経済対策を懸けた仁義なき戦い を激怒させた財務省の“禁じ手” 「責任を取るのはあなたたちじゃない」
「禁じ手には禁じ手で返した」。 自民党の政策責任者・萩生田光一政調会長は、総合経済対策を巡る財務省との攻防をこう表現した。与党四役の一人を怒らせた、財務省の“禁じ手”とは一体何だったのか。 29兆1000億円の巨額予算を巡る“仁義なき戦い”の舞台裏を追った。
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■会議中に入った岸田総理からの電話
10月26日午後、東京・平河町の自民党本部9階の会議室。物価高や円安などに対応するための総合経済対策をテーマにした会議を取り仕切っていた、萩生田政調会長の携帯電話に着信が入る。電話の主は岸田総理だった。
「これで了承しているのか」 岸田総理が電話で確認したものは、総合経済対策の総額だった。その直前、総理官邸を訪れた鈴木財務大臣から「25兆円」との報告を受けていたが、昨年並みの「30兆円規模」を求めてきた萩生田氏らが納得する数字だとは到底思えなかったのだ。
「今、議論しているところで、了承はしていません」 「そうか、ごめんな」 萩生田氏の返事に、岸田総理は思わず謝った。自民党内での会議が佳境を迎えているタイミングであることを把握していなかったからだ。 決定に進んでいた総合経済対策がこの電話で一気に振り出しに戻った。 「規模は大事」と言い続けていた総理も「これでは足りない」との認識を示したという。
■「責任取るのはあなたたちじゃない」静かな怒りに青ざめる財務官僚
与党の国会議員たちが総合経済対策の検討を重ねている最中に、総理にその全体像の報告を行う財務省の姿は、与党の議論をまるで無視するかのように映る。萩生田氏にとっては、まさに掟破りの“禁じ手”そのものだった。 岸田総理との電話を終え、会議室に戻った萩生田氏は憮然とした表情でマイクを握った。居並ぶ国会議員や官僚らを前に、岸田総理との電話のやり取りを明かしたのだ。
「党で経済対策の中身について議論をしている最中に財務省はマナー違反だ」 抑制的ではあるが、明らかな怒りが込められた言葉に会場は騒然となったという。 安倍政権を官房副長官として支えた経験のある萩生田氏にとって、総理と一対一で行った会話の内容を公表することもまた“禁じ手”であった。あえて、その“禁じ手”を使ったのは、経済対策を巡る財務省との戦いに決して負けないとの決意の表れだった。
「政策の責任をとるのはあなたたちじゃない、国民に選挙で選ばれた我々なんだ。結果の責任は我々が問われるんだ」 参加者によると、会議に出席していた財務官僚はそう指摘されるとみるみる顔色が青ざめていったという。 自民党政務調査会のメンバーからも「財政民主主義を破壊する行為だ」「財務省はおかしいぞ」などと批判の声が上がっていった。
■「もう一度、規模を見直せ」岸田総理が飛ばした指示
「景気の下振れリスクも考慮して、もう一度、規模を見直せ」 自民党内で財務省の動きへの反発が高まったことを受けて、岸田総理は財務省の示した予算額「25兆円」の見直しを指示した。 財政の規律を重視し、そもそもは「15兆円規模」の経済対策を目指していた財務省にとって、大きな後退を意味した。萩生田氏の“禁じ手”返しを受けて、財務省幹部が急きょ、政調会長室に駆けつけ、その日の内に、一気に約4兆円が積み増され、「29兆円規模」に予算額が拡大された。目標とする「30兆円」には及ばなかったが、萩生田氏らによる短時間の巻き返しが際立つ結果となった。
■「積極財政」VS「財政規律」
10月28日に閣議決定された総合経済対策の規模は29兆1000億円。萩生田氏は記者団を前に「物価高克服、経済再生実現のための総合経済対策として、タイトルにふさわしい内容と規模のものになった」と胸を張った。同時に財務省との攻防を振り返り、「中身が決まって初めて規模が決まるので、規模が先に決まったら、そこに中身を押し込まなきゃならないことになる。政府・与党でお互いに反省して、しっかり連携できる体制を作っていきたい」と牽制するのも忘れなかった。 一方で、多額の補正予算の編成を繰り返すことによる財政悪化を懸念する声は財務省以外からも上がっている。 「財政的なことをしっかり考えて予算編成をしておかないと。外国を見ても教訓になるような国もありますから、そういうことにならないということが大事」 自民党四役の一人、森山裕選挙対策委員長は、大型減税など、財源の見えないバラマキ政策がポンドの通貨としての信用を失わせ、トラス前首相の交代の要因となったイギリスを念頭に警鐘を鳴らす。 また、鈴木財務大臣は閣議決定後、今後の連携をこのように強調した。 「与党の議論を無視をして財務省の考えを押し通すとか、そういうことは毛頭考えていない」 「50兆規模が必要という方もいれば30兆が発射台という方もいた」 だが、財務省内には依然として不満が渦巻いている。 これから議論が本格化する来年度予算編成では巨額の増額が予定される防衛費をはじめ、自民党と財務省の財源を巡る綱引きが激化することが確実視される。 次なる、“仁義なき戦い”はどんな結末を迎えるのか。そして、国民に何をもたらすのか。その動きを注視していきたい。 (TBSテレビ報道局政治部・与党担当 守川雄一郎)
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【おまけ】
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