2020/08/03
若年性認知症の患者数は少子化で減少した
若年性認知症患者数は全国で約3万5,000人と推定される
7月27日、独立行政法人である東京都健康長寿医療センターは「若年性認知症」に関する調査結果を公表。
国内の若年性認知症者が約3万5,700人と推計されたほか、18歳から64歳までの人口10万人当たりの若年性認知症の有病率が約50.9人であることが判明しました。
この調査は、2017年度から2019年度に日本医療研究開発機構(AMED)の認知症研究開発事業として、東京、大阪、北海道などにある認知症患者が利用する医療機関、介護事業所や相談機関などの施設を対象に行われたものです。
認知症の原因となる疾患別でみると、アルツハイマー型認知症が52.6%と全体の半分以上を占めて最多。次いで血管性認知症の17.1%、前頭側頭型認知症の9.4%が多くなっています。
同様の調査は2006年から2008年にかけても行われており、この際は患者数が3万7,800万人、18歳から64歳人口10万人あたりの有病率は47.6人で、最も多い原因疾患は血管性認知症でした。この変化について、同センターでは若年性アルツハイマー型認知症に対しての周知が進み意識が高まったことや、診断精度が向上したことが原因ではないかと分析。
今後は就労状況に応じた支援などを充実させ、適切なサービスを提供する必要があるとしています。
日本の人口は14年で約52万人が減少した
上の調査では、若年性認知症の有病率が増加している一方で患者数自体は減少。東京都健康長寿医療センターでは、こうした背景には少子化が関係していると分析しています。
厚生労働省が6月に公表した『令和元年(2019)人口動態統計』によると、1人の女性が生涯で産む子どもの数を表す合計特殊出生率は1.36となり、4年連続で低下していることが判明。出生数も2016年に100万人を割って以来、連続で減少し、86万5,234人となっています。
この影響で、出産数と死亡数の差である自然増減についても、2005年にはじめて減少に転じてからほぼ毎年減り続けており、2019年には51万5,864人の自然減です。
さらに、総務省統計局の公表している資料によると、2019年10月時点での15歳から64歳の人口(生産年齢人口)は7,507万2,000人。これは前年に比べて37万9,000人の減少となり、割合も59.5%と過去最低になっています。
前回の調査が行われた2008年10月時点での生産年齢人口8,230万人と比較すると、そもそもこの人口自体が減っていることになるのです。
若年性認知症で生活が大きく変わってしまうケースが多い
若年性認知症とは65歳未満の人がなる認知症
若年性認知症とは、認知症を65歳未満で発症した場合を指します。18歳から39歳までに発症した場合は「若年期認知症」、40歳から64歳までに発症した場合は「初老期認知症」と区分されています。
若年性認知症の特徴としては、高齢者の認知症で多数を占めるレビー小体型認知症の割合が少なく、代わりに血管性認知症や、前頭側頭型認知症が多くなっていることが挙げられます。
また、通常の認知症では女性の方が多いのに対して、若年性認知症では男性の方が多いというのもひとつの特徴でしょう。
発症後に約8割の人が失職している
2014年に認知症介護研究・研修大府センターが、15府県に若年性認知症患者2,129人を対象とした調査によると、発症後に自分から仕事を辞めた人が66.1%であったほか、解雇や休職も含めると実に78.3%の人が職を失っており、発症後も仕事を続けられた人は11.4%に留まっています。
この調査では、家計状況についての質問もなされており、「とても苦しい」「やや苦しい」という回答が全体の4割を占めました。
今年の3月に埼玉県福祉部地域包括ケア課が発表した報告書でも、同様の調査で発症後に自ら退職したという人は46.6%と最も多く、続いて解雇されたという人が11.9%、定年で退職したという人が10.2%。発症前と同じ職場で働いているという回答は1.7%であるのに比較すると、非常に多くなっています。
このように職を持って働いている現役世代が認知症を発症すると、業務に支障を抱えたり、職を失ったりすることで経済的な困難が発生しやすいという側面があります。加えて、親の介護とタイミングが重なったり、自分の子どもに大きな影響を与えたり、生活へ影響しやすいことも問題なのです。
支援制度の周知が今後の課題に
埼玉県では5割が支援制度を活用せず
若年性認知症への支援策については、周知が進んでいないことが判明しています。
認知症と診断された場合、精神障害者保健福祉手帳の対象となるため、障がい者雇用枠での採用が可能となるほか、税金や公共料金の軽減など、さまざまなサポートを受けることができます。しかし、前述の埼玉県の調査では、若年性認知症を発症した人のうち、精神障害者保健福祉手帳を取得した人は50.6%と、全体の半分に留まっていることがわかりました。45.5%の人がそもそも申請をしていなかったのです。
また、手帳の取得申請をしていない人を対象としたアンケートでは、「制度について知らない」という回答が61.0%を占めて最多です。次いで「必要を感じない」が21.9%、「利用したいサービスがない」「家族がいるから大丈夫」との回答がともに2.9%となっていました。
また、2015年に認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が策定された際、「若年性認知症支援コーディネーター」を都道府県ごとに若年性認知症の相談窓口として配置することになりました。埼玉県では2017年から配置していますが、これについても「知らなかった」「知っていたが相談しなかった」という回答が77.9%と8割近い数字となっており、周知が進んでいないことが明らかとなっています。
情報共有の場づくりなど支援は拡大している
こうした状況の中、各自治体や市民団体が主導し、若年性認知症やそのサポートについて周知する動きが広がりつつあります。以下は、その一例です。
石川県金沢市
昨年、自治体と有志グループである「若年性認知症の人と家族と寄り添いつむぐ会」が共同で、「応援団プロジェクト」を開始。患者たちの集いの場となる「若年性認知症カフェ」などの活動にも取り組んでいる
神奈川県小田原市・箱根町・湯河原町・真鶴町
1市3町が協力し、地域住民や企業などへの周知や啓発活動のほか、「フレンドシップカフェ」という金沢市と同様の集いの場を開催
神奈川県相模原市
ボランティア団体「じゅりの会」が、若年性認知症に関する周知を強化する活動を行っているほか、患者や家族の情報交換をはじめとした交流の場づくりに取り組んでいる
今後もこうした活動によって、若年性認知症への正しい知識の普及や、患者への支援の拡充が望まれます。
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