夏休み読書ウィーク・・・今回は、ちょっとお固めで重たい国家と歴史の本。
文庫本ながら541ページあります。
経営学者が書いた一冊です。
文庫本ながら541ページあります。
経営学者が書いた一冊です。

なぜ大国は衰退するのか 古代ローマから現代まで
グレン・ハバード&ティム・クライン著 久保恵美子訳
日経ビジネス人文庫刊 日本経済新聞出版社 1200円+税
著者のハバードさんは、米コロンビア大学ビジネススクールの院長、ケインさんはハドソン研究所主席エコノミスト。
大国の興亡を、国の経済力、軍事力、財務などの分析から明らかにしていく試みです。
先行研究ではエール大学のポール・ケネディ教授の「大国の興亡」がありますが、今回の一冊はエコノミクスやファイナンスの視点から世界史を俯瞰していきます。
ローマ帝国やオスマン帝国、中国や日本、大英帝国やカリフォルニア州などを取りあげています。
面白かったのが、スペイン帝国の話。
第6章の「スペインの落日」では、超大国まであと一歩だったスペインの歴史が綴られています。
コロンブスの新大陸の発見・・・と言っても先住民はいたわけですが・・・。
ピサロなどによる原住民の虐殺や文化の破壊、宝物の略奪・・・中南米で掘り出した銀はスペイン王室、スペイン帝国の経済を大きく拡大。
しかしながら、当時のスペインには、生産性の概念や人的資源の重要性認識がなく、銀を湯水のように費消、そして欧州での銀の飽和により、その価値が低下、それとともにスペインの国力が低下していったというストーリー。
フランスとの戦争で多額の軍備費を使い、産業育成や殖産に、大陸の銀で得られた利益を投資しなかったために、超大国になれななかったというものです。
宝くじを当てた人や株や投機で大儲けをした人が、落ちぶれていくのと同じパターンです。

また、第8章の「日本の夜明け」では、碁の手筋、ジョン万次郎などの話が出てきて面白いです。
国家管理型、輸出主導型のジャパンモデルを称賛、そのモデルが中国を初めてするアジア諸国でも花開いたことに言及しています。
ただ、失われた20年と言われる経済の停滞・・・。
著者たちは、起業家精神とイノベーション、そして、小規模なベンチャー企業に開かれた制度の導入が必要であると指摘しています。
著者たちは、起業家精神とイノベーション、そして、小規模なベンチャー企業に開かれた制度の導入が必要であると指摘しています。
◆衰退の概要
大国・・・日本
転換点・・・1994年
経済的不均衡・・・財政面、構造面
政治的な原因・・・特定利益集団や中央集権的な官僚制に比べて脆弱な民主制
行動面での機能不全・・・新重商主義を経済成長策とするヒューリスティック、大規模な銀行や企業による損失回避
この本は、歴史、経済、経営を中心にまとめられていますが、リベラルアーツとして、とても優れた考察だと思います。
エンタイトルメント国家というコンセプト・・・社会福祉と国家財政のバランスの重要性を指摘しています。
同書の原題は、「BLANCE」。
このバランスが崩れた時に、国は衰退の道を辿ることになります。
目次
第1章 序章 米国の存亡に関わる脅威とは財政問題である
第2章 大国の経済学
第3章 経済的行動と制度
第4章 ローマ帝国の没落
第5章 中国の宝
第6章 スペインの落日 超大国まであと一歩だったスペイン
第7章 奴隷による支配 オスマン帝国のパラドックス
第8章 日本の夜明け 手筋「アジアの奇跡」 新たな布石
第9章 大英帝国の消滅
第10章 ヨーロッパ 統一と多様性
第11章 カリフォルニア・ドリーム
第12章 米国に必要な長期的視野
第13章 米国を改革する

ローマ帝国やスペイン帝国、日本などの教訓から、著者は7つの教訓を導いています。
大国の歴史の教訓
1.何事も必然ではない
2.人はみな同じ人間である。
3.脅威は内部に存在する。
4.無知は究極の限定である。
5.政府は最も危険な「派閥」である。
6.損失回避は革新を脅かす。
7.小さくなりすぎることは大きくなりすぎることよりも脅威である。
やっぱり、読書は楽しい・・・同書では、それが体感できる優れ本です。
地理的には世界中を飛び回ることが出来、歴史的には紀元前から現代までの時間軸をタイムトラベルすることが出来ます。
夏休み、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
