tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

困った「働き方改革思想」の独り歩き

2023年06月17日 14時34分46秒 | 労働問題
「働き方改革」という政府の方針が出て、日本と文化社会の在り方が全く違う欧米流の「働き方」が一方的にいいものだという浅薄な理解が、日本の職場で働く日本人に適用されるようになり大迷惑の企業が多いようです。

はっきり言って日本の文化・社会の基本には、常に「人間中心」の思想があり、人間の作る社会、人間の作る文化ですから、常に人間を主体にし、人間を大切にすることが基本と考える事が基本になっています。

これに対して、欧米の文化は、人間を場合によっては(主要人物以外は)主体ではなく目的のために使う手段として考える思想が残っているようです。

恐らくこれは奴隷制が一般的だった歴史的な文化の残滓なのでしょうから、縄文時代から奴隷制の無かった日本の文化の中では発想されない思想なのでしょう。

例えば、企業は日本では人間集団で、中の人間が協力して役割を担うという形が一般的です。具体的には、仕事を決めずに人物本位の新卒一括採用という考え方です。
仲間が集まった、みんなで一緒に仕事をしようというのが企業です。

欧米では、企業というのは多様な職務を組み合わせた組織であり、それぞれの職務に適した人間を採用するという形で、職務の必要に応じた随時の採用が普通です。
船の漕ぎ手が何人必要、荷物の運搬に何人必要、その分奴隷を集めよ。昔の話ですが。

生産活動の要素は「人間と資本」と経済学は言います。日本では、なるべく「生産活動は人間が資本を使って行う」というべきでしょう。

属人給中心の日本に「ジョブ型賃金」(昔の職務給)を導入せよというのが安倍政権以来の「働き方改革」の基本ですが、誰か欧米流こそが合理的と思い込んでしまって、日本流の、常に人間が主体という理解を欠いたアドバイザーがいるのでしょうか。

その問題が、今度は退職金制度に飛び火してきたようです。
退職金制度というのは、わが社に加わった人間は、わが社で教育し、出来るだけ長くその成果でわが社に貢献してほしい、それが本人にとってもわが社にとっても最も効率的な人間能力の生かし方ではないか、という考え方に由来するものです。

従って、勤続が長くなるほど有利になるのが退職金制度設計の原則です。
ところが昨16日に岸田政権が閣議決定した「新しい資本主義」の実行計画では、企業が定める退職事由による退職金格差、自己都合では低くなるという決め方は見直しが必要とするようですし、税制で長期勤続を支援する20年勤続以降の税控除の優遇の見直しが盛り込まれているとのことです。

理由はともに、労働移動の円滑化を阻害するという、日本の文化社会の在り方とは異なる欧米流の職務中心の考え方から来ることのようです。

矢張り基本的のおかしいのは「労働移動がしやすいのがいい働き方」という欧米流の企業中心、人間は企業繁栄の手段という日本文化と真反対は思想に従ったものです。

政府は転職してより良い仕事について高い賃金を得ることが良いという固定観念のようですが、現実は転職して賃金が上るというのは一部の能力の高い人の話で、大多数の人は、慣れた企業で慣れた仕事で腕を上げベテラン社員になって、人事異動はあっても安定した雇用、それなりの賃金、優遇された退職金を得て、その後は慣れた仕事で再雇用というのが最も望ましい職業人生でしょう。所謂豊かな中間層というのはこういう人達でしょう

それなのに、多くの企業が困るようなことを政府が考えるのも、どうも「異次元少子化対策」の財源探しの一環という事もあるようです。「働き方改革」という見当違いの政策がそこまで影響するというのも困った事ですね。
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多くの従業員の声を聴けば、「辞めようと思えばいつでも辞められるよ。転職して給料が2割ぐらい上がるチャンスがあれば、考えるかもね。でも、俺の場合、そんなチャンスは、滅多になさそうだね」とのことです。