●選択的夫婦別姓制導入並びに非嫡出子差別撤廃の民法改正に関する決議
人権擁護大会宣言・決議集 Subject: 96-10-25
日本国憲法は、個人の尊厳と法の下の平等を基本とし、家族法を個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定しなければならない、と謳っている。
ところが、現行民法は、婚姻にあたり夫婦同姓を強制し、夫婦の姓を平等に尊重することができない制度となっている。その結果、夫の姓を称する夫婦が圧倒的に多く、妻の姓は、夫と同等に尊重されているとはいえない。
法制審議会は、1991年1月以来、民法改正について審議を重ね、1996年2月、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別を撤廃する等を内容とする「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申した。しかし、この答申に基づく民法改正案は、いまだ国会に上程されていない。
氏名は、個の表象であって、人格の重要な一部である。価値観・生き方の多様化している今日、別姓を望む夫婦にまで同姓を強制する理由はなく、別姓を選択できる制度を導入して、個人の尊厳と両性の平等を保障すべきである。
近年、改姓によって受ける不利益や不都合を避けるために、婚姻後も旧姓を「通称」として使用する人も増えている。しかし、運転免許証、パスポート、印鑑登録証明書など戸籍名しか使用できない場合も多く、通称使用では解決できない。
諸外国をみても、夫婦別姓を選択できる国が大多数であり、夫婦同姓を強制している国は、わが国の他は極めて少数である。わが国も批准している女子差別撤廃条約は、姓及び職業選択を含めて、夫及び妻に同一の個人的権利を保障することを締約国に求めており、この観点からも、選択的夫婦別姓制導入の早期実現が望まれる。
次に、民法は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めている。しかし、子には、両親が婚姻しているかどうかについて、何の責任もない。のみならず、親にとっても、子に対する責任は、嫡出か否かで差はない。
わが国が批准している国際人権(自由権)規約と子どもの権利条約も、出生等による差別を禁止している。そして、国際人権(自由権)規約委員会は、1993年に日本政府に対して、非嫡出子の相続分差別をなくすよう法改正を勧告しており、この観点からも、早急に非嫡出子の相続分差別を撤廃すべきである。
わが国も、憲法と諸条約を踏まえ、選択的夫婦別姓制の導入と非嫡出子の相続分差別を撤廃することにより、成熟した社会をめざす必要がある。
よって、当連合会は、政府に対し、すみやかに上記民法改正案を国会に上程し、選択的夫婦別姓制の導入と非嫡出子の相続分差別の撤廃を実現することを強く求める。
以上のとおり決議する。
1996年(平成8年)10月25日 日本弁護士連合会 |