近年,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が制定され,「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29年3月24日閣議決定)が策定されるという流れの中で,ノーマライゼーションやソーシャル・インクルージョンの観点から,成年被後見人であることをもって一律に排除されるのは適当でないとして,様々な資格制限を廃止し,株式会社の取締役や法人の理事にも就任することができるようにしようとして,取締役の欠格条項の見直しが会社法改正の論点となり(法制審議会「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」(平成31年2月14日答申)参照),また,今年の通常国会において「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和元年法律第37号)が成立し,近々施行(原則施行期日は,令和元年9月14日)されるという運びである。この改正法には,司法書士の欠格条項の見直しも含まれている。
そこで,司法書士法の改正後の諸問題について検討を試みることとする。
(1)欠格事由
上記改正法における司法書士法の改正により,成年被後見人又は被保佐人であることは,欠格事由に該当しないこととなった(改正後の司法書士法第5条第2号参照)。
(2)登録の申請
成年被後見人が司法書士の登録をするには,その成年後見人が,成年被後見人の同意(後見監督人がある場合にあっては,成年被後見人及び後見監督人の同意。以下同じ。)を得た上で,成年被後見人に代わって登録の申請をしなければならないと解される。この場合において,成年被後見人が単独でした登録の申請又は成年後見人が成年被後見人の同意を得ないでした登録の申請は,その効力を有しないものと解される(前掲要綱参照)。
(3)業務の遂行
成年被後見人が司法書士登録をした場合においても,司法書士の業務は,原則どおり成年被後見人本人が行うことになるのであって,成年後見人は,その地位に基づいて司法書士の業務を代理することはできない。しかし,成年被後見人が自ら司法書士の業務を遂行することは,現実的には困難であることから,通常は,復代理人を選任(民法第104条)して,当該復代理人である司法書士が業務を行うことになるであろう。
なお,成年被後見人がした司法書士の資格に基づく行為は,行為能力の制限によっては取り消すことはできないものと解される(前掲要綱参照)。
(4)委任の終了
司法書士の登録がある者について,成年後見開始の審判がされたときは,既に委任を受けている法律事務は,全て委任関係が終了することになる(民法第653条第3号)。この場合において,委任を受けた法律事務の継続を希望するときは,当該司法書士は,委任者に対して「委任の終了」について通知し,改めて委任契約を締結する等の行為が必要となるものと考えられる。
(5)心身の故障による届出
司法書士が心身の故障により業務を行うことができないおそれがある場合として法務省令で定める場合に該当することとなつたときは、その者又はその法定代理人若しくは同居の親族は、遅滞なく、当該司法書士が所属する司法書士会を経由して、日本司法書士会連合会にその旨を届け出るものとされた(改正後の司法書士法第16条第2項)。成年後見人は,法定代理人として届出義務を負うことになる。
※ 法務省令については,未だ明らかにされていない。
(6)廃業
司法書士は,いつでも,その業務を廃止して,登録の抹消を申請することができる。この場合の申請(退会の届出)は,成年被後見人及び成年後見人のいずれもすることができると考えられる。
cf.
平成30年3月22日付け「司法書士法の一部改正(欠格条項の見直し関係)」