●原発廃炉/負の遺産に正しい対応を
神戸新聞 2005/05/20
品質管理は、企業活動の重要なキーワードといっていい。うまく機能させないと、例えば食中毒が起き、鉄道や飛行機や原発では、大事故・災害に直結する。
企業の体質や風土、関係者の意識次第で大きく左右されることも少なくない。
今年の原子力安全白書は、品質管理システムの構築を掲げている。
昨年は関西電力美浜原発3号機で高温の蒸気が噴出する事故があり、作業員が死傷した。原因は配管の点検漏れだったが、関電の品質管理に大きな問題があった。
三年前には東京電力で原発のトラブル隠しや虚偽報告など、品質管理をゆがめる不祥事が起きている。
電力業界が等しく抱える問題に、原発の高経年化がある。寿命を迎えた原発を廃止する時代が間近に迫っている。国内で稼働する原発は五十三基あり、運転開始から三十年以上たった原発が七基ある。
これまでは、安全に、効率よく動かすことだけを考えておればよかった。今後はそうはいかない。白書が廃炉を特集したのもそうした事情があるからだ。
すでに研究炉や実験炉では廃止が始まっている。しかし、商業用軽水炉となるとけた違いに大きく、難しい問題が多い。
最大の課題は廃棄物の量である。試算では主力の百十万キロワット級原発の場合、一基で地上二十階建てのビル四、五棟分に匹敵する、五十万―五十五万トンの廃棄物が出る。そのうち約93%は放射性物質に汚染されていないので、一般のごみと同じように処理や再利用が可能とされる。
ところが、残り7%は慎重な取り扱いが求められる。放射性物質による汚染の可能性があるためだ。その中にも、より厳しい規制が必要なものと、そうでないものがあり、根拠の明確な線引きが必要だ。
白書は、規制を外すクリアランスの目安として自然界から受ける年間被爆線量の百分の一以下という数値を示した。国際原子力機関(IAEA)の基準より厳しい。
廃炉に伴う安全・安心の目安が、具体的に示された意義は小さくない。
それでも廃炉が本格化し、埋め立てや再利用が始まれば、国民の間に不安が高まるだろう。無用な混乱を起こさないためにも国は基準の根拠を正しく国民に伝える責任がある。一つの原発を撤去するためには数十年の歳月と数百億円の経費がかかる。電力業界にとって頭の痛い問題だ。
だが、「負の遺産」が正しく処理されないと、信頼回復はおぼつかない。原発に対する国と電力業界の姿勢が試される。 |