司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

会社分割による権利の承継は,「相続その他の一般承継」に含まれない

2013-10-21 11:29:29 | 会社法(改正商法等)
 会社分割によって承継される権利の一として「株式」がある場合に,当該株式の承継が「譲渡による取得」に該当するのか,あるいは「相続その他の一般承継」に該当するのかという問題がある。

 平成17年改正商法前は,会社分割による権利の承継は,「相続その他の一般承継」に該当するものとして扱われていたが,会社法においては,「相続その他の一般承継」には含まれないと解されている。

 法令上の根拠は,会社法施行規則第35条第1項第4号イ及びロ である。


会社法施行規則
 (単元未満株式についての権利)
第35条 法第189条第2項第6号に規定する法務省令で定める権利は、次に掲げるものとする。
 一~三 【略】
 四 法第133条第1項 の規定による請求(次に掲げる事由により取得した場合における請求に限る。)をする権利
  イ 相続その他の一般承継
  ロ 吸収分割又は新設分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の承継
  ハ~へ 【略】
 五~七 【略】
2 【略】


 江頭教授は,会社分割による権利の承継は,「一般承継」に含まれるという立場のようである(江頭憲治郎「株式会社法(第4版)224頁等」(有斐閣))が,会社法等の立案担当者が「一般承継には含まれない」として,省令の規定も区分しているのであるから,実務上は,「含まれない」として対応すべきである。

 よって,会社分割によって譲渡制限株式が承継される場合は,「譲渡による取得」に該当し,譲渡承認の手続を行う必要がある,ということになる。

 会社分割による株式の承継についても,個別の移転行為を要せずに有効に承継される,という意味では,他の契約上の地位等と同様であり,単に発行会社の承認を得るまでは発行会社に対して対抗できない,というだけのことであるから,不合理とも言えない。

 したがって,実務的には,会社分割によって株式を承継させることを企図する場合には,事前に発行会社の承認を得ておくようにすべきである。

 なお,既に実行された会社分割において発行会社の承認を得ていなかった件に関しては,会社分割後に株主名簿の名義書換えの請求をしているであろうし,発行会社が何も言わずに株主名簿の記載を行ったのであれば,黙示の承認があったということで,発行会社が今後争うのは背理であるから,懸念には及ばないであろう。

cf. 編著「会社分割の理論・実務と書式(第6版)」(民事法研究会)2013年1月刊
http://www.minjiho.com/wp/wp-content/themes/custom/euc/new_detail.php?isbn=9784896288100
※563頁 論点として解説しています。

相澤哲編著「Q&A会社法の実務論点20講」(金融財政事情研究会)2009年12月刊
※17頁以下

平成20年6月15日付け「会社分割による株式の承継と株式会社の承認の問題」
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人的分割類似行為と反対株主の株式買取請求

2013-10-21 10:15:10 | 会社法(改正商法等)
 会社分割の手続において,例えば吸収分割では,吸収分割会社が効力発生日に全部取得条項付種類株式の取得(取得対価が吸収分割承継会社の株式であるものに限る。)又は剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継会社の株式であるものに限る。),いわゆる人的分割類似行為が行われる場合がある。

 この場合に,反対株主の株式買取請求が行われるとどうなるのか?

 吸収分割会社において,反対株主の株式買取請求が行われた場合,株式買取請求に係る株式の買取りは,当該株式の代金の支払の時に,その効力を生ずる(会社法第786条第5項)。

 したがって,吸収分割の効力発生日後,株式の買取りの効力が生ずるまでの間は,反対株主は,株主の地位が維持される。

 よって,この間に,例えば剰余金の配当が実施される場合,反対株主も受領する権利があるというべきであろう。

 すなわち,反対株主は,人的分割類似行為によって配当される吸収分割承継会社の株式についても受領することができると考えられる。

 不合理に感ずる向きもあるかもしれないが,このように考えざるを得ないであろう。

 おそらく通常は,株式の買取りと同時に,吸収分割会社が反対株主から吸収分割承継会社の株式も引き取ることになるであろうが,反対株主がこれに抵抗し,任意の株式の譲渡に応じない場合には,紛争となる可能性があるという点は,留意すべきである。

 なお,近々予定されている会社法改正法案においては,吸収分割株式会社に対する株式買取請求に係る株式の買取りは,吸収分割の効力を生ずる日に,その効力を生ずるものとされており,上記のような問題が生ずることはなくなることになる。

cf. 平成24年9月7日付け「会社法制の見直しに関する要綱案についての考察(8)」

 藤原総一郎ほか著「株式買取請求の法務と税務」(中央経済社)80頁以下
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