないのか。
’80年代から新卒初任給は上がらず、平均所得は韓国にも抜かれた。先進国の中で、日本の経済成長率が一番停滞している。“終わり”の始まりが来ている。いやもうとっくに始まっている。大人たちはこの未曾有の危機をどうするべきか、答えはひとつ。次世代の可能性に賭けるしかない。大丈夫、彼たちなら任せられる。そう信じて送り出そうではないか!
<取材・文/松永多佳倫> 【松永多佳倫】 1968年生。岐阜県出身。琉球大学大学院在学中。出版社を経て2009年8月よりフリーランスとなり沖縄移住。ノンフィクション作家として沖縄の社会学を研究中。他にもプロ野球、高校野球の書籍等を上梓。著作として『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『沖縄を変えた男 栽弘義―高校野球に捧げた生涯』(ともに集英社文庫)、『マウンドに散った天才投手』(講談社α文庫)、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』(KADOKAWA)、『確執と信念 スジを通した男たち』など