tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

電車の中の道化師

2007-05-18 21:58:48 | プチ放浪 都会編

電車のドアが開いて、その二人の女の子は乗ってきた。車内の誰もが最初は珍しそうに、あるいは懐かしそうに見ていた。そして、その子たちにジロリと睨み返されるとあわてて目をそらすそんな感じだった。彼女達のまだらに光る白色のヘアーが、より一層、ガングロをよりガングロにひきたてている。口紅の白は、縁辺対比で唇に立体感を示しまさにメダツ。ミニスカートにお馴染み「厚底ブーツ」のいでたち。あの渋谷で死に絶えた山姥ギャルを久々に目の当たりにする非同時代性。恐さよりもむしろ懐かしさが先に来る。彼女たちのいる車内の光景はつかの間の違和感があったものの、電車が動き出しありふれた日常の再開。スゲェ風貌だが、都会では他人からの刺激感受性はすぐに鈍化していくのだろう。ギャル達はつり革につかまって「マジつまんねーシーッ」とか言い合っていた。

高田馬場を過ぎたあたりで、乗客の間で緊張が走った。それは電車の中に響いた怒号によるものだった。
「何ジロジロ見てんだよ? オォ? 眼球に液体ムヒ塗ってやろうか コラァァァ!!! おメェーなんてアレだ! カレーうどんの中にケータイ落とせっ!!」
見ると山姥ギャルの一人が、同じく新宿から乗ってきて近くのつり革につかまっていたサラリーマン風の男に吼えていた。
ガングロだから表情はよくわからないが、怒声からするとマジにぶちギレしているようだ。おそらく、その40代のサラリーマン風の男にガンを飛ばされたので、威嚇しているのだろう。

サラリーマン風の男は、始終、無言だった。男は、ジェスチャーで胸を押さえ、苦しそうにしてみせる。男のやや大げさな、どちらかといえばシャープな身振りに、最初は同情していた周りの乗客も彼のパントマイムを見るように見とれてしまう。男は無言で両手を目の前で合わせ、お願いのポーズをとる。
山姥ギャル達は、あっけにとられたように男を見つめ、そして手にしていたケータイの電源を切った。彼女達も男の身振りの意味するところに気づいたようだ。男の要求を受け入れてケータイの電源を切った山姥ギャル達の行動に、電車の中はみるみる緊張がとけた。そこのスペースにはあったかい空気が流れた。少なくともぼくは、自然と笑みがこぼれていたから、居合わせた乗客のほとんどが同じ気持ちだったのだと思う。ただ、乗客たちの中には、あいかわらず自分のケータイのメールを読み続けるものが多くいたのだが・・・・・・。

電車は、池袋の駅に到着し、男と山姥ギャル達は他の乗客に混ざって降りていった。
彼らが降りた駅のホームで、ぼくは、男と山姥ギャルたちが笑顔でハイタッチをするのを見逃さなかった。あわてて電車を降りて、彼らを追いかけようとするぼくの目の前で電車のドアが閉まった。ジャーナリストの端くれとして、彼らの話を聞くチャンスを逃してしまったことを後悔した瞬間だった。

彼らは、いったい何者だったのだろう。何の目的で、あんなパフォーマンスをしていたのだろうか?考えれば考えるほど、不思議だ。あの駅のホームで見せた彼らのハイタッチは、彼らが以前からの顔見知りで、しかも電車の中のイザコザがすべては筋書き通りの芝居だったことを物語っているとしか考えられない。一体、彼らは何故・・・・・・。

走りだした電車の窓越しに、ホームに並んだ男と山姥ギャルたちと目が合った。男は、ぼくに向かって深々と頭を下げた。山姥ギャルたちはミニスカートのすそを片手でちょっとつまみ、笑顔を振りまいた。まるでパリのオペラ座(オペラ・ガルニエ)で公演でもしたかのように(ry。