<社会保障と税・格差編> 個人の資産 年代で開き
2012年2月2日 中日新聞 から
国や自治体の財政が危機的な日本だが、一方で強みの一つは巨額な個人の金融資産。ただ、高齢世代が大半を持っており、家計に余裕がない若い世代との「世代間格差」は著しい。税や社会保障の分野でも、この格差を縮めていく政策が急務になっている。(白井康彦)
「相談の傾向は、世代間で大きく違う。三十~四十代は住宅ローンを組めるか、保険をどう見直すか、など切実なものが目立つが、高齢者は資産の増やし方が多い」 こう説明するのは「家計の見直し相談センター」のFPの山田和弘さん(43)。

高齢世代には、収入が乏しいために生活保護を受けている人も多い。しかし、家計についての世論調査を見ると、他の世代に比べて平均貯蓄額の多さが際立っている。
二〇一〇年の全国の二人以上世帯の平均金融資産(預貯金、保険、株式など)残高は、七十歳以上は千七百万円余りで三十代の約三・二倍もある。貯蓄の多い高齢者は(1)退職まで給料が右肩上がりで増加(2)十分な退職金をもらった(3)住宅ローンの返済終了(4)子どもが独立(5)親から相続で財産をもらったなど有利な事情に恵まれたケースが多い。
今の若い世代も年齢を重ねるごとに順調に貯蓄が増えればいいが、FPらは「今の退役世代のようには順調に増えない」と予測する。
会社勤務者の正社員比率が低くなったことや、年功序列型の賃金体系が崩れてきたことなどが理由だ。
若い世代には、年金制度の将来への不安も強い。
この調査で一九九七年と二〇一〇年の平均貯蓄額を比べると、七十歳以上は7%減でとどまっているが、四十代は32%もの大幅減。FPの山田さんは「子育て世代の家計は、消費税が5%増税されると支出が月二万円以上も増え、いよいよ余裕がなくなるだろう」と話す。世代間の経済格差は今後、一段と広がりかねない。
日本の個人金融資産の残高の六割以上は、六十歳を過ぎた人たち。高齢者らは、家計に余裕があっても消費は活発でなく、貯蓄はあまり減らない。その一方で、四十代までの若い世代は家計に余裕がなく、思うように消費を増やせない。
第一生命経済研究所(東京)首席エコノミストの熊野英生さん(44)は「高齢者らの気持ちを推し量って施策の実現をあきらめる『忖度(そんたく)政治』をいつまでも続けてはいけない」と強調する。
|